わたしといっしょに新しく部を創らない?と彼女は言った。

阿波野治

文字の大きさ
10 / 15

アクシデント

しおりを挟む
「でも、肝心の活動内容が決まらないとどうしようもないよね。『なにをする部なのかはまだ決まってません』では、先生も『どうぞ空き教室を使って』とはならないだろうし。わたしも昨日今日とずっと考えたけど、特に思い浮かばなかったなぁ。直太郎くんは?」
「俺もさっぱり。考えれば考えるほど逆効果っていうか、そんな感じだよね。インスピレーションが閃くのを待つしかないんじゃないかな」
「期限は夏休みが始まるまで、だったよね」
「長いようにも思うけど、決められないままだらだらいきそうな気もするし、怖いよな」
「うん……」
「仮にアイデアが浮かんだとしても、先生に部活動として認められるか分からないからね。そう思うと、許された時間は長いように見えて短いのかもしれないな。……いや、わざとネガティブなことを言うつもりはないんだけど」

 などと弁明しつつも、暗い方向に話を持って行ったことを、俺は内心大いに反省した。残り少なくなった焼きそばパンを無理矢理口に押し込み、コーラで流し込んで話頭を転じる。

「そういえば、顧問ってどうなるのかな。今の段階で気にしてもどうしようもないと思うけど、ちょっと気になる」
「顧問の先生なら、もうすぐ産休が明ける先生がいるから、その先生に頼めばいいっていう話だったよ。D組の、えーっと、有吉郁子先生って言ってたかな」
「D組? 俺のクラスか」

 現状、俺のクラスの担任は、むさくるしい中年男性教師が務めているが、そういえばそんなことを言っていたような記憶がある。

「ああ、直太郎くんの担任の先生だったんだね。いい先生?」
「いや、産休中だから会ったことないけど」
「あっ、そうだったね」

 サチらしい間抜けな見落としに、俺もサチも小さく笑った。
 直後、突然、一陣の強風が吹き抜けた。

「あっ⁉」

 サチの足元に置かれていた、メロンパンの袋が高々と舞い上がった。サチは反射的に立ち上がって手を伸ばしたが、届かない。風がやむと、袋は小さな円をくり返し描きながら、階段に沿って地上へと落ちていく。

「わわっ、待って! パンの袋!」

 サチは袋を追いかける。メロンパンを片手に持っての追跡だから、酷く間抜けな絵面だ。そしてそれ以上に、危なっかしい。階段を普通に下りるだけで転ぶようなやつでは流石にないが、今は袋を追いかけている。視線は足元ではなく、逃げていくパンの袋に向いている。思わず腰を浮かした瞬間、

「あっ!」

 階段から足を踏み外した。サチの体が大きく前に傾く。

「サチ……!」

 俺はサチへと突進する。あっという間に追いつく。右腕を掴む。サチの全体重を、歯を食いしばって繋ぎ止める。
 サチの顔面は、階段の角にぶつかるギリギリで静止している。

「……っぶねぇ」

 ふう、と大きく息をつく。サチは左手を床についていたので、「離すよ」と伝えた上で、ゆっくりと慎重に右腕を離す。サチは腕立て伏せをしているような姿勢になった。足の方が高く頭の方が下だから、重力によってスカートは大きくめくれ、黒いショーツが丸見えになっている。どうやら俺は、サチの下着を見る機会に恵まれた場合、二回見る運命にあるらしい。

「直太郎くん、ありがとう。でもわたし、今、体勢どうなってるの? 分からないよ~。助けて~」

 サチが情けない声で窮状を訴える。俺はサチの体よりも下の段まで下り、

「大丈夫。もう落ちないし、落ちたとしても俺がキャッチするから。まずは足を――」
「えっ? どうやって起きるの? この体勢だと無理じゃない?」
「そうかな。じゃあ――」

 細かく指示を出し、ときにはこちらが手を貸すことで、サチはなんとかその場に立つことができた。

「ありがとう。いやー、死ぬかと思った」

 サチは際どいところで大けがを免れたばかりとは思えない、爽やかな笑顔で礼を言った。やれやれ、と俺はため息をつく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...