わたしといっしょに新しく部を創らない?と彼女は言った。

阿波野治

文字の大きさ
8 / 15

本日の結論

しおりを挟む
「タイムリミットぎりぎりまで、東さんとじっくり話し合うしかないんじゃないかな。創部の申請は一学期いっぱいまで可能で、充分に余裕があるんだから。アイデアなら私も出せるけど、実際に活動するのは籾山くんと東さんなんだから、二人で決めた方がいい。というか、二人以外の人間が決めるのは絶対にだめだよ」

 それが葵の答えだった。俺が話し終わってから、一分以上にもわたる黙考を経ての発言だったから、誠心誠意考えた上での回答なのは間違いない。

「二人は気が合ったから、いっしょに新しい部を創ることにしたんでしょう? だったら、話し合いを重ねれば、双方が納得いく答えが見つかると思うよ。今は全然ビジョンが見えなくても、粘り強く話し合えば、絶対に」
「まあ、そうだよな。そうするしかないよな」

 求めていたものは得られなかったが、葵の回答には説得力があったので、落胆はしなかった。葵のアドバイスに従って、自分たちの力で一歩一歩、謙虚に答えに近づいていくことを選ぼう。そう意思を固めることができた。

「葵、ありがとう。話を聞いてもらって、気持ちが楽になった。サチとじっくり話し合って決めるよ」

 どういたしまして、というふうに葵は軽く頭を下げる。その表情は柔和で、人の役に立てたことを心から喜んでいるのが分かる。葵っていいやつなんだな、と改めて思った。
 気持ちが楽になったついで、俺は葵に、しゃべっている間にふと抱いた疑問をぶつけてみることにした。

「そういえば、葵は部活はなにをやっているの?」
「私? 私は帰宅部だよ。打ち込みたいと思うような部活は特にないから。中途半端にどこかの部に入るよりも、その時間を自分のために使った方が有効的かな、と思って」

 まるでこのタイミングでこの質問をされると事前に把握していて、その答えを用意していたかのように、さらりと答える。自分が選んだ道は微塵も後悔していない、という口ぶりだ。

「ああ、そうだったんだ。なんか意外だね。葵って真面目だから、高校生なんだから部活動はやっておかないと、みたいな意識を持っているかと思っていたけど」
「全くないわけじゃないよ。でも、絶対に入らなきゃいけないものじゃないから、それでもいいかなって」
「そっか。だったら――」

 少し躊躇ったが、俺は思い切って提案する。

「だったらさ、俺たちが創る部に入らない?」
「えっ?」

 葵の足が止まった。俺も立ち止まり、葵の目を見ながら言葉を続ける。

「たしか、部は五人以上部員がいないと設立が認められないんだったよね。まだ活動内容も決まっていない段階で誘うのもなんだけど、夏休みが始まるまでに活動方針が決定して、部員が四人以上――俺とサチ以外にも二人集まっている状態だったら、そのときは是非検討してほしいんだ。俺は友達いないし、部員集め、絶対苦戦すると思うんだよ。だから、もし葵さえよければ」
「部活……。私が……」

 葵は唇の下に人差し指を宛がって思案する。分かった、考えておく。そう一言答えれば済むのに、真摯に考える。決していい加減な返事はしない。それが葵若菜という人なのだ。

「うん、いいよ。あくまでも活動の内容次第だけど、前向きに検討させてもらうね」
「ありがとう。わざわざ走って追いかけてきてくれたし、部のために協力してくれるし。優しいんだな、葵は」

 突然、彼女の顔が真っ赤に燃え上がった。それを見られるのを嫌がるように、俺に背を向ける。

「バカ! 不意打ちで、軽々しく、そんなこと言わないでよ。恥ずかしい……」
「えっ、そう? 優しいっていう言葉、誰が相手でも普通に使う――」
「だからやめてって! ……私、もう帰る!」

 葵は今まで進んできたのとは逆方向に向かって走り出した。短距離ランナーを思わせる、四肢を大きく振っての全力疾走だ。空色のリボンは左右に激しく揺れながら見る見る遠ざかり、あっという間に葵の背中は見えなくなった。

「葵の家、俺の家とは正反対の方向だったのか……」

 それにもかかわらず、心配だからという理由で俺を追いかけて声をかけてくれて、しかもちょっとした相談にまで乗ってくれたのだから、文句なしの善人だ。
 最終的に、俺とサチが立ち上げた部に参加してくれるのかどうか、それは神のみぞ知るところだが――。
 もし葵若菜みたいな人間が部員になってくれたら、きっと頼もしいし、楽しいに違いない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...