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第二部
第五章:02
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「――ッッッぁ……ッ! くぁッ、……っぅうぅ……」
「ホオリちゃん!? ホオリちゃん!!」
胸を抑えて苦しむホオリを支える小岩井。
突然、発作のように呻き始めたのだ。
尋常ではない苦しみようだ。すぐに病棟に連絡し処置室へ連れて行く。
――熱は、ないようだが……。
「――ッッァッッ!?」
突然、ホオリを抱えた腕に電気が走り手を離す。
驚いてみると、胸から幾筋もの雷光があたりを焼き焦がしている。
――普通の発作ではない。精霊に起因するものだ。
「――金屋子さんを呼んでください! 精霊について
少しでもわかるのは、あの人だけです!!」
藁にもすがる思いだが、今は彼に頼るしかない。
これが一時的な苦しみなのか、それとも何かの不具合による
危険な状態なのか。それすら、わからないのだ。
「ッッ……せ、精霊、が……精霊がッ……」
胸を抑えて、ホオリが何かを言おうとする。鎮静剤を与えていいのかすら
わからない現状だ。あるいは彼女の言葉に何かのヒントがあるかもしれない。
小岩井はホオリの手を握りながら耳を傾ける。
「精霊が……精霊が、目覚御めようとしている……!」
「……え?」
だが、耳に入った言葉を理解できない。精霊が目覚める?
既に、炎の精霊も雷の精霊も目覚め、火之夜とノー・フェイスに
宿っているのではないか。
だが、ホオリは続ける。そもそも小岩井の声が届いていないのだろう。
うわごとのように、あるいは誰かの声をそのまま伝えるかのように
呻き続ける。
「せッ……精霊は、揃えてはならない。もう、揃ってはならない。役目は、終わったのだから……」
「こッ……こいつぁ……!」
到着した金屋子が驚愕し言葉を失う。それは小岩井も同じだ。
いまや、ホオリの胸からほとばしる雷光はまばゆいばかりになっていた。
目を開けているのも辛い中、それでもホオリのそばからは離れない。
小岩井は、なんとなくではあるが理解していた。
これは精霊からのメッセージだ
「――どういうことなの、ホオリちゃん! 精霊は既に――」
「こんな、歪んだ形での覚醒は――しては、ならない……!!」
大事なことなのだ。大事なことを言っているはずなのだが、わからない。
せめて一言一句、覚えておかなければ――
苦しみながらも、ホオリが言葉を繰り出す。
伝えなければならないことを、伝えるために。
「"形"の対精霊を、目覚めさせてはならない――!!」
・・・
なにかが、私の中で叫んでいる。"私を目覚めさせてはいけない"と。
私自身、このまま眠り続けていたい。でも、許されない。
許されないなら……目覚めるしかないなら――私の好きに、させてもらう。
制止しようとする"鳥"の声を握りつぶす。
それはいけない、とのたまう声がする。戯言だ。
これまで、誰か私を助けてくれたものはいた?
親にすら見捨てられた私を。誰が省みたというのだ。
私の心に、仮面の姿が流れ込む。人々を守るため、出自を裏切ったフェイス。
誰からも信頼され、暖かく迎え入れる仮面のヒーロー。
でも、私は救ってくれなかった。あの子は救ったのに。
それが心を苛む。嫉妬が憎しみを生み、全身の隅々にいきわたる。
皆を守ってくれるヒーローですら、私に興味がない。
私を見捨てて、どこかに行ってしまった。
世界の全てが私を敵視する。なら、私だって――
世界の全てを、敵視してやる。
それを咎められるものが、この世のどこにいる?
誰一人受け入れなかったくせに、この私には受け入れろと求めるのか?
それこそ許されない。許してなるものか。
感情がどんどんと流れ込んでくる。明るいものは少ない。
どれもこれも、恐怖と絶望、そして理不尽への怒りや憎しみに
あふれかえっている。それも当然だろう。
フェイスダウンに、無理やり連れ去られ。その感情を抜き去られた人々の
感情が、流れ込んできているのだから。
その感情のいまわの思いが、綺麗なものであるはずもない。
黒い黒い感情が渦になって凝縮され、私に流れ込んでくる。
ドス黒い感情が、私の憤りを補強していく。鎧のように、あるいは
高い城壁のように塗り固め、閉ざしていく。
……愉快だ。
黒い愉悦が、私を取り囲んでいく。
「……笑っているか」
ガラス越しに、その仮面が呟く。やけにクリアーに聞こえるその声の主は、
悦ぶ私の姿を見ても無感動だ。
すべての元凶だというのに、私をただ駒としかみていない。
こいつも、憎い。憎いのに、従うしかない。
どうしてこの世は、私に厳しいのだろう。復讐すら許してくれない。
改造されたこの身体は、主人に逆らうことを許さない。
私をとりまくすべてのものは、私を抑圧してきた。
世界は、私が憎いのだろうか。
それほどまでに私が憎いなら。
それほどまでに私を、受け入れたくないなら――
「……私も、世界を受け入れない」
・・・
「うぐぁッ……! くぅ、ぬぉぉぉ……ッッッ!!」
人払いをし、自分ひとりになった一室で天津は身もだえしていた。
フェイスダウン総帥は、本来の予定を繰り上げた。
目覚めを早め、実践に投入しノー・フェイスにぶつける。繰り上げられた
目覚めのために、何人もの人々がさらわれ感情を抜き去られた。
それは、かなりの無茶だった。もともとやるはずのないこと。
それほど、彼にとってノー・フェイスにアルカーの力が宿ったことは
衝撃的だったのだろう。
どのみち、その無茶の弊害を背負うのは総帥ではない。人間だ。
そのことはもとよりわかってはいたのだが――
おかしい。異常な痛みと苦しみだ。
無理の弊害が自分に押し付けられているにしても、これほどの苦痛が
あらわれるものだとは、思えない。
これは、まるで自分の身体が作り変えられるような――
「……まさ、か……」
怒涛のように、思索が巡る。
本来、フェイスダウン――否、総帥フルフェイスにとっても
このような無茶はする予定がなかったはずだ。もっと慎重に、
ゆっくりとその時を待つはずだった。
まさか……その弊害が、彼にとってもさらなる予定外の結果を、
招き入れているのではないか。
だとすれば――
「そ、総帥よ――珍しい。焦っておられるのですか、な?
……自分が、猛毒を練り上げていることにも、気づかずに……」
・・・
それは、はるか昔のこの地球。
宇宙に浮かぶ土くれと水の塊は、世界の法則に従い精霊たちを生み出した。
精霊は、対の存在として生まれてくる。三対の精霊として。
"形"の精霊たちは、あるべき容れものを作り上げた。
"命"の精霊たちは、その容れものに生命を吹き込んだ。
最後に、"心"の精霊は――生まれ出でなかった。
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――ーそれは、はるか昔のこの地球。
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・・・
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