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本編
第103話 当主会談と御神木、そして乱入者約一名④
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そして、リリアたちを送り出してすぐ、その声の主は姿を現した。
「説明してもらうぞ、御水無瀬家当主っ! 魔煌石を奪われ、あまつさえ敵まで取り逃がすとは一体どういうことだ!」
怒声を上げ、一言の断りもなく部屋に入って来たのは、火之輪家当主の息子である火之輪尊琉であった。彼は火之輪家の現当主である火之輪豪斎が病を患っていることから、当主の代理を務めている。
もちろん、重要な決定には豪斎の判断が及ぶものの、それ以外の雑務はすべて尊琉が取り仕切っており、「代理」の肩書はあるものの、実質的な責任者の位置づけを担っている。
尊琉もまた五家門の当主たちが顔を合わせる会議には出席したことがあり、健介の顔は見知った間柄だ。また、当主代理として火之輪家を背負う責任も持つことから、若いながらも健介とは対等な立場で話をできる人物でもある。
「……来客とはお前か。どんな御仁が面会に来ているのかと思ってみれば、まだ俺と同世代じゃないか。どうせ他愛もない話でもしていたんだろ? ほら、さっさと失せろ。俺たちは今から大事な話があるんだ。関係ないヤツは出て行ってもらおうか」
まるで腫れ物扱いするような目でツグナを見下ろし、手を軽く払って追い出そうとする尊琉に、健介が声をかける。
「尊琉君。私の客人をそう邪険にしないでくれないか? かくいう彼もまた当事者の一人なのだから」
「……はっ? 当事者の一人、ですか? この客人が?」
健介の口から放たれた予想外の発言に、尊琉は目を丸くさせながらツグナを指差す。
一方、部屋に入って来て早々、邪魔者扱いされたツグナは、その尊琉のぞんざいな態度にピキリとこめかみに青筋が浮かぶ。
「あぁ、そうだとも。彼――継那君のおかげで私たちはこうしてここにいる。彼は紛れもなく私たちの命の恩人とも呼べる存在だ」
極めて率直な健介の言葉だったが、それを聞いた尊琉は鼻で笑いながら言葉を返した。
「成程。命の恩人、か……ただ、結局助けてもらっても敵に魔煌石を奪われたことに変わりはない。加えてその敵もみすみす取り逃がしてしまうとは。人の世、その安寧を揺るがす敵を狩るのが私たち五家門の存在意義のはず。にもかかわらず、こんな体たらくを晒してしまうとは……どうやら、御水無瀬家の力は考えている以上に弱体化してしまったようだ。敵を取り逃がしてしまうほどの大した力も持たないその『命の恩人』に頼らざるを得なかったのだから」
明確な侮蔑と嘲笑を示して告げる尊琉に、健介は何も言えなかった。確かに尊琉の言う通り、自分たち五家門は「人の世の安寧を守る」ため、その裏側で古くからその安寧を脅かす化け物を狩るために生まれた。本来の役割を全うできず、加えて(意図せずとも)ツグナという「異分子」に頼ってしまったのは落ち度だとしてきされても否定はできない。
しかし、事実としてアルファを筆頭とする「ラウンドガード」の面々は、そのいずれもが「魔喰人」であり、その練度も高かった。戦闘後、改めて健介は御庭番――棗、椿、蓮、萩の四人にその時のことを聞いたのだが、その誰もが「強敵」と話していたのだ。また、健介自身もまた、「魔喰人」であるガンマと九条武治との戦闘を経験している。
自らの水式神が赤子の手を捻るように破られ、蓮のサポートを受けてもなお焼け石に水の状況。
そうした危機的状況をひっくり返したのがツグナたち「ヴァルハラ」であった。
想像をはるかに超える強さ。それを個人が有していることの事実、それ自体が驚くべきことであるが、今の健介にとってはそれは些末な問題である。
――さて、この状況……どうしようか。
彼の目の前には、怒気を纏い、仁王立ちで互いを見つめるツグナと尊琉がいる。
「オイお前……俺の仲間を虚仮にするとはいい度胸じゃねぇか。そこまで言うなら試してみるか? あ゛ぁ? その『大した力も持たない』ヤツの実力ってもんをヨォ……」
「ハッ! 上等だ。こちらとしても願ったり叶ったりだ。どちらが上か、この際白黒ハッキリさせようじゃないか」
(……あ、もう無理だ)
互いの顔を睨み合いながらヒートアップする二人の様子を目にした健介は、即座に「仲裁する」という選択を放棄する。様々な意見を調整し、決断を下すという当主としての役割を担う彼の長年の経験から、こうした事態に陥った両者を宥めようとすると却って火に油を注ぐ結果につながりかねないということは身をもって知っている。
(ならば――)
そのため、彼は仲裁ではなく、「提案」を選び取る。
「仕方がない……そんなにハッキリさせたいのであれば、試合の舞台は私の方で用意しよう」
