わたしといっしょに新しく部を創らない?と彼女は言った。

阿波野治

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ピンクの財布と水色のショーツ

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「……始まっちゃったな、授業」
「ごめんね、二回も痛い思いをさせちゃって。怪我はない?」
「ないよ。二回目は痛くなかったし」
「二回目?」

 女子生徒はきょとんとした顔で首を傾げる。あんな破壊力のあるものを持ちながら、凶器だという自覚がないとは……。ていうか、小首を傾げる仕草、かわいいな。

「まあ、その話はいいよ。こっちはなんともなかったんだから。あんたこそ、怪我はないの」
「うん、ないよ。心配してくれてありがとう。優しいんだね!」

 どこか子どもっぽい、晴れやかな笑みが灯る。感情が素直に顔に出るタイプ、なのかもしれない。素直に感情を表に出すタイプではない俺は、ぎこちなく微笑み返して、照れ隠しに頬を指でかいた。

「あのさ、一つ疑問があるんだけど」
「ん? なに? やっぱりどこか怪我してるとか?」
「違う、違う。……あんた、なんであんなに急いでたの? 互いに走っていたせいでぶつかったわけだけど、あんたは教室と反対方向に向かっていただろう。もうすぐ授業が始まるっていうのに、どこへ行こうとしていたんだ?」
「……うん。実はね、落し物をしたことにさっき気がついたから、探そうと思って」

 女子生徒は笑顔から一転、眉を八の字にして答えた。

「授業が終わってから探すのはだめなの? そんなに大事なものなんだ」
「お財布なんだけど、たくさんお金が入ってるし、定期も入ってるし。たしかに、回収するのは授業のあとでもいいかもしれないけど、手元に置いておかないと落ち着かないっていうか」
「まあ、そうだよな。……手伝おうか? 探すの」
「えっ、いいの?」
「ああ。どうせ授業には間に合わないし、事情を知っちゃった以上は放っておけないよ」
「本当に? ありがとう! 優しいんだね!」

 再び、無邪気な笑みが女子生徒の満面に広がった。一秒前まで沈痛な面持ちだったのが嘘のようだ。
 最初に笑顔を見たときも思ったが、この子は笑っている顔の方が似合っている。心の底から笑ってもらうためなら、財布探しを手伝うことくらい、苦痛でもなんでもない。

「どこに落としたのか、見当はついてるわけ?」
「うん、だいたいの場所は。ついてきて!」

 俺は女子生徒とともに校舎を出た。


*


 女子生徒が向かったのは、旧校舎の裏手。
 旧校舎は木造二階建ての建物で、現在は使用されていない。日陰になっていて、暗くて、じめじめしていて、できれば近づきたくない場所だ。

「なんでこんなところに落としたの? 用なんてなさそうなのに」
「探検、してたから」
「探検? 本当に? なんか怪しいなぁ」
「とにかく、そういうことにしておいて。ピンクの財布だから、見つけやすいとは思う」
「ピンク色ね。了解」

 雑草をかき分けながら探したが、ない。どこにもない。そう深く生い茂っているわけではないのだが……。探す場所が悪かったのだろうか?

「おーい、そっちはどう?」

 女子生徒が探している方を向いて、俺は息を呑んだ。彼女は四つん這いになって、植え込みに上半身を突っ込んで探していたのだが、水色のショーツが丸見えになっているのだ。スカートの裾が枝に引っかかっているが、本人はそれに気がついていないらしい。

「まだ見つからないけど、このあたりで落としたはずだから、探せば見つかると思う」
「……そっか。俺も見つからないから、いっしょにそっちを探してみるよ」

 彼女のもとまで駆けつける。有限不実行、手は貸さない。露わになっているものをまじまじと見つめる。肉がつきすぎず、痩せすぎてもいない。とても柔らかそうで、理性を振り切って鷲掴みしたくなる。なんというか、いい尻だ。

「あっ、あった!」

 突然、歓声が上がった。女子生徒が植え込みから上半身を引っこ抜いたので、慌ててショーツから視線を逃がす。女子生徒は動物じみた素早さで立ち上がると、誇らしげに右手を突き上げた。その手には、彼女の髪の毛と同じ色の財布が握りしめられている。

「無事に見つかって、よかったよ。俺は役に立っていない気もする、っていうか、明らかに役に立ってないけど」

 下着をまじまじと見つめただけで。

「ううん。寂しい場所だから、一緒にいてくれるだけでも心強かった。ありがとう!」
「どういたしまして」

 ろくなことはしてないくせに、この子に会ってから何回感謝されてるんだ、俺は。
 でも、かわいい子から感謝をされるのは、悪い気分ではない。
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