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また明日&学級委員長
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「好きなものって誰にでもあるものだよね。部活動になりそうだとか、そういうことはいったん度外視して、ひたすら好きなものを挙げていけばいいんじゃないかな。で、その中から、部活動として成立しそうなものを見つければいい」
気を取り直して、俺はサチにそう提案をしてみる。愕然とするような発言をされた直後の割には、対応は驚くくらい冷静だったと思う。サチがあまりにも頼りないから、俺がしっかりしないと、という意識が働いたのかもしれない。
「うーん、そうだな。わたしが好きなことは――」
サチは考えながら、一つ一つ挙げていく。食べ物、動物、趣味的なこと。サチのことを知るという意味ではよかったが、残念ながら、新しい部活動として成立させられそうな「好き」は一つもなさそうだ。
そうこうしているうちに、双方の食器は空になった。女子には少し多い量にも思えたが、食欲は旺盛らしい。学食内の人口密度が低くなっていることに不意に気がつき、壁にかかった掛け時計を見上げると、
「授業始まるまで、あと五分しかないね。早いな、時間経つの」
「結局出なかったねー、これという案。せっかく直太郎くんにいっしょに考えてもらったのに」
「すぐに見つけるのは難しかったかもしれないね。……もしよければ、引き続き協力してもいいけど」
「本当に? やった! じゃあさ、明日も学食でいっしょにお昼を食べながら、話し合おうよ。今度はおごるのはなしになるけど、それでも構わないなら」
「ああ、いいよ」
「じゃあ、約束ね。指切りしよう!」
サチは小指を突き出してくる。なんか子供みたいだな、と少しためらったが、俺も小指を出す。小指と小指を絡ませ、外国人が握手をしたときのように激しめにシェイク。少しはにかんだような笑みを見合わせて、これで合意が成立した。
「じゃあね、また明日!」
学食を出ると、サチはにこやかに手を振りながら去っていった。俺は手を振り返してそれに応える。ちょっとバカップルっぽいな、なんて思う。
明日も昼食をともにする約束を交わした。今日はアイデアが出なかったが、創部にこぎつけることができれば、昼休み時間だけではなく、放課後の長い時間をともに過ごせる。
どうした。どうしたというんだ、籾山直太郎。順分満帆すぎて、少し怖いくらいじゃないか。
*
「籾山くん!」
いきなり大声で名前を呼ばれて、俺は我に返った。
振り向くと、クラスメイトの葵若菜がこちらを見ていた。箒を握りしめて、眉根を寄せている。
背はやや高く、痩身。天然の黒髪で、前髪はセンターで分け、後ろ髪には空色のリボンを結んでいる。細く鋭い眉と切れ長の目は、いかにも意志が強そうだ。
今朝の授業で学級委員が決められたが、葵はただ一人、自ら学級委員長に立候補していた。高校生活がスタートして今日でまだ二日だが、責任感が強くて気も強い、真面目なしっかり者、というイメージが俺の中では確立されている。
「教室の真ん中で突っ立ってたら、掃除の邪魔。邪魔するくらいなら、いっそ外に出てくれていた方がましなんだけど」
「ごめん。ちょっと考えごとをしていたから」
「考えごと?」
語尾が持ち上がり、眉尻が神経質そうにひくつく。とってつけたような言い訳をするな、さっさと掃除に取りかかれ。そんなお叱りの言葉をぶつけられるのかと思い、心も体も構えたが、
「なにか悩みでもあるの? 私でもいいなら相談に乗るよ?」
「あ……いや、そんなんじゃないんだ。悩みがあるとか、困ったことがあるとかじゃなくて、本当にちょっとしたことを考えていただけだから」
俺は軽く戸惑いながら言葉を返した。どう考えても怒られる場面だったから、まさか心配されるとは思わなかったのだ。ほのかに嬉しい気持ちは、戸惑いが過ぎ去ったあとでやって来た。
葵若菜。注意された瞬間はおっかない人だと思ったけど、なんだよ、優しくて真面目なやつじゃないか。流石は学級委員長に選ばれるだけある。
――などと心の中でひとりごちていると、
「ちょっと! 考えごとをするのはあとにして、クラスの一員として、責任をもって掃除に参加して。何事にも優先順位というものがあるの。高校一年生にもなって、そんなことが分からないの? 分からないふりをしているだけなら、さっさと手を動かす!」
今度は怒鳴られたので、俺は慌てて箒を持った手を動かし始めた。
そんな俺たちのやりとりを見ていた、教室の隅にいた女子のグループは、顔を寄せ合ってくすくすと笑う。葵は目敏くもそれを見つけて、口を動かしている暇があるなら手を動かすように、とその女子たちを厳しく注意した。注意された女子たちの反応は、俺のときとよく似ていた。
