わたしといっしょに新しく部を創らない?と彼女は言った。

阿波野治

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本日の結論

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「タイムリミットぎりぎりまで、東さんとじっくり話し合うしかないんじゃないかな。創部の申請は一学期いっぱいまで可能で、充分に余裕があるんだから。アイデアなら私も出せるけど、実際に活動するのは籾山くんと東さんなんだから、二人で決めた方がいい。というか、二人以外の人間が決めるのは絶対にだめだよ」

 それが葵の答えだった。俺が話し終わってから、一分以上にもわたる黙考を経ての発言だったから、誠心誠意考えた上での回答なのは間違いない。

「二人は気が合ったから、いっしょに新しい部を創ることにしたんでしょう? だったら、話し合いを重ねれば、双方が納得いく答えが見つかると思うよ。今は全然ビジョンが見えなくても、粘り強く話し合えば、絶対に」
「まあ、そうだよな。そうするしかないよな」

 求めていたものは得られなかったが、葵の回答には説得力があったので、落胆はしなかった。葵のアドバイスに従って、自分たちの力で一歩一歩、謙虚に答えに近づいていくことを選ぼう。そう意思を固めることができた。

「葵、ありがとう。話を聞いてもらって、気持ちが楽になった。サチとじっくり話し合って決めるよ」

 どういたしまして、というふうに葵は軽く頭を下げる。その表情は柔和で、人の役に立てたことを心から喜んでいるのが分かる。葵っていいやつなんだな、と改めて思った。
 気持ちが楽になったついで、俺は葵に、しゃべっている間にふと抱いた疑問をぶつけてみることにした。

「そういえば、葵は部活はなにをやっているの?」
「私? 私は帰宅部だよ。打ち込みたいと思うような部活は特にないから。中途半端にどこかの部に入るよりも、その時間を自分のために使った方が有効的かな、と思って」

 まるでこのタイミングでこの質問をされると事前に把握していて、その答えを用意していたかのように、さらりと答える。自分が選んだ道は微塵も後悔していない、という口ぶりだ。

「ああ、そうだったんだ。なんか意外だね。葵って真面目だから、高校生なんだから部活動はやっておかないと、みたいな意識を持っているかと思っていたけど」
「全くないわけじゃないよ。でも、絶対に入らなきゃいけないものじゃないから、それでもいいかなって」
「そっか。だったら――」

 少し躊躇ったが、俺は思い切って提案する。

「だったらさ、俺たちが創る部に入らない?」
「えっ?」

 葵の足が止まった。俺も立ち止まり、葵の目を見ながら言葉を続ける。

「たしか、部は五人以上部員がいないと設立が認められないんだったよね。まだ活動内容も決まっていない段階で誘うのもなんだけど、夏休みが始まるまでに活動方針が決定して、部員が四人以上――俺とサチ以外にも二人集まっている状態だったら、そのときは是非検討してほしいんだ。俺は友達いないし、部員集め、絶対苦戦すると思うんだよ。だから、もし葵さえよければ」
「部活……。私が……」

 葵は唇の下に人差し指を宛がって思案する。分かった、考えておく。そう一言答えれば済むのに、真摯に考える。決していい加減な返事はしない。それが葵若菜という人なのだ。

「うん、いいよ。あくまでも活動の内容次第だけど、前向きに検討させてもらうね」
「ありがとう。わざわざ走って追いかけてきてくれたし、部のために協力してくれるし。優しいんだな、葵は」

 突然、彼女の顔が真っ赤に燃え上がった。それを見られるのを嫌がるように、俺に背を向ける。

「バカ! 不意打ちで、軽々しく、そんなこと言わないでよ。恥ずかしい……」
「えっ、そう? 優しいっていう言葉、誰が相手でも普通に使う――」
「だからやめてって! ……私、もう帰る!」

 葵は今まで進んできたのとは逆方向に向かって走り出した。短距離ランナーを思わせる、四肢を大きく振っての全力疾走だ。空色のリボンは左右に激しく揺れながら見る見る遠ざかり、あっという間に葵の背中は見えなくなった。

「葵の家、俺の家とは正反対の方向だったのか……」

 それにもかかわらず、心配だからという理由で俺を追いかけて声をかけてくれて、しかもちょっとした相談にまで乗ってくれたのだから、文句なしの善人だ。
 最終的に、俺とサチが立ち上げた部に参加してくれるのかどうか、それは神のみぞ知るところだが――。
 もし葵若菜みたいな人間が部員になってくれたら、きっと頼もしいし、楽しいに違いない。
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