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下校途中で
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「籾山くん!」
一人で下校している途中、後方から呼び止められた。
足を止めて振り向くと、こちらに向かって走ってくる女子生徒の姿が視界に映った。頭の後ろで空色のリボンが激しく揺れている。その距離はぐんぐん縮まり、明らかになったその女子の正体は、
「――葵」
追いついた葵若菜は、両手を膝について肩で息をしている。大げさだな、と思ったが、顔は本当に苦しそうだ。全力疾走で追いかけてきたらしい。
「葵、大丈夫か?」
「うん、もう平気。心配をかけるつもりはなかったんだけど、気づかないまま行っちゃいそうだったから、つい走っちゃった」
上体を起こし、気丈に口角を吊り上げる。うっすらと汗ばんだ顔に微笑みかけられ、鼓動がほんの少し早くなる。得も言われぬ色香を感じたのは、少しでも自分をかわいく見せようだとか、そういった作為が感じられなかったから、だろうか。
「全力疾走して、大声で呼び止めて……。ただごとならぬ感じだけど、俺になんの用?」
「掃除の時間、ぼーっと立ってたでしょ。籾山くんは心配無用って言ったけど、やっぱり心配で」
「え……」
「歩きながら話そう」
促され、肩を並べて歩き出す。
俺のことが心配? ぼーっとしていたのは事実だが、あれはサチが提案した新しい部活について考えていただけ。周りの人間が引くほど憂うつそうな顔をしていたとか、凄まじく困っているように見えたとか、そういうわけではなかったはずだ。葵は、あのときの俺のなにを気がかりに思ったのだろう?
問い質そうとすると、まるで俺の心の中を読んだかのように、葵は言った。
「籾山くんって、なんて言うか、一人で抱え込むタイプのような気がするから。もしかしたら、私に心配させまいとして嘘をついたんじゃないかな、無理してるんじゃないかな、と思って」
「え……そう? 俺、そんなやつに見える?」
「二日間、クラスメイトとして過ごしてみた限りではね。気にしすぎかな、とは思ったんだけど、気のせいじゃなかった場合は困るから、一回声をかけておくことにしたの。学級委員長っていう立場でもあるわけだしね」
俺自身は、自分のことを無理するタイプだと思っていない。葵は心配しすぎだ、と思う。ただ、たかが一介のクラスメイト、掃除の時間に少し話をしただけの関係の男子生徒に対して、下校中に声をかけるという対応を彼女はとった。掃除時間に注意されたときに感じた、真面目さと優しさを再認識すると同時に、彼女の好意をないがしろにしたくない、と思った。
創部のことは、当分二人だけの秘密にしておきたいと、俺自身は考えている。ただ、サチは「誰にも言わないで」と言ったわけではない。生徒でごった返した学食で大声で話していたくらいだから、言う必要があるなら自由にどうぞ、というスタンスのはずだ。
「実は、違うクラスの女子から、新しい部を創りたいって相談されていて」
「新しい部?」
頷き、俺は話し始めた。
ひょんなことから他のクラスの女子生徒と仲よくなり、部活動に入りたいという願望を聞かされたこと。その女子が入りたい部活は、今のところこの学校には存在しないこと。ならば新しい部を創ればいいということで、帰宅部の俺も創部メンバーとして誘われたこと。俺はそれを了承したが、肝心要となる活動内容が現時点では全く見えていないこと。
話している最中に俺が危惧したのは、一種ののろけ話として受け取られるのではないか、ということだ。実際はサチと付き合ってはいないが、男一人と女一人の組み合わせなのだから、俺たちの関係をよく知らない人間であればそう考えてもおかしくないな、と。また、部活動の内容は当事者の間で決めるべきことだから、第三者である自分に相談されても困る、と言われても仕方がないとも思った。
