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妻よ。
お前があちらの世界へ行くなんていう面倒なことになって、住む世界が別々になったことでいろいろと弊害が出てきて、俺の中でのお前の地位は、残念ながら下がった。最盛期よりも確実に低下した。あちらの世界へ行ったのは、恐らくお前の意志による決断ではないだろうから、お前にはなんの責任はない。だからこそ、お前からすればさぞかし納得がいかないだろうが、それは揺るぎない事実だ。
しかし、妻よ。
それでも、俺にとっての一番はお前なんだ。榊さんが最大瞬間風速を記録したさいには抜かれることもある、というだけの話であって、そう回数は多くないし、抜いている期間もそう長くはない。お前がナンバーワンという評価は揺らぎはしたが、根底から覆されたわけではない。それも事実だ。
だがな、妻よ。
俺も人間だ。そして男だ。三十を過ぎたらオッサンだ、なんてお前は言うけどな、三十歳未満の人間から見ればそうだという話に過ぎない。平均寿命の半分にも達してないうちは、本当の意味でオッサンじゃないんだ。
厳然たる事実として、俺の性欲は衰えていない。女を求める気持ちも同様だ。お前が健在だった時代はお前一人で問題なく満足できていたが、いなくなってからは抑えがきかなくなってきているんだよ。俺なりに適切に対処してきたつもりだが、そろそろ限界だ。
言い訳がましくてまどろっこしい言い方だ? 俺としてはそのつもりはなかったんだが、客観的に見ればその通りかもしれない。誰だって、想いを洗いざらいぶちまけるからには、己の言い分の正当性を認めてもらいたいからな。しかし、お互いに回りくどいのは好きじゃないようだから、単刀直入に言おう。
俺は生身の女とセックスがしたいんだ。心から好きと思える女と、俺はやりたいんだよ。
セックスなら風俗で定期的にしているじゃないか? それはその通りなんだが、妻よ、俺のセリフを思い返してくれ。さっき吐いたばかりのセリフだ。心から好きと思える女とやりたい。そう言ったはずだ。
商売女は客に尽くしてくれる。おおむね綺麗で、かわいくて、異性の目から見れば魅力的だ。万単位の金を払うだけの価値はあったと納得できる女たちだ。
だが、納得できても俺は好きじゃない。金儲けのためと割り切って股を開く女たちを俺が好きになることは、残念ながら、最後の審判の日が来ても有り得ない。職業差別をしているんじゃないぜ。厚化粧の女はそそられないとか、低身長の男は嫌だとか、そういう意味での「好きじゃない」だ。
まだまどろっこしいかな。今まで自覚はなかったが、弁明をするとなるとその傾向が現れるタイプなのかもしれないな、俺は。くり返しになるが、回りくどいのは好きじゃない。俺も、お前も。だから単刀直入に言おう。
俺は榊さんとやりたいんだ。
あんないい女、そう簡単には見つからない。顔は、語彙が貧困だからしっくりくる表現を見つけられないが、観測者が誰であっても、一目見た瞬間に美人だと認定するレベルの美貌の持ち主なのは間違いない。胸はいささか控えめだが、それに目を瞑れば、ルックス面で欠点らしい欠点は見当たらない。性格も右に同じだ。話し出すと止まらないのも、視点を変えれば長所ともいえる。女としての魅力度でいえば、贔屓目を抜きにすれば、お前ではなく榊さんに軍配が上がるかもしれない。
なによりも好ましいのは、年齢相応の――といっても何歳なのかは知らないが――落ち着きが感じられ、それでいて若さを失っていないことだ。年齢の割に若く感じるのはお前も同じだが、お前は「子供っぽい」で、榊さんは「若々しい」。ポジティブな意味しかない「若い」だ。顔、雰囲気、仕草、発言、全てにおいて榊さんからはその要素が感じられる。旅行好きという、アクティブな趣味を持っているからそう感じるのだろうか? 俺は自他ともに認める怠惰な人間だし、妻よ、お前は時と場合によっては目を瞠るような行動力を発揮するものの、だらけるときはとことんだらけるタイプだから、相対的に美点がより美しく見えるのかもしれない。
若い女は、いい。子供っぽい女は一緒に馬鹿をやりたくなるが、若々しい女は虐めたくなる。
セックスの方はどうなのだろう? 奥手なのか、経験豊富なのか。どちらであっても榊さんらしいと思えるし、そそる。どこにどう刺激を加えるとどんな反応を示すのか、一晩かけて隈なく確かめたい。汗まみれになって睦み合いたい。
ああ、やりてぇ。
榊さんとセックスができたら、どんなに幸せだろう。
明日は、今度こそ米津国際美術館へ行く日だというのに、眠れないままただ時間だけが過ぎていく。
