44 / 75
1章
44.冷たい雨の夜2
しおりを挟む
痛みとショックで崩れ落ちそうになる俺の体を、今だエドに掴まれたままの左腕が無理やりに支える。
「イオ」
名を呼ばれた俺が、のろのろと顔を上げるとエドはほわりと微笑んだ。
あまりにも場にそぐわない、その奇妙で無邪気な微笑に、俺はようやくエドが単に酔っているのではないのだと思い至り、己の鈍くささに舌打ちしたい気持ちになった。
「っお前に、何が、あったって言うんだよ」
俺は脈打つたびに走る右腕の激痛に耐えながら問うが、エドは人の腕を握りつぶした後ろめたさなど全く感じさない、何処かキョトンとした顔をする。
そんなエドに俺はゾッとするモノを感じ、このままでは左の腕も潰されるかも知れないと言う恐怖に駆られた。
「エド、手を離して」
震えそうな足を叱咤して静かにエドに話しかければ、俺の左腕は意外なほどあっさりと解放される。
「ありがと」
自由になった左腕で折られた右腕を抱えながら、俺はゆっくりと右足を引く。
「イオ?」
不思議そうに首をかしげるエドと目を合わせたまま、もう一歩後ろに下がって距離をとる。
ゆっくり、ゆっくりとエドを刺激しない様に後退したが、二メートルほど離れた辺りでエドの纏う空気が変わった。
「……、……イオ」
硬い声が耳に届いた瞬間、俺は踵を返し目の前の男から逃げ出した。
「どっ、どうしよう、どうしよう、警備兵さん――は、駄目だエドより弱いっ」
パニックになってはいけない、冷静にならなければと考えるほど、混乱が加速する。
「そうだ、マイロさんに連絡して――」
――カッ
角を曲がったところで、背後から聞こえた石畳を蹴る音が俺の足音に重なる。
「クソッ、やっぱ追って来るのかっ」
俺は折られた腕を庇いながら迫りくるエドを撒くため、暗くて狭い路地裏を地の利をいかし、転げる様に駆け抜けた。
しかし、負傷により加速が付けられなかった俺はものの数分の追いかけっこの後、角を曲がった際に翻った長く伸ばした襟足の髪を無造作に掴まれ、いともたやすくエドに捕まってしまった。
「痛っ! 何でこんな事するんだよ!」
獲物をつるし上げる様に髪を引かれ、そのあまりな扱いに声を上げる。
しかし次の瞬間、俺は掴まれた髪を思い切り振り回され、その勢いで薄汚れたレンガ造りの壁に顔面から激突した。
***
頬にツキンと痛みを感じてぼんやりと目を開けると、薄暗い街灯に照らされた綺麗な男の顔があった。
「……アイツには、……のに、どうして、俺からは逃げる」
男から発せられた声は、なんだかとても悲しげでこっちまで悲しくなる。
「いっ、つ」
一瞬意識が飛んでいたらしく、気が付けば俺はエドによって路地裏の壁に押し付けられていた。
「何の、話し……だよ」
意味の分からないことを口走りながら、右手と右足だけで完全に俺を拘束する男を、改めて見る。
流石にここまで来るとエドが単に酒に酔っているだけではない異常事態なのだと確信したが、だからと言って俺の置かれた状況は変わらない。
いっそこの男は俺の知っているエドヴァルド・オリヴィエでは無いと言われた方がよっぽど良い。
しかし、目の前に二つ並ぶ空色に金色が差した稀有な瞳を持つ者を、俺はエド以外に知らない。
「だって、イオ、ルーイと寝たんだろ?」
物理的にお手上げ状態の俺が大人しく次の言葉を待っていると、エドはほわほわと無害そうな、どこか拗ねた子どもみたいな顔でとんでもない事を言いだした。
俺は「寝る」と言う言葉の意味をとらえあぐね一瞬ポカンとしてしまったが、その言葉の指す意味を理解した瞬間、頭にカッと血が上る。
「っ寝てない」
俺は蚊の鳴くような声で否定した。
本当なら、そんな事あるわけないだろ! と声を大にしたかったが、先ほど壁に顔を打ち付けた時に頬骨にヒビでも入ったのか、口を大きく開こうとした瞬間、顔面に鋭い痛みが走ったのだ。
自分でも聞き取れ無い様な小さな声ではあったが、耳の良いエドにはちゃんと伝わったようで、彼は俺の言葉を聞くとどこかホッとしたように微笑んだ。
その反応からエドの満足のいく返答が出来たのだと思った俺は、無意識のうちに安堵の息をつく。
しかしホッとしたのもつかの間、またしてもエドがとんでもない事をぬかす。
「確かめる」
エドの空いた手が、気の抜けていた俺のボトムにかかる。
「はっ? え?」
