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本編
第115話 深紅の呪い竜①
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雲一つない快晴の休日、午後1時40分頃。頭上から燦々と降り注ぐ陽光が多くの客に注がれ、どこもかしこも賑わいを見せる魅神楽リゾートの中央広場。そこに彼――九条武治の姿はあった。
灰色のフードを頭からすっぽりと被った彼は、白い歯を見せながら口の端を大きく吊り上げ、ゾッとするほどの狂気を秘めた笑みを浮かべていた。
広大な敷地の中央に位置する広場とあってか、その中央に立つ彼の前を大勢の客が右に左に通り過ぎていく。中には「何だこの薄気味悪いヤツは……」と眉をひそめる者もいたが、大抵の人間は九条のことなど気にも留めない。
まるで彼の立つ場所だけが切り取られたかのように、周囲の楽し気な喧騒とは対極に位置する空気が漂う。
「キヒッ……イヒヒヒッ……」
フードの奥、引き攣った笑みから漏れる声。ただならぬ空気を纏う九条に対し、周囲の客もさすがに言い様のない不気味さを感じ取って距離を置き始めた矢先――
「ククッ……アヒャヒャヒャヒャッ!」
突如として狂ったような高笑いを上げた九条は、アザエルの手による「改造」を経て獲得したその力を惜しげもなく解放する。
九条が自身に宿る力を解放した瞬間、禍々しい気が爆発的に膨れ上がり、その身を変容させていく。
やがて――彼が立っていた場所には、深紅の骨のみで形成された一体の巨大な竜がその姿を現した。
「な、何だ!?」
「あれってドラゴン……?」
「何かのイベントか?」
突如として現れたその竜に、周囲にいた客は驚きの声を上げ、中にはその様子をスマートフォンのカメラで撮影する者もいた。
「グルルルゥウウアアアアッ!」
高さ10メートルを優に超えるその竜は、骨のみの両翼を広げ、耳をつんざくほどの咆哮を上げる。そしてギロリと辺りに集まる客を睥睨すると――徐にその身をグイっと捻った。
身を捻ったことで広げられた翼がさながら振るわれた鎌の如く轟音を響かせる。その衝撃はすさまじく、翼が直撃した金属製の外灯はまるで飴細工のように圧し折られ、旋回によって発生した豪風が広場に植えられた木を大きく揺らした。
「う、うわあああああああああっ!?」
「じょ、冗談じゃねぇぞ!」
「ちょ、ヤバイヤバイ! 逃げろ!」
「きゃああああああああああああっ!」
当初は面白がって近くから撮影していた者もその尋常ではない事態に恐れ戦き、蜘蛛の子を散らすように一目散にその場から遁走し始める。
「ギャオオオオオオオオオッ!」
再び轟き渡る咆哮に恐怖心が掻き立てられ、瞬く間にパニック状態となった客は一斉に出口を求めて駆け出した。
さながら怪獣映画にでも出てきそうな光景が繰り広げられるなか、その竜はゆっくりと歩み始める。
一歩、また一歩と足を踏み出すのに合わせ、大地が揺れる。やがて広場の入り口にまで到達したその竜は、一度大きく口を開けると、設置されたアーケードに向かってその鋭い牙を突き立てた。
鉄骨でできたそのアーケードは、常人の力では殴ったところで拳の跡すらつけられないだろう。しかしながら、現れた竜は易々とそのアーケードを噛み砕き、薙ぎ払うように繰り出された手がベキリと音を立てて根元から鉄骨をなぎ倒す。振り上げた尻尾を叩きつければ地面が割れ、咆哮の衝撃波が周囲の建物の壁に亀裂を生じさせ、窓ガラスを砕き割る。
さながら「歩く災害」とも形容すべきその竜は、ひとしきり辺りをならした後、まるで誰かを待つようにその場で制止する。
すでに近くに人影はなく、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返った広場。
「グルルウウゥ……」
唸り声を上げた竜は、その目を晴れ渡る青空に向けながらその時をじっと待つのだった。
「っ――!?」
時間は少し遡り、九条武治が自身に宿る力を解放した直後。丁度昼食を摂っていたツグナは、自身の持つ「気配感知」のスキルが告げた身に覚えのある気配にガタリと席を立って辺りを見回した。
「……ふぇ? どうしたんですか、師匠?」
急に緊張した面持ちで席から立ったツグナに、隣に座っていた尊琉がスプーンを口に咥えながら訊ねる。
