ヤリチン無口な親友がとにかくすごい

A奈

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後編*

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「ここか…? えらい高そーなホテルやなぁ…」

 一時間後。翔太は指定されたホテルの前で呆然と立ち尽くしていた。
 翔太の語彙で言うと、とにかくキラキラ、ピカピカしている。
 大きな門の前には屈強な黒スーツの男が二人。「ええ筋肉や…」とうっとりしかけて、慌てて自分の目的を思い出す。

「せや、おれはお仕事しにきたんや…!」

 しかし今の翔太の格好はジーパンにパーカーで、到底高級ホテルにはそぐわない。
 さらにホテルには誰もが知っているような高級車がぽつぽつ入っていく。身一つで来てるのは今のところ翔太だけで、益々気が引けた。

(お客さん、いつ来るんかな…)

 指名してくれた客とは、ホテルの前で待ち合わせということになっている。
 待ち合わせの時間まではまだまだ余裕があるが、黒スーツ二人から送られる視線がどうも怪しまれているようにしか思えなくて、早く中に入りたかった。
 翔太が体を萎縮させていると、目の前に黒塗りのいかにも高そうな車が止まった。

(うわぁ、かっこええ車やな。ポ ルシェかなんかやろか)

 大きな瞳をめいっぱいに開いて感動していると、後頭座席のドアが、出てきた運転手らしき人によって開かれる。
 そこから出てきた男に──翔太は更に目を見開くことになった。

「えっ、そ、そーいち?!」

 その男は紛れもなく、翔太の親友である樫野宗一だった。
 ガタイの良い体も、男前な顔も、宗一でしかない。「翔太」と呼ぶ低い声も。

「偶然やな~…そういえば宗一んちお金持ちやもんなぁ」
「行くぞ」
「ん? え、ちょちょちょ! 何すんの!!!」

 言うなり宗一は翔太の腕を掴んで、ずんずんとホテルの門をくぐっていった。
 何が起きているか理解できない翔太は慌てることしかできない。

「おれこれから仕事なんやけど?! お客さん待っとうし…っ」
「客なら目の前にいるだろ」
「へ?」
「その客『ソウ』って名前だろう。それは俺のことだ」

 落とされた爆弾発言に翔太の思考は停止する。
 そして引き摺られるまま、気がつくと既にホテルの部屋のベッドに押し倒されていた。

「どどどどういうことぉ~~?!?!」
「…うるさい」
「え、そーいちが、お、お客さんっ…?」

 「だからそうだと言ってる」と呆れを滲ませながら翔太を見下ろす宗一は男の色気が漂っていて、思わずアテられる。そのまま流されてしまいそうになるが、ちゃんと話さなければいけない、と何とか混乱した頭から言葉を振り絞った。

「ななな何で…?」
「……」
「まさかおれとえっちなことするためな訳やないよね…?」
「そうだ」

 嘘だ…と呟く翔太を、宗一は愛おしげに見つめる。宗一のそんな瞳の奥に宿っている熱を目の当たりにして、これは冗談なんかじゃないのだと、翔太は悟った。

「そーいちはノンケやなかったん…? おれ男やで…?」
「知ってる」
「女の子しか抱けんのやろ? そういっとったやん高校の時」
「お前は別だ」
「はい?」
「高校の時からずっと好きだった、翔太」

 嘘だ、とまた呟こうとした口は、宗一によって優しく塞がれた。










✳︎





「あっ、あっ~~~っっ…♡ もうとまれやぁ~っっ……!」

 散々唇や胸の尖りを吸われて、至る所にキスマークを付けられて。これでもかと全身を愛撫された後、宗一の手は、小さな双丘の奥にある秘所に伸びていった。
 大きくて骨張った指で中を蹂躙され、自分の指では得られなかった快感に翔太の頭は蕩けきっていた。口では「嫌」と幾度言いつつも、体は抵抗する素振りは一切見せない。

「お前のナカきゅうきゅうしてる」
「っっ…! ゆーなやアホぉぉ~~っ…!」

 直接的な擬音に、翔太の顔全体が羞恥でみるみる真っ赤に染まる。涙を滲ませた瞳で精一杯睨むも、宗一からすればそれは可愛らしい煽りでしかなかった。
 今や翔太の秘所は宗一の指を三本呑み込み、少しでも抜こうとすると更に締めつけてくるので、宗一は果てしない愛おしさを感じずにはいられなかった。それでも抜くと、その刺激で翔太が「ん…♡」と可愛い声を漏らす。
 もう待てはできない。痛いほどに勃ち上がっている自身の陰茎を取り出し、ひくひくと物欲しげに収縮するソコに充てると、翔太の体がビクッと震えたのが分かった。

「な、なに……?」
「俺の。受け入れて」
「へ……っ?! ひ、あ、あ………………っっっっ?!」

 とろとろに解れた翔太のナカに、ゆっくりと挿入する。
 良い所に当たるのか、あまりの快感に翔太はもう声すらまともに出せなかった。
 ディルドなんかより遥かに大きくて熱くて、訳が分からなくなる。ずっと焦がれていた人肌が、セックスが、こんなに気持ちいいものだとは知らなかった。

「やら……そこぉ…♡」
「ん…気持ちいい」

 掠れた宗一の声が腰にクる。こんなエロエロやったんかこいつ、と翔太は仄かに頬を熱らせた宗一を見て、心が揺れ動いた。

(親友やと思ってたんに)

 セックスしてしまっている。
 告白までされたのだから、もう親友に戻ることはできない。だけど、今はそれがどうでもいいように思えた。ただひたすらに快楽に流されて、熱を享受できる悦びを知ってしまったのだから。

「そーいち、ん、ん、っ………っっ♡」
「翔太…」

 ただ二人はひたすら、予め指定されていた二時間を超えて、激しく求め合った。













✳︎






「はい、はい…すみません…本当に申し訳ないです…」

 電話の相手にペコペコ頭を下げている翔太の顔は暗い。暫く会話が続き、電話が切れると、態とらしく「はあ~~~」と溜息を吐いた。

「…何だ?」
「何だやないわ!! 全部お前のせいやからな!」

 宗一は翔太がこんなに怒っているのには勿論心当たりがあった。自分が「デリヘルを辞めろ」と言ったからだ。
 目覚めてすぐに自分の身に起こったことを認識して青褪めた翔太に、開口一番放った言葉がそれなのだから、多少の怒りは甘んじて受ける。
 しかし宗一からすれば、自分が既にいるのだから、セックスしたさにデリヘルを続ける意味が分からない。
 翔太があの時律儀に出勤日まで報告してくれていたので、初めてを他の男に奪われないで済んだのは良かったが、やはりどことなく翔太の態度はよそよそしい。

「てか、改めて見るとこの部屋デカいなぁ…」

 しみじみと疲れたように呟く翔太すらも可愛く見えるので重症だと思う。
 男に性的興奮を覚えるのは後にも先にも翔太だけだ。今まで女にしか勃たなかったから、翔太への気持ちはただの気の迷いだと思っていたけど、抱いて分かった。
 自分はもう翔太しか抱けない。

「…なにジロジロ見とんのや」
「可愛いから」
「ジブンそんなキャラやったか?」

 余裕そうな顔しよって、と翔太は口を尖らせる。
 何だかんだデリヘルは辞めてくれたので、こっちに気持ちが揺れていると思いたい。


 さあどうやって囲おうか──宗一は今までで一番幸せそうな笑みを浮かべた。








〈了〉











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