僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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 僕はライティング学科が設置された、関西にある芸術大学への進学を目指すことに決めた。
 同名の学科を設けている大学の総数が少なく、その学科の存在自体や名称が一般的なものなのかは分からない。一言でいえば、書くことを学ぶための学科。大学のウェブサイトで紹介されていた授業内容を精査し、今現在の自らの書く力を考慮した結果、その選択がベストだと判断したのだ。

 書くことについて学びたい。
 レイのアドバイスが引き金となって芽生えた目標。叶えるためには大学に進学するしかないと、自ずと方向性は定まった。「書く」ことなのだから、芸術系。それについて学べる学校には詳しくないから、文明の利器に頼るしかない。ただ、僕はインターネットを利用できる機器は所有していないので、

「父さん、パソコン貸してくれない? 少しのあいだだけ。ネットで進路について調べたいんだ」
 夕食時にそう切り出した。今日も相変わらずうるさい小言を紳士的に断ち切るように。

「ああ、いいよ。夕食が終わっても、父さんは三十分くらいは部屋に戻らないようにするから、お前が使いたいように使うといい。起動のさせかた、分かるか? 分からないことがあるならお父さんが教えるから、訊きにきなさい」
 父親は困惑しながらも申し出を了承した。渋々とではなく、好意的に。高校を中退して以来自室にこもりがちな息子が、自らの進路の選定に前向きな姿勢を示したのだから、保護者としては首を横には振れないだろうと踏んでいたが、読みは的中したわけだ。

 父親の助けもあり、パソコンは無事に起動した。「これは」という単語を打ちこんで検索してみる。比較検討した結果、いくつかの芸術大学が設けていたライティング学科がよさそうだったので、受験してみることにした。
 いずれも実家から通える圏内にキャンパスはなかったので、関西圏にある芸大を第一志望とした。関東圏にある二校は第二志望と第三志望だ。

 進路についての話は、パソコンを使い終わったと父親に報告したさいに伝えた。父親は、今度は驚いていた。三十分足らずで、今まで決まらなかったことが決まったのを不審がったので、実はすでに方向性はおおむね決めていて、最終判断を下すためにネットで情報を収集した、と説明した。

 書くことを学びたいという僕の意思に、父親は意外そうな顔をした。その技能を高めることが将来なんの役に立つのかという、彼らしいつまらない指摘に対しては、再びパソコンを起動させて大学のウェブサイトを開き、小説家を養成するというよりも、あらゆる職種に活かせる文筆関係の技量を高めるのが目的の学科で、大手出版社に就職した卒業生も多数いて――といった、大人に受けそうな、父親に刺さるような説得の言葉を羅列した。
 父親は僕の意見の正当性というよりも、今までとは見違えるような殊勝な態度に心を動かされて、僕の意思を尊重してくれたように思う。私立大学の高い学費にも、私立高校の高い学費をドブに捨てた前科にも触れず、「卒業まで責任をもって通いつづけて、留年はしないと約束するなら、学費は出す」と明言した。

「ありがとう」
 久しぶりに父親に向かって感謝の言葉を口にして、自室に戻った。そして、夕食後に半時間ほどゲームで遊ぶ習慣を無視して、学習机に向かった。
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