前言は半分撤回だ。いいやつだけど、怖いところもある。それが葵若菜という少女なのだ。
でもまあ、単なるいいやつよりもそういう性格の人間の方が、まとめ役としては適任かもしれない。
気を取り直して、俺はサチにそう提案をしてみる。愕然とするような発言をされた直後の割には、対応は驚くくらい冷静だったと思う。サチがあまりにも頼りないから、俺がしっかりしないと、という意識が働いたのかもしれない。
「うーん、そうだな。わたしが好きなことは――」
サチは考えながら、一つ一つ挙げていく。食べ物、動物、趣味的なこと。サチのことを知るという意味ではよかったが、残念ながら、新しい部活動として成立させられそうな「好き」は一つもなさそうだ。
そうこうしているうちに、双方の食器は空になった。女子には少し多い量にも思えたが、食欲は旺盛らしい。学食内の人口密度が低くなっていることに不意に気がつき、壁にかかった掛け時計を見上げると、
「授業始まるまで、あと五分しかないね。早いな、時間経つの」
「結局出なかったねー、これという案。せっかく直太郎くんにいっしょに考えてもらったのに」
「すぐに見つけるのは難しかったかもしれないね。……もしよければ、引き続き協力してもいいけど」
「本当に? やった! じゃあさ、明日も学食でいっしょにお昼を食べながら、話し合おうよ。今度はおごるのはなしになるけど、それでも構わないなら」
「ああ、いいよ」
「じゃあ、約束ね。指切りしよう!」
サチは小指を突き出してくる。なんか子供みたいだな、と少しためらったが、俺も小指を出す。小指と小指を絡ませ、外国人が握手をしたときのように激しめにシェイク。少しはにかんだような笑みを見合わせて、これで合意が成立した。
「じゃあね、また明日!」
学食を出ると、サチはにこやかに手を振りながら去っていった。俺は手を振り返してそれに応える。ちょっとバカップルっぽいな、なんて思う。
明日も昼食をともにする約束を交わした。今日はアイデアが出なかったが、創部にこぎつけることができれば、昼休み時間だけではなく、放課後の長い時間をともに過ごせる。
どうした。どうしたというんだ、籾山直太郎。順分満帆すぎて、少し怖いくらいじゃないか。
*
「籾山くん!」
いきなり大声で名前を呼ばれて、俺は我に返った。
振り向くと、クラスメイトの葵若菜がこちらを見ていた。箒を握りしめて、眉根を寄せている。
背はやや高く、痩身。天然の黒髪で、前髪はセンターで分け、後ろ髪には空色のリボンを結んでいる。細く鋭い眉と切れ長の目は、いかにも意志が強そうだ。
今朝の授業で学級委員が決められたが、葵はただ一人、自ら学級委員長に立候補していた。高校生活がスタートして今日でまだ二日だが、責任感が強くて気も強い、真面目なしっかり者、というイメージが俺の中では確立されている。
「教室の真ん中で突っ立ってたら、掃除の邪魔。邪魔するくらいなら、いっそ外に出てくれていた方がましなんだけど」
「ごめん。ちょっと考えごとをしていたから」
「考えごと?」
語尾が持ち上がり、眉尻が神経質そうにひくつく。とってつけたような言い訳をするな、さっさと掃除に取りかかれ。そんなお叱りの言葉をぶつけられるのかと思い、心も体も構えたが、
「なにか悩みでもあるの? 私でもいいなら相談に乗るよ?」
「あ……いや、そんなんじゃないんだ。悩みがあるとか、困ったことがあるとかじゃなくて、本当にちょっとしたことを考えていただけだから」
俺は軽く戸惑いながら言葉を返した。どう考えても怒られる場面だったから、まさか心配されるとは思わなかったのだ。ほのかに嬉しい気持ちは、戸惑いが過ぎ去ったあとでやって来た。
葵若菜。注意された瞬間はおっかない人だと思ったけど、なんだよ、優しくて真面目なやつじゃないか。流石は学級委員長に選ばれるだけある。
――などと心の中でひとりごちていると、
「ちょっと! 考えごとをするのはあとにして、クラスの一員として、責任をもって掃除に参加して。何事にも優先順位というものがあるの。高校一年生にもなって、そんなことが分からないの? 分からないふりをしているだけなら、さっさと手を動かす!」
今度は怒鳴られたので、俺は慌てて箒を持った手を動かし始めた。
そんな俺たちのやりとりを見ていた、教室の隅にいた女子のグループは、顔を寄せ合ってくすくすと笑う。葵は目敏くもそれを見つけて、口を動かしている暇があるなら手を動かすように、とその女子たちを厳しく注意した。注意された女子たちの反応は、俺のときとよく似ていた。
前言は半分撤回だ。いいやつだけど、怖いところもある。それが葵若菜という少女なのだ。
でもまあ、単なるいいやつよりもそういう性格の人間の方が、まとめ役としては適任かもしれない。
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