しかし、流石は葵というべきか。俺の心配など余所に、一貫して真剣な顔つきで、頻繁に相槌を打ちながら話を聞いてくれた。
一人で下校している途中、後方から呼び止められた。
足を止めて振り向くと、こちらに向かって走ってくる女子生徒の姿が視界に映った。頭の後ろで空色のリボンが激しく揺れている。その距離はぐんぐん縮まり、明らかになったその女子の正体は、
「――葵」
追いついた葵若菜は、両手を膝について肩で息をしている。大げさだな、と思ったが、顔は本当に苦しそうだ。全力疾走で追いかけてきたらしい。
「葵、大丈夫か?」
「うん、もう平気。心配をかけるつもりはなかったんだけど、気づかないまま行っちゃいそうだったから、つい走っちゃった」
上体を起こし、気丈に口角を吊り上げる。うっすらと汗ばんだ顔に微笑みかけられ、鼓動がほんの少し早くなる。得も言われぬ色香を感じたのは、少しでも自分をかわいく見せようだとか、そういった作為が感じられなかったから、だろうか。
「全力疾走して、大声で呼び止めて……。ただごとならぬ感じだけど、俺になんの用?」
「掃除の時間、ぼーっと立ってたでしょ。籾山くんは心配無用って言ったけど、やっぱり心配で」
「え……」
「歩きながら話そう」
促され、肩を並べて歩き出す。
俺のことが心配? ぼーっとしていたのは事実だが、あれはサチが提案した新しい部活について考えていただけ。周りの人間が引くほど憂うつそうな顔をしていたとか、凄まじく困っているように見えたとか、そういうわけではなかったはずだ。葵は、あのときの俺のなにを気がかりに思ったのだろう?
問い質そうとすると、まるで俺の心の中を読んだかのように、葵は言った。
「籾山くんって、なんて言うか、一人で抱え込むタイプのような気がするから。もしかしたら、私に心配させまいとして嘘をついたんじゃないかな、無理してるんじゃないかな、と思って」
「え……そう? 俺、そんなやつに見える?」
「二日間、クラスメイトとして過ごしてみた限りではね。気にしすぎかな、とは思ったんだけど、気のせいじゃなかった場合は困るから、一回声をかけておくことにしたの。学級委員長っていう立場でもあるわけだしね」
俺自身は、自分のことを無理するタイプだと思っていない。葵は心配しすぎだ、と思う。ただ、たかが一介のクラスメイト、掃除の時間に少し話をしただけの関係の男子生徒に対して、下校中に声をかけるという対応を彼女はとった。掃除時間に注意されたときに感じた、真面目さと優しさを再認識すると同時に、彼女の好意をないがしろにしたくない、と思った。
創部のことは、当分二人だけの秘密にしておきたいと、俺自身は考えている。ただ、サチは「誰にも言わないで」と言ったわけではない。生徒でごった返した学食で大声で話していたくらいだから、言う必要があるなら自由にどうぞ、というスタンスのはずだ。
「実は、違うクラスの女子から、新しい部を創りたいって相談されていて」
「新しい部?」
頷き、俺は話し始めた。
ひょんなことから他のクラスの女子生徒と仲よくなり、部活動に入りたいという願望を聞かされたこと。その女子が入りたい部活は、今のところこの学校には存在しないこと。ならば新しい部を創ればいいということで、帰宅部の俺も創部メンバーとして誘われたこと。俺はそれを了承したが、肝心要となる活動内容が現時点では全く見えていないこと。
話している最中に俺が危惧したのは、一種ののろけ話として受け取られるのではないか、ということだ。実際はサチと付き合ってはいないが、男一人と女一人の組み合わせなのだから、俺たちの関係をよく知らない人間であればそう考えてもおかしくないな、と。また、部活動の内容は当事者の間で決めるべきことだから、第三者である自分に相談されても困る、と言われても仕方がないとも思った。
しかし、流石は葵というべきか。俺の心配など余所に、一貫して真剣な顔つきで、頻繁に相槌を打ちながら話を聞いてくれた。
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