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ちょっとした下心、そして約束
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女子生徒の制服の胸のあたりに、何枚かの葉っぱが付着していることに、不意に気がつく。植え込みに上半身を突っ込んでいたせいだろう。
「なあ。胸に葉っぱが……」
「あ、うん」
大きく膨らんだ胸元に視線を落とす。付着した葉っぱを認識したようだが、なんの対応も取ろうとしない。
「ちょっと失礼」
女子生徒との距離を詰め、ボタンへと手を伸ばす。
「えっ……。ちょっと、なにを……」
「葉っぱ。払うから、脱いで」
「手で払えばいいんじゃない?」
「そうしたら、触っちゃうだろ。その、体を――というか、胸を」
服を脱がされたり、胸を触られたりしたくないんだったら、自分で払ってくれ。そう言ったつもりだったのだが、女子生徒はじっとしている。俺に任せるつもりらしい。急に恥ずかしさが込み上げてきた。
「……くそっ」
小さく呟き、ブレザーのボタンを上から順に外していく。指先が震えるくらい緊張した。全て外し終わり、ブレザーを脱がす。
ワイシャツに包まれた胸は窮屈そうで、今にもボタンが弾け飛びそうだ。白い生地を透過して、ショーツと同色のブラジャーに包まれた胸が息づいているのが見える。正確な大きさは分からないが、とにかく大きいの一言だ。片手ではとても掴みきれそうにない。下手したら、両手でも持て余しそうだ。
俺とこの子は今、誰の目も届かない場所で二人きり――。
いつの間にか口の中に溜まった唾を、音を立てないように飲み下し、ブレザーを手ではたく。無心ではたく。全ての葉っぱが落ちたところで返却する。
これでよかったのか? 葉っぱを払い落とすという名目で、ちょっと体に触ってやろうという下心を抱いていたのに、なにもしないままで。
……などと思ったりもしたが、犯罪を犯さなかったのだから、よかったに決まっている。笑顔が素敵で巨乳な女の子と、人気のない場所で二人きりになったからといって、蛮行に及ぼうとするなど狂気の沙汰だ。
「ありがとう。財布を探してもらった上に、こんなことまで」
「いや、もうお礼はいいよ。大したことはしてないんだから」
「そう? 謙虚な人なんだね」
ブレザーをまとい、ボタンを全てとめる。隠れてしまった胸を見て、惜しいな、と思った。
「そういえば、名前、互いに名乗っていなかったね。わたしは東サチっていうの。あなたは?」
「籾山直太郎」
籾山の「籾」は籾殻の「籾」であって、おっぱいを揉むの「揉み」ではない。ただ、どうしてもそちらの「揉み」を連想してしまうので、名乗るとき俺はいつも気恥ずかしい思いをしている。特に、相手が女の子の場合は。しかし目の前の少女・東サチは、
「籾山直太郎くん、か。いい名前だね!」
裏表のない微笑みで満面を彩って、俺の名前に好意的な評価を下してくれた。直太郎なんて平凡な部類なのに、と思うが、かわいい子から褒められると、それだけで嬉しくなる。男なんて単純なものだ。
「ねえ、直太郎くん。探すのを手伝ってくれたお礼がしたいんだけど」
「お礼? いいよ、そんなの」
「じゃあ、ぶつかったお詫び。直太郎くんはなにがいい?」
少しだけでいいから胸を触らせてほしい、という願いがぱっと思い浮かんだが、もちろん口にはしない。
「んー、なんだろう。すぐには思いつかないな」
「じゃあわたしから提案させてもらうけど、お昼ごはんをおごるのはどうかな? 直太朗くんってお昼はどこで食べるの?」
「学食の予定だけど」
「だったら、今日はわたしにおごらせて。そのついでに、いっしょに食べよう。それでいい?」
「ああ、いいよ」
断る理由は特にないし。
サチは「やったぁ」と歓声を上げ、小さくガッツポーズをした。感情を素直に表に出すだけではなく、感情表現に大げさなところがある子なのだ、と気がつく。少々照れくさいが、不愉快ではない。いやむしろ、嬉しい。凄まじく嬉しい。
俺はさっきから、サチの言動に快さを感じっぱなしだ。
多分、俺はサチのことが――。
「じゃあ直太郎くん、急ごう。授業が始まって、もう十分は経っちゃってるよ」
「ゆっくり行くのでよくない? これだけ遅れたら、どれだけ遅れようが同じだろ」
「だーめ! 少しでも早く行った方がいいよ。急ごう!」
サチは走って校舎へ向かう。俺は不承不承、小走りでサチの軌跡を辿る。彼女の体が校舎に消えたのを見届けて、ため息とともに走るのをやめる。
東サチ、か……。
