ここはラガヌム星

阿波野治

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十一

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「お父さんは、野中くんに厳しいの?」
 その質問には、俯きっぱなしだった顔を持ち上げさせる力があった。スターリンは心細そうな、困ったような、同情してみせるような、複雑怪奇な表情を拓真に向けている。
「こうしろ、ああしろって、命令するような言い方をするのかな。頭ごなしに。野中くんはあまりしたくないことを、無理やりさせようとするのかな」
 拓真は泣きそうになった。答えられる質問は答えなければという思いのもとに、首を縦に振った。

「拓真」
 我に返って振り向くと、いつの間にかテーブルのかたわらに彼の両親が並んで立っていた。
 その姿を一目見た瞬間、息を呑んだ。


***


『☆ひみつメモ☆
 名前 ラガヌム星人
 目的 地球人をさらう。強制労働をさせるため。
 外見 人型。地球人よりも大きく、その姿は』


***


「なんだ、これ……」
 メモ用紙を手に拓真は呟いた。
 筆圧が弱いが弱すぎず、直線的なのに柔らかなこの筆致は、姉が書いたもので間違いない。
 ただ、なぜ、拓真が暮らすアパートに置かれているのか。施錠したはずの室内の、ベッドのヘッドボードの上に。……姉に部屋の合鍵は渡していないのに。

 なんらかの方法で侵入を果たしたとして、姉さんが僕になんの用だ?
 不登校を経験して以来人嫌いが加速し、家族ですら最小限のコミュニケーションしかとらなくなった僕。
 対するは、生まれつきの変人で、自分が興味のある人物事象にしか興味を示さない姉さん。弟は単なる家族の一人、歳が近い年下の同居人として認識し、付き合ってきた人。
 そんな僕たちが、こんな特殊な形で交わるなんて。
 姉が姉らしく気まぐれを起こしたわけではないなら。なにか明確な理由があるのだとすれば。

「……小説?」
 小説家を志す弟のために、創作に役立ちそうなアイディアをメモに残したのでは?
 拓真が入学したのは、芸術大学。選択したのは、文芸学部の創作文芸学科。小説を書くノウハウを学びたかったから、その大学の、その学部の、その学科を選んだ。
 彼の一歳上の姉は、一年早く芸術大学に入学した。絵を描く技術を学ぶために、大阪の芸術大学に。
 これまでは機会を作りたくても作れなかったけど、このメモをきっかけに、姉さんと芸術談義を交わせないだろうか?

 具体的な方策について思案を巡らせようとして、「ラガヌム星人」の六文字が引っかかった。
 外見についての説明書きは、紙が破れていて読むことができないが、拓真は「星人」という言葉から触手を連想した。
 姉がかつてスケッチブックに描いていた絵の中に、たしか両腕が触手になった異形があったはず。
「もしかして、あれがラガヌム星人……?」
 スケッチブックに描かれていたラガヌム星人を見たことが、僕が小説家を志したきっかけだったのでは、と拓真は思った。

 直後、背後から気配を感じた。
 汗腺という汗腺から汗が噴出した。首から上だけを回して振り向く。
 戸口に異形が佇んでいる。既視感を覚えるような、純然たる未知に遭遇したかのような、名状しがたい感覚が拓真を包む。異形は音割れをした声で言った。
「拓真、あんた、こんなところでなにやってんの?」
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