わたしといっしょに新しく部を創らない?と彼女は言った。

阿波野治

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新しい部を創ろう!

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「さあ、食べよう。腹が減っては戦はできぬ!」

 いち早く箸を握りしめ、サチは力強く言う。

「戦って、なにと戦うんだよ」
「午後からの授業。それ以外なくない?」
「……ああ、そういうことね」

 意味深なことを言うから、なにか事情でもあると思ったら……。やっぱりサチはいちいち大げさだ。
 いただきます、と声を揃え、俺も箸を手にする。定食の味は、値段の安さを考えれば大満足だ。ボリュームがたっぷりとあるので、その点でも満足がいく。

 食べながら、昨日から始まった高校生活について話す。クラスメイトのこと、授業のこと、今食べている定食のおかずのことと、内容は総じて他愛もない。他愛もないが、サチは一つ一つの話題をさも楽しそうに話すので、こちらまで楽しくなってくる。
 同時に、サチがクラスに馴染んでいるらしいことが分かって、ほっとした気分でもあった。言動が天然というか、風変りなところがあるので、周りから孤立しているんじゃないかと危惧していたのだが、どうやら杞憂だったようだ。

 互いの食器の中は大分少なくなった。話は部活の話題へと移った。

「わたし、無趣味だから、どこに入ろうか凄く迷っているの。運動音痴で体力ないから、体育会系は絶対無理だし。だからといって文化系も、不器用だから、迷惑をかけるかストレスをため込むか、そのどちらかになっちゃうと思うんだよね」
「考えすぎじゃない? あれこれ考えずに入りたい部活に入って、肌に合わないようならやめるみたいな、軽いスタンスでいいと思うけど」
「えー、そんなの嫌だよ。みんなに迷惑をかけるのは心苦しいから、慎重に選びたいっていうか、選ばなきゃだめだと思う」

 力を込めて断言して、定食のメインのハンバーグの切れ端を口に運ぶ。もう少しいい加減というか、猪突猛進というか、当たって砕けろ的な行動を好むタイプだと思っていたので、少し意外だ。

「決めかねているなら、いっそのこと帰宅部でもいいんじゃない。無理に入らなくても」
「でも、せっかくだし、どこかに入りたいよー。訊くの遅れちゃったけど、直太郎くんは部活には入っているの?」
「いや、帰宅部だよ。自慢じゃないけど、生まれてこのかた一回も部活動はやったことないんだ。サチと同じで無趣味だし、その上に面倒くさがりだからね。どこにも所属せずに、気楽に過ごすのが一番だよ」
「面倒くさい? そうかなぁ。友だちを作るきっかけにもなるし、入っておいて損はないと思うんだけど。……うーん」

 サチはあごに片手を添え、首を傾げるという、分かりやすい思案のポーズをとっている。具体的にどの発言に心を揺さぶられたのかは分からないが、異なる意見に出会ったことで、これまでの方針に迷いが生じたらしい。

「なあ、冷めると美味しくなくなるよ。考えるのもいいけど、とにかく食事を――」

 セリフをみなまで言えなかったのは、サチがいきなり思案のポーズを解除したかと思うと、半身を乗り出して俺を見つめてきたからだ。その顔は、真新しい電球を灯したかのように明るい。
 サチの口から飛び出したのは、全く予想していなかった言葉だった。

「直太郎くん、わたしといっしょに新しく部を創らない?」
「は……?」
「直太郎くんは、『あれこれ考えずに入りたい部活に入れば』って言ったよね。わたし、これに入りたいっていう候補はいくつかあるんだけど、一つに絞るとなるとなかなか決められなくて。なんでなのかなって考えてみた結果、どれも決め手に欠けることに気がついたの。不安とか不満とかがちょっとずつあって、三年間ずっとお世話になるのはちょっとどうなのかな、っていう感じなんだ。だったら、不安も不満も覚えなくて済むような、オリジナルの部活動を作っちゃえばいいんだって、たった今気がついたの。……この考え方、変かな?」

 俺は頭を振った。少し不安そうだったサチの表情が、一瞬で笑顔に戻った。

「そっか、よかった! じゃあ、直太郎くんも部員として参加してくれる? 私の部に」
「検討してもいいけど……。でもさ、サチはどういう部活を創ろうとしているの? それを教えてくれないと、流石に入るとは約束できないよ」

 サチははっとしたような表情になった。また考え込むポーズをとったが、今度はすぐに解除して、再び俺を見つめる。そして、こう言った。

「わたし、そういえば、なにがしたいんだろう……」
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