完全に油断していた俺は、抵抗の意志を示す間もなく下着ごと一気にボトムを下げられ、露わになった肌が冬の冷気に触れた。
「ヒッ」
「ははっ、寒いとココが縮こまるのは、人間も同じなんだな……」
いきなり服を剥かれ現状に付いて行けない俺をよそに、エドは俺のトップスの長い裾を持ち上げて、人の急所をまじまじと眺めながら感想を述べる。
「はっ、なっ、何してんだよっ!」
目前の光景に俺は顔の痛みも忘れて声を荒げるが、エドはお構いなしにトップスの裾から手を差し込み俺の腹を直に撫でた。
「つっ」
冷え切っていた氷の様な手に、思わず身が縮む。冷たい手は服の中を這い上がり、俺のエドよりは薄いが人間なりに筋肉の付いた胸を、下から押し上げる様にやわやわと揉み始めた。
「……あのエド、俺は女の子じゃないんだけど?」
その行動に、もしや自分は誰かと間違えられているのではと思い至った俺は、恐る恐る声をかけてみるが、エドは小バカにしたように鼻で笑うと、そのまま俺の首に猫の様にスリスリと顔を埋めて何も答えない。
そうこうしているうちに、俺の体温が移ったエドの手は、今度は胸の突起を摘まんだりカリカリと引っ掛かき俺はますます困惑した。
「ン゛ッ」
あまりに執拗に胸を弄られて、俺の口から変な声が漏れる。
そんな自分にギョッとしている俺に気づいたのかは分からないが、散々人の胸を弄っていた遠慮を知らない手は、それを合図とばかりにするりと背中に回り、背骨をなぞる様に臀部へと降りた。
ここに来て、俺はようやくエドがこれから何をする気なのかを想像して血の気が引いた。
「エド、エド! 俺は男だぞ!」
声を上げると口の中に血の味が広がるが、そんなことに構っている余裕はなかった。
人の尻を鷲掴みしていたその指が、割れ目の肉に食い込む。
「痛っ、やっ……やだやだやだやだっ! いやだっ!」
俺は肩でエドの頭を押し、折られた腕すら振り回し恥も外聞もなくわめき暴れたが、そんな抵抗など意に介さずエドは俺を力任せに壁に押し付け、再び顔を寄せて来る。
だから俺は唯一自由になる口で、エドのそのあご先に正気に戻ってくれと言う気持ちを込めて、犬歯を立てて噛みついた。
流石に噛まれるなどと思っていなかっただろうエドは、瞬時に顔を離し二撃目を狙った俺の頬をパンッと張った。
しかし今度は意識を飛ばさなかった俺は、フーフーと手負いの獣のように唸りながらエドを睨み上げる。
俺は……、エドの事が好きだ。
好意と言う気持ちの延長線上に、こう言う行為が含まれる事は経験のない俺にだって分かる。
だけど、俺はこいつと付き合ってるわけでも無いし、もし付き合ってだとしてもこんな訳が分からない状態のこいつにヤられるのは絶対に嫌だ!
「お前おかしいよ!」
じくじく痛む傷に響くのも構わず叫ぶと、その拍子にボロッと目から涙が零れた。
それを皮切りに俺の両目からボロボロと涙が溢れだす。
「エドだってホントは俺とこんな事したくないだろ? お前は女の子が好きだし、何でこんな――いっいやだ! いやだよエド」
泣きわめく俺の後ろに容赦なく押入って来るモノがある。
その異物感と痛み、そして恐怖に、ボロボロと後から後から涙がこぼれた。
「い、やだ」
俺を壁に押しつけるエドの腕を、拘束が甘くなった左腕で剥がそうと必死になるが、この手が自分のモノじゃないみたいに震えて力が入らない。
「うっ」
エドの指であろうモノが中で動く度に、俺は嗚咽を上げながら蚊の鳴くような声で「痛い」「やだ」とエドに懇願したが、彼にはもう俺の声なんか届いていない様だった。
どうにかしなきゃと思うのに、震える体は動かせなくなって、涙で滲む視界に写った光景がガタガタと揺れた。
「うっ、うっ……えど、や……だよ」
エドは俺の太腿に引っ掛かったままのボトムを踏み落とし、そのまま地面に縫い付けながら自分のボトムの前をくつろげる。
バックルを外すカチャカチャと言う音が暗い路地裏に響き、俺は固く目を閉じた。
***
それは杭で穿たれたみたいな、吐き気を催す激痛だった。
「ん゛う゛」
何度も何度も突き上げられて、内臓が押される衝撃に声が漏れそうになるのを俺は奥歯を噛みしめてこらえるが、エドはそんな俺の様子に気がつくと、更に激しく突き上げ、まるで俺に声を上げさせようとしているかの様だった。
壁に押し付けられるように立ったままの姿勢で突き上げられるので、背中は石壁に擦れて痛いし後頭部も何度もぶつけている。