お前があちらの世界へ行くなんていう面倒なことになって、住む世界が別々になったことでいろいろと弊害が出てきて、俺の中でのお前の地位は、残念ながら下がった。最盛期よりも確実に低下した。あちらの世界へ行ったのは、恐らくお前の意志による決断ではないだろうから、お前にはなんの責任はない。だからこそ、お前からすればさぞかし納得がいかないだろうが、それは揺るぎない事実だ。
しかし、妻よ。
それでも、俺にとっての一番はお前なんだ。榊さんが最大瞬間風速を記録したさいには抜かれることもある、というだけの話であって、そう回数は多くないし、抜いている期間もそう長くはない。お前がナンバーワンという評価は揺らぎはしたが、根底から覆されたわけではない。それも事実だ。
だがな、妻よ。
俺も人間だ。そして男だ。三十を過ぎたらオッサンだ、なんてお前は言うけどな、三十歳未満の人間から見ればそうだという話に過ぎない。平均寿命の半分にも達してないうちは、本当の意味でオッサンじゃないんだ。
厳然たる事実として、俺の性欲は衰えていない。女を求める気持ちも同様だ。お前が健在だった時代はお前一人で問題なく満足できていたが、いなくなってからは抑えがきかなくなってきているんだよ。俺なりに適切に対処してきたつもりだが、そろそろ限界だ。
言い訳がましくてまどろっこしい言い方だ? 俺としてはそのつもりはなかったんだが、客観的に見ればその通りかもしれない。誰だって、想いを洗いざらいぶちまけるからには、己の言い分の正当性を認めてもらいたいからな。しかし、お互いに回りくどいのは好きじゃないようだから、単刀直入に言おう。
俺は生身の女とセックスがしたいんだ。心から好きと思える女と、俺はやりたいんだよ。
セックスなら風俗で定期的にしているじゃないか? それはその通りなんだが、妻よ、俺のセリフを思い返してくれ。さっき吐いたばかりのセリフだ。心から好きと思える女とやりたい。そう言ったはずだ。
商売女は客に尽くしてくれる。おおむね綺麗で、かわいくて、異性の目から見れば魅力的だ。万単位の金を払うだけの価値はあったと納得できる女たちだ。
だが、納得できても俺は好きじゃない。金儲けのためと割り切って股を開く女たちを俺が好きになることは、残念ながら、最後の審判の日が来ても有り得ない。職業差別をしているんじゃないぜ。厚化粧の女はそそられないとか、低身長の男は嫌だとか、そういう意味での「好きじゃない」だ。
まだまどろっこしいかな。今まで自覚はなかったが、弁明をするとなるとその傾向が現れるタイプなのかもしれないな、俺は。くり返しになるが、回りくどいのは好きじゃない。俺も、お前も。だから単刀直入に言おう。
俺は榊さんとやりたいんだ。
あんないい女、そう簡単には見つからない。顔は、語彙が貧困だからしっくりくる表現を見つけられないが、観測者が誰であっても、一目見た瞬間に美人だと認定するレベルの美貌の持ち主なのは間違いない。胸はいささか控えめだが、それに目を瞑れば、ルックス面で欠点らしい欠点は見当たらない。性格も右に同じだ。話し出すと止まらないのも、視点を変えれば長所ともいえる。女としての魅力度でいえば、贔屓目を抜きにすれば、お前ではなく榊さんに軍配が上がるかもしれない。
なによりも好ましいのは、年齢相応の――といっても何歳なのかは知らないが――落ち着きが感じられ、それでいて若さを失っていないことだ。年齢の割に若く感じるのはお前も同じだが、お前は「子供っぽい」で、榊さんは「若々しい」。ポジティブな意味しかない「若い」だ。顔、雰囲気、仕草、発言、全てにおいて榊さんからはその要素が感じられる。旅行好きという、アクティブな趣味を持っているからそう感じるのだろうか? 俺は自他ともに認める怠惰な人間だし、妻よ、お前は時と場合によっては目を瞠るような行動力を発揮するものの、だらけるときはとことんだらけるタイプだから、相対的に美点がより美しく見えるのかもしれない。
若い女は、いい。子供っぽい女は一緒に馬鹿をやりたくなるが、若々しい女は虐めたくなる。
セックスの方はどうなのだろう? 奥手なのか、経験豊富なのか。どちらであっても榊さんらしいと思えるし、そそる。どこにどう刺激を加えるとどんな反応を示すのか、一晩かけて隈なく確かめたい。汗まみれになって睦み合いたい。
ああ、やりてぇ。
榊さんとセックスができたら、どんなに幸せだろう。
明日は、今度こそ米津国際美術館へ行く日だというのに、眠れないままただ時間だけが過ぎていく。
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