重いため息を吐きながら立ち上がった健介は、控えていた使用人の一人に千陽たちへの言伝を頼むと、バチバチと火花を散らすツグナと尊琉を率いて部屋を出るのだった――
「説明してもらうぞ、御水無瀬家当主っ! 魔煌石を奪われ、あまつさえ敵まで取り逃がすとは一体どういうことだ!」
怒声を上げ、一言の断りもなく部屋に入って来たのは、火之輪家当主の息子である火之輪尊琉であった。彼は火之輪家の現当主である火之輪豪斎が病を患っていることから、当主の代理を務めている。
もちろん、重要な決定には豪斎の判断が及ぶものの、それ以外の雑務はすべて尊琉が取り仕切っており、「代理」の肩書はあるものの、実質的な責任者の位置づけを担っている。
尊琉もまた五家門の当主たちが顔を合わせる会議には出席したことがあり、健介の顔は見知った間柄だ。また、当主代理として火之輪家を背負う責任も持つことから、若いながらも健介とは対等な立場で話をできる人物でもある。
「……来客とはお前か。どんな御仁が面会に来ているのかと思ってみれば、まだ俺と同世代じゃないか。どうせ他愛もない話でもしていたんだろ? ほら、さっさと失せろ。俺たちは今から大事な話があるんだ。関係ないヤツは出て行ってもらおうか」
まるで腫れ物扱いするような目でツグナを見下ろし、手を軽く払って追い出そうとする尊琉に、健介が声をかける。
「尊琉君。私の客人をそう邪険にしないでくれないか? かくいう彼もまた当事者の一人なのだから」
「……はっ? 当事者の一人、ですか? この客人が?」
健介の口から放たれた予想外の発言に、尊琉は目を丸くさせながらツグナを指差す。
一方、部屋に入って来て早々、邪魔者扱いされたツグナは、その尊琉のぞんざいな態度にピキリとこめかみに青筋が浮かぶ。
「あぁ、そうだとも。彼――継那君のおかげで私たちはこうしてここにいる。彼は紛れもなく私たちの命の恩人とも呼べる存在だ」
極めて率直な健介の言葉だったが、それを聞いた尊琉は鼻で笑いながら言葉を返した。
「成程。命の恩人、か……ただ、結局助けてもらっても敵に魔煌石を奪われたことに変わりはない。加えてその敵もみすみす取り逃がしてしまうとは。人の世、その安寧を揺るがす敵を狩るのが私たち五家門の存在意義のはず。にもかかわらず、こんな体たらくを晒してしまうとは……どうやら、御水無瀬家の力は考えている以上に弱体化してしまったようだ。敵を取り逃がしてしまうほどの大した力も持たないその『命の恩人』に頼らざるを得なかったのだから」
明確な侮蔑と嘲笑を示して告げる尊琉に、健介は何も言えなかった。確かに尊琉の言う通り、自分たち五家門は「人の世の安寧を守る」ため、その裏側で古くからその安寧を脅かす化け物を狩るために生まれた。本来の役割を全うできず、加えて(意図せずとも)ツグナという「異分子」に頼ってしまったのは落ち度だとしてきされても否定はできない。
しかし、事実としてアルファを筆頭とする「ラウンドガード」の面々は、そのいずれもが「魔喰人」であり、その練度も高かった。戦闘後、改めて健介は御庭番――棗、椿、蓮、萩の四人にその時のことを聞いたのだが、その誰もが「強敵」と話していたのだ。また、健介自身もまた、「魔喰人」であるガンマと九条武治との戦闘を経験している。
自らの水式神が赤子の手を捻るように破られ、蓮のサポートを受けてもなお焼け石に水の状況。
そうした危機的状況をひっくり返したのがツグナたち「ヴァルハラ」であった。
想像をはるかに超える強さ。それを個人が有していることの事実、それ自体が驚くべきことであるが、今の健介にとってはそれは些末な問題である。
――さて、この状況……どうしようか。
彼の目の前には、怒気を纏い、仁王立ちで互いを見つめるツグナと尊琉がいる。
「オイお前……俺の仲間を虚仮にするとはいい度胸じゃねぇか。そこまで言うなら試してみるか? あ゛ぁ? その『大した力も持たない』ヤツの実力ってもんをヨォ……」
「ハッ! 上等だ。こちらとしても願ったり叶ったりだ。どちらが上か、この際白黒ハッキリさせようじゃないか」
(……あ、もう無理だ)
互いの顔を睨み合いながらヒートアップする二人の様子を目にした健介は、即座に「仲裁する」という選択を放棄する。様々な意見を調整し、決断を下すという当主としての役割を担う彼の長年の経験から、こうした事態に陥った両者を宥めようとすると却って火に油を注ぐ結果につながりかねないということは身をもって知っている。
(ならば――)
そのため、彼は仲裁ではなく、「提案」を選び取る。
「仕方がない……そんなにハッキリさせたいのであれば、試合の舞台は私の方で用意しよう」
重いため息を吐きながら立ち上がった健介は、控えていた使用人の一人に千陽たちへの言伝を頼むと、バチバチと火花を散らすツグナと尊琉を率いて部屋を出るのだった――
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