指を突っ込むだけ突っ込んで、結局ろくに慣らされなかった尻は指より太いエドのモノによって更に裂かれてひどい有様になっているだろう。それは俺の気を失わせてくれない屈辱的な痛みから想像できた。
「ふっ」
ひと際強く突き上げられ、エドが小さく息を吐き俺の中でイッたことが分かる。
これで解放されるのかと薄目を開けた瞬間、体を離された俺は、自力で立っている事も出来ず無様に地面に転がる。受け身も取れず、薄汚れた石畳で頭をしたたかに打ち付け目の前に星が飛んだ。
「いた、い」
あっちもこっちも痛いのに、呟く言葉を聞いてくれる者はいない。
四肢を投げ出して転がる俺にエドは覆いかぶさって、かろうじて引っかかっていたボトムと下着を剥ぎ取ると、今度は自分の肩に俺の足を乗せて精と血でグチャグチャであろうそこに再び押入った。
「ん゛」
内臓を突かれ、口から生理的な声が漏れるが俺にはもう抵抗する気力はなく、投げ出した自分の指先をぼんやりと眺めていた。
路地裏のすえた臭いに、精と血が混じった臭いが満ちて吐き気がこみ上げるのを耐えながら、俺は揺すられるたびに体中で感じる痛みで意識を保ち、この悪夢のような時間が早く終わる事だけを祈り続けた。
どれくらいそうしていただろう。
エドの体温が離れて俺の下半身が冷たい地面に下された。
視線をエドに向けると、俺に背を向けて服を整え身支度をしていたので、あぁやっとこの悪夢が終わったのだと安堵した。
「……立てるか?」
もがく様に体を起こしていると、てっきりそのまま立ち去るものだと思っていたエドが、振り返って話しかけてきて俺は驚く。
散々地面に擦り付けられた小汚い俺とは対照的に、きちんと身なりを整えたエドはどこか困惑したような顔をして俺を見下ろしていた。
何を言ってんだこいつは?
それはさっきまで強姦していた相手に言うセリフなのか?
俺は急変したエドの態度に再び恐怖を覚える。
やっぱり今のエドは何かおかしい、ここで返答を間違えたら今度は何をされるか分からない、そんな妄想に取り憑かれた俺は、何も返事が出来ず結果的にエドを無視して投げ出されたままの服に手を伸ばした。
「家まで、送る」
朦朧とする頭で、ボトムの色が汚れの目立たない黒で良かったな。そんな事をぼんやり考え、折れた腕を庇いながら、もたもたと衣服を整えているとエドが小さな声で申し出た。
「……大丈夫。俺ん家ここから近いし一人で平気だからエドはもう行って」
もう一度エドを無視するのも恐ろしくて、俺はなるべく彼を刺激をしない様に当たり障りなく返す。
「怪我、治す」
「俺は本当に大丈夫だから帰って」
何故か食い下がるエドに、恐怖で体がガタガタと震えるのを奥歯を噛みしめて耐えた。
何とか服を身に着けて一刻も早くこの場から離れなければと顔を上げると、目の前にエドが――
「触るなっ!!」
限界だった。
おそらく回復魔法を掛けようとして、伸ばしたエドの手がピクリと跳ねる。
しかしそれを気にかける余裕は俺にはもう無かった。
「お願いだからっ、俺の前から去ってくれ!」
俺は自分で自分を掻き抱き泣きじゃくりながら叫ぶ。
こんなことを言ったら、今度は殺されてしまうかもしれないと理性では分かっていたが、心が限界だった。
地面に額を付けてうずくまる俺に、エドがどんな顔をしているかは分からなかったが、彼は何も言わず路地裏には沈黙が満ちた。
――ポツ。
耳が痛いほどの静寂を破ったのは冷たい雨だった。
ポツリポツリと降り出した雨は次第に勢いを増して俺たちを濡らす。
「連絡、する」
しばらくして雨音にかき消されそうな声が聞こえ、靴底が石畳にぶつかる音が遠ざかる。
俺はのろのろと顔を上げ、エドの背中をぼんやりと見送った。
沢山の雨粒が俺の頬を伝って落ちていった。
「イオ」
名を呼ばれた俺が、のろのろと顔を上げるとエドはほわりと微笑んだ。
あまりにも場にそぐわない、その奇妙で無邪気な微笑に、俺はようやくエドが単に酔っているのではないのだと思い至り、己の鈍くささに舌打ちしたい気持ちになった。
「っお前に、何が、あったって言うんだよ」
俺は脈打つたびに走る右腕の激痛に耐えながら問うが、エドは人の腕を握りつぶした後ろめたさなど全く感じさない、何処かキョトンとした顔をする。
