切言屋

阿波野治

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遼の二度目の聞き込み③

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「おっ、結城くんじゃん」

 目の前の教室から出てきた女子生徒の集団の一人に、いきなり名前を呼ばれた。遼のクラスの教室ではない教室だ。
 遼は我に返って顔を上げた。他のクラスに友だちなんていないのに、俺に誰がなんの用だ?
 訝しげに発言者の顔を見返した。見覚えがあるような、ないような……。

 発言者といっしょにいる女子の顔を順番に見て、ようやく気がついた。昨日弥生といっしょに机を囲んでいた女子たちだ。

「もしかして今日も、愛する美咲ちゃんのために聞き込み? 言っておくけど、弥生は今はいないよ。他のクラスの友だちのところに行ってるから」
「ちょうどよかった。昨日は綿貫さんにばかり質問したから、他のみんなにも訊きたいと思っていたんだ」

 昨日話をした限り、草太朗は弥生と他の女子たちのあいだには明確な上下関係があると思い込んでいる節があった。弥生と美咲のあいだでなんらかのトラブルがあったが、弥生が他の女子に、遼には余計なことを言わないようにと圧力をかけた。そう疑っているようだった。
 実際に話をしてみた遼は、両者には歴然たる力の差はないように感じた。ただ、草太朗が言っていた、弥生が不在の環境で話を聞いてみるのには、たしかになんらかの意味があると思ったのも事実。

「ないよ、トラブルなんて。何回訊かれても、ないものはないから」

 しかし、女子たちは弥生のときとまったく同じ意味の言葉を口々に返してきて、期待は裏切られた。
 遼は諦めない。友人である彼女たちですらも見落としているものがあるのでは? そんな一縷の望みにすがりついて、休み時間が終わるぎりぎりまで粘るつもりで、思いつく限りの切り口で質問を投げかけた。

「弥生と美咲、水と油に見えて相性ばっちりだから、言い争いですら起きたことないし、起きる気配すらないし」

 遼の質問攻めに辟易しはじめているらしく、ポニーテールはうんざりしたような声音でそう返答した。

「弥生のやつ、美咲に対してだけは異様に優しいんだよね」

 ポニーテールの発言を引きとってショートヘアが言う。

「結城も一度話したから分かってると思うけど、弥生ってきつい性格してるでしょ? 当たり前のように暴言を吐くし、時と場合によっては暴力も振るうし。でも、美咲相手にだけは絶対にそんなことはしない。しないっていうか、美咲に対して怒ること自体がないからね。相性がいいと言えばいいのか、弥生が美咲に甘いと言えばいいのか」

 遼は思わず息を呑んだ。
 これだ、と思った。
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