異世界ゲーム日記

無音響

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「……ン、……レイン。……レイン」



眩しい光が、まだ開いていない瞼の上から私に降り注ぐ。すん、と鼻を動かすと柔らかいお日様の匂いと、それから木や花のかぐわしい香りがした。

薄く目を開けると、こちらを覗き込む翡翠色の瞳。白く、透き通るような肌に金色のさらさらとした長髪。……女子をやめたくなってきた。なんか、ごめんなさい。



「……レイン、起きているんでしょう? 」

「くふっ」



薄目で自分を観察する私に気付いたのか、呆れたように目を細めるのが何だか面白くて。思わず笑い声を溢してしまう。

勿論、彼の耳はそれを聞き逃すほどお馬鹿ではない。いや、まぁ年齢的に言えばもう使い物にならなくなってるかもしれない年だが。



「ほら、起きて。今日は街へ下りる日ですよね? 」



そうぐいっと腕を引かれ、上半身を起こされてしまえば意識も覚醒してしまう。あの、起きているような起きていないような微睡みの時間が好きなのに。

抗議してやる、と体重を後ろにかければ「馬鹿なことしないでください。重いです」と言われてしまう。私は女子だぞ。



「……おはよう、アテネ」



アテネの力を借りて起き上がり、頭を二、三度振れば霞みがかっていた思考がクリアになり、視界も色付き始める。

一緒に暮らし始めて朝の恒例となった、私を起こす作業を終えたアテネに感謝の気持ちと労いを込めて深々と頭を下げる。アテネも私に倣い、頭を下げる。

長い髪が、重力に従ってさらりと落ちる。……綺麗だな。

太陽の光が反射して、きらきらと宝石のように輝くアテネの髪が、私はこの世界で何より好きだったりする。本人には言ってやんないけどね。



「私の服は? 」

「こっちに用意してますよ」



ベッドと呼ぶには簡素な、だけど布団よりは心地良い寝床から降りてアテネが用意した服を着る。緑色のゆったりとしたワンピースのようなもの。袖に手を通し、腰の辺りできゅっとベルトを結んだら着替えは終わりだ。

私は寝床の横に置いていた愛用の短刀を、服の懐に仕舞う。あまり使ったことがないのに愛用とはこれいかに。



「アテネ、用意終わったよ」

「では行きましょうか。この前のように野生の動物にはついて行かないでくださいね。街で迷子にもならないこと。何かあったらギルドに向かってくださいね。知らない人にもついて行かないで」



私の方を見ないように外に出ていたアテネに声をかければ、お母さんのような小言が降ってくる。分かってる、と声を大にして言えないのは全て一回はやったことがあるからだ。

必死でこくこくと頷けば、満足した顔でアテネが街へ下りる道へ歩いていく。私はその後に続きながら、辺りを見渡した。

私の何倍もの背丈がある大きな木が何本も生え並び、多くの野生動物が共存するこの森は私とアテネの拠点となっている。

ここは人の気が無く、閑散としているところだが街へ下りるとその雰囲気は一転。たくさんの人、活気に溢れた場所が私たちを待っている。街に行くと、私は何だか無性にわくわくしてついつい歩き回ってしまうのだ。



「……あ、どらごん



ふ、と足元に落ちた影に、空を見上げる。上空では、この世界を象徴する大きな龍が悠々と空を飛んでいた。



私がゲーム世界に来て、約二ヶ月が経とうとしている。
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