入学早々授業に遅刻という失態こそ演じたが、あんな魅力的な女子と昼食をともにする約束を交わしたのだ。俺・籾山直太郎は、上々の高校生活のスタートを切ったと言えそうだ。
「なあ。胸に葉っぱが……」
「あ、うん」
大きく膨らんだ胸元に視線を落とす。付着した葉っぱを認識したようだが、なんの対応も取ろうとしない。
「ちょっと失礼」
女子生徒との距離を詰め、ボタンへと手を伸ばす。
「えっ……。ちょっと、なにを……」
「葉っぱ。払うから、脱いで」
「手で払えばいいんじゃない?」
「そうしたら、触っちゃうだろ。その、体を――というか、胸を」
服を脱がされたり、胸を触られたりしたくないんだったら、自分で払ってくれ。そう言ったつもりだったのだが、女子生徒はじっとしている。俺に任せるつもりらしい。急に恥ずかしさが込み上げてきた。
「……くそっ」
小さく呟き、ブレザーのボタンを上から順に外していく。指先が震えるくらい緊張した。全て外し終わり、ブレザーを脱がす。
ワイシャツに包まれた胸は窮屈そうで、今にもボタンが弾け飛びそうだ。白い生地を透過して、ショーツと同色のブラジャーに包まれた胸が息づいているのが見える。正確な大きさは分からないが、とにかく大きいの一言だ。片手ではとても掴みきれそうにない。下手したら、両手でも持て余しそうだ。
俺とこの子は今、誰の目も届かない場所で二人きり――。
いつの間にか口の中に溜まった唾を、音を立てないように飲み下し、ブレザーを手ではたく。無心ではたく。全ての葉っぱが落ちたところで返却する。
これでよかったのか? 葉っぱを払い落とすという名目で、ちょっと体に触ってやろうという下心を抱いていたのに、なにもしないままで。
……などと思ったりもしたが、犯罪を犯さなかったのだから、よかったに決まっている。笑顔が素敵で巨乳な女の子と、人気のない場所で二人きりになったからといって、蛮行に及ぼうとするなど狂気の沙汰だ。
「ありがとう。財布を探してもらった上に、こんなことまで」
「いや、もうお礼はいいよ。大したことはしてないんだから」
「そう? 謙虚な人なんだね」
ブレザーをまとい、ボタンを全てとめる。隠れてしまった胸を見て、惜しいな、と思った。
「そういえば、名前、互いに名乗っていなかったね。わたしは東サチっていうの。あなたは?」
「籾山直太郎」
籾山の「籾」は籾殻の「籾」であって、おっぱいを揉むの「揉み」ではない。ただ、どうしてもそちらの「揉み」を連想してしまうので、名乗るとき俺はいつも気恥ずかしい思いをしている。特に、相手が女の子の場合は。しかし目の前の少女・東サチは、
「籾山直太郎くん、か。いい名前だね!」
裏表のない微笑みで満面を彩って、俺の名前に好意的な評価を下してくれた。直太郎なんて平凡な部類なのに、と思うが、かわいい子から褒められると、それだけで嬉しくなる。男なんて単純なものだ。
「ねえ、直太郎くん。探すのを手伝ってくれたお礼がしたいんだけど」
「お礼? いいよ、そんなの」
「じゃあ、ぶつかったお詫び。直太郎くんはなにがいい?」
少しだけでいいから胸を触らせてほしい、という願いがぱっと思い浮かんだが、もちろん口にはしない。
「んー、なんだろう。すぐには思いつかないな」
「じゃあわたしから提案させてもらうけど、お昼ごはんをおごるのはどうかな? 直太朗くんってお昼はどこで食べるの?」
「学食の予定だけど」
「だったら、今日はわたしにおごらせて。そのついでに、いっしょに食べよう。それでいい?」
「ああ、いいよ」
断る理由は特にないし。
サチは「やったぁ」と歓声を上げ、小さくガッツポーズをした。感情を素直に表に出すだけではなく、感情表現に大げさなところがある子なのだ、と気がつく。少々照れくさいが、不愉快ではない。いやむしろ、嬉しい。凄まじく嬉しい。
俺はさっきから、サチの言動に快さを感じっぱなしだ。
多分、俺はサチのことが――。
「じゃあ直太郎くん、急ごう。授業が始まって、もう十分は経っちゃってるよ」
「ゆっくり行くのでよくない? これだけ遅れたら、どれだけ遅れようが同じだろ」
「だーめ! 少しでも早く行った方がいいよ。急ごう!」
サチは走って校舎へ向かう。俺は不承不承、小走りでサチの軌跡を辿る。彼女の体が校舎に消えたのを見届けて、ため息とともに走るのをやめる。
東サチ、か……。
入学早々授業に遅刻という失態こそ演じたが、あんな魅力的な女子と昼食をともにする約束を交わしたのだ。俺・籾山直太郎は、上々の高校生活のスタートを切ったと言えそうだ。
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