「どうやら敵は俺たちに束の間の休みすら与えてくれないらしい。仕事だ――俺は先に行ってる。ここは任せた」
言うや否や、ツグナはテーブルの上に手を付けていた料理に目もくれず、そのまま外へ駆け出した。
灰色のフードを頭からすっぽりと被った彼は、白い歯を見せながら口の端を大きく吊り上げ、ゾッとするほどの狂気を秘めた笑みを浮かべていた。
広大な敷地の中央に位置する広場とあってか、その中央に立つ彼の前を大勢の客が右に左に通り過ぎていく。中には「何だこの薄気味悪いヤツは……」と眉をひそめる者もいたが、大抵の人間は九条のことなど気にも留めない。
まるで彼の立つ場所だけが切り取られたかのように、周囲の楽し気な喧騒とは対極に位置する空気が漂う。
「キヒッ……イヒヒヒッ……」
フードの奥、引き攣った笑みから漏れる声。ただならぬ空気を纏う九条に対し、周囲の客もさすがに言い様のない不気味さを感じ取って距離を置き始めた矢先――
「ククッ……アヒャヒャヒャヒャッ!」
突如として狂ったような高笑いを上げた九条は、アザエルの手による「改造」を経て獲得したその力を惜しげもなく解放する。
九条が自身に宿る力を解放した瞬間、禍々しい気が爆発的に膨れ上がり、その身を変容させていく。
やがて――彼が立っていた場所には、深紅の骨のみで形成された一体の巨大な竜がその姿を現した。
「な、何だ!?」
「あれってドラゴン……?」
「何かのイベントか?」
突如として現れたその竜に、周囲にいた客は驚きの声を上げ、中にはその様子をスマートフォンのカメラで撮影する者もいた。
「グルルルゥウウアアアアッ!」
高さ10メートルを優に超えるその竜は、骨のみの両翼を広げ、耳をつんざくほどの咆哮を上げる。そしてギロリと辺りに集まる客を睥睨すると――徐にその身をグイっと捻った。
身を捻ったことで広げられた翼がさながら振るわれた鎌の如く轟音を響かせる。その衝撃はすさまじく、翼が直撃した金属製の外灯はまるで飴細工のように圧し折られ、旋回によって発生した豪風が広場に植えられた木を大きく揺らした。
「う、うわあああああああああっ!?」
「じょ、冗談じゃねぇぞ!」
「ちょ、ヤバイヤバイ! 逃げろ!」
「きゃああああああああああああっ!」
当初は面白がって近くから撮影していた者もその尋常ではない事態に恐れ戦き、蜘蛛の子を散らすように一目散にその場から遁走し始める。
「ギャオオオオオオオオオッ!」
再び轟き渡る咆哮に恐怖心が掻き立てられ、瞬く間にパニック状態となった客は一斉に出口を求めて駆け出した。
さながら怪獣映画にでも出てきそうな光景が繰り広げられるなか、その竜はゆっくりと歩み始める。
一歩、また一歩と足を踏み出すのに合わせ、大地が揺れる。やがて広場の入り口にまで到達したその竜は、一度大きく口を開けると、設置されたアーケードに向かってその鋭い牙を突き立てた。
鉄骨でできたそのアーケードは、常人の力では殴ったところで拳の跡すらつけられないだろう。しかしながら、現れた竜は易々とそのアーケードを噛み砕き、薙ぎ払うように繰り出された手がベキリと音を立てて根元から鉄骨をなぎ倒す。振り上げた尻尾を叩きつければ地面が割れ、咆哮の衝撃波が周囲の建物の壁に亀裂を生じさせ、窓ガラスを砕き割る。
さながら「歩く災害」とも形容すべきその竜は、ひとしきり辺りをならした後、まるで誰かを待つようにその場で制止する。
すでに近くに人影はなく、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返った広場。
「グルルウウゥ……」
唸り声を上げた竜は、その目を晴れ渡る青空に向けながらその時をじっと待つのだった。
「っ――!?」
時間は少し遡り、九条武治が自身に宿る力を解放した直後。丁度昼食を摂っていたツグナは、自身の持つ「気配感知」のスキルが告げた身に覚えのある気配にガタリと席を立って辺りを見回した。
「……ふぇ? どうしたんですか、師匠?」
急に緊張した面持ちで席から立ったツグナに、隣に座っていた尊琉がスプーンを口に咥えながら訊ねる。
「どうやら敵は俺たちに束の間の休みすら与えてくれないらしい。仕事だ――俺は先に行ってる。ここは任せた」
言うや否や、ツグナはテーブルの上に手を付けていた料理に目もくれず、そのまま外へ駆け出した。
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