そんなエドに俺はゾッとするモノを感じ、このままでは左の腕も潰されるかも知れないと言う恐怖に駆られた。
「エド、手を離して」
震えそうな足を叱咤して静かにエドに話しかければ、俺の左腕は意外なほどあっさりと解放される。
「ありがと」
自由になった左腕で折られた右腕を抱えながら、俺はゆっくりと右足を引く。
「イオ?」
不思議そうに首をかしげるエドと目を合わせたまま、もう一歩後ろに下がって距離をとる。
ゆっくり、ゆっくりとエドを刺激しない様に後退したが、二メートルほど離れた辺りでエドの纏う空気が変わった。
「……、……イオ」
硬い声が耳に届いた瞬間、俺は踵を返し目の前の男から逃げ出した。
「どっ、どうしよう、どうしよう、警備兵さん――は、駄目だエドより弱いっ」
パニックになってはいけない、冷静にならなければと考えるほど、混乱が加速する。
「そうだ、マイロさんに連絡して――」
――カッ
角を曲がったところで、背後から聞こえた石畳を蹴る音が俺の足音に重なる。
「クソッ、やっぱ追って来るのかっ」
俺は折られた腕を庇いながら迫りくるエドを撒くため、暗くて狭い路地裏を地の利をいかし、転げる様に駆け抜けた。
しかし、負傷により加速が付けられなかった俺はものの数分の追いかけっこの後、角を曲がった際に翻った長く伸ばした襟足の髪を無造作に掴まれ、いともたやすくエドに捕まってしまった。
「痛っ! 何でこんな事するんだよ!」
獲物をつるし上げる様に髪を引かれ、そのあまりな扱いに声を上げる。
しかし次の瞬間、俺は掴まれた髪を思い切り振り回され、その勢いで薄汚れたレンガ造りの壁に顔面から激突した。
***
頬にツキンと痛みを感じてぼんやりと目を開けると、薄暗い街灯に照らされた綺麗な男の顔があった。
「……アイツには、……のに、どうして、俺からは逃げる」
男から発せられた声は、なんだかとても悲しげでこっちまで悲しくなる。
「いっ、つ」
一瞬意識が飛んでいたらしく、気が付けば俺はエドによって路地裏の壁に押し付けられていた。
「何の、話し……だよ」
意味の分からないことを口走りながら、右手と右足だけで完全に俺を拘束する男を、改めて見る。
流石にここまで来るとエドが単に酒に酔っているだけではない異常事態なのだと確信したが、だからと言って俺の置かれた状況は変わらない。
いっそこの男は俺の知っているエドヴァルド・オリヴィエでは無いと言われた方がよっぽど良い。
しかし、目の前に二つ並ぶ空色に金色が差した稀有な瞳を持つ者を、俺はエド以外に知らない。
「だって、イオ、ルーイと寝たんだろ?」
物理的にお手上げ状態の俺が大人しく次の言葉を待っていると、エドはほわほわと無害そうな、どこか拗ねた子どもみたいな顔でとんでもない事を言いだした。
俺は「寝る」と言う言葉の意味をとらえあぐね一瞬ポカンとしてしまったが、その言葉の指す意味を理解した瞬間、頭にカッと血が上る。
「っ寝てない」
俺は蚊の鳴くような声で否定した。
本当なら、そんな事あるわけないだろ! と声を大にしたかったが、先ほど壁に顔を打ち付けた時に頬骨にヒビでも入ったのか、口を大きく開こうとした瞬間、顔面に鋭い痛みが走ったのだ。
自分でも聞き取れ無い様な小さな声ではあったが、耳の良いエドにはちゃんと伝わったようで、彼は俺の言葉を聞くとどこかホッとしたように微笑んだ。
その反応からエドの満足のいく返答が出来たのだと思った俺は、無意識のうちに安堵の息をつく。
しかしホッとしたのもつかの間、またしてもエドがとんでもない事をぬかす。
「確かめる」
エドの空いた手が、気の抜けていた俺のボトムにかかる。
「はっ? え?」
完全に油断していた俺は、抵抗の意志を示す間もなく下着ごと一気にボトムを下げられ、露わになった肌が冬の冷気に触れた。
「ヒッ」
「ははっ、寒いとココが縮こまるのは、人間も同じなんだな……」
いきなり服を剥かれ現状に付いて行けない俺をよそに、エドは俺のトップスの長い裾を持ち上げて、人の急所をまじまじと眺めながら感想を述べる。
「はっ、なっ、何してんだよっ!」
目前の光景に俺は顔の痛みも忘れて声を荒げるが、エドはお構いなしにトップスの裾から手を差し込み俺の腹を直に撫でた。
「つっ」
冷え切っていた氷の様な手に、思わず身が縮む。冷たい手は服の中を這い上がり、俺のエドよりは薄いが人間なりに筋肉の付いた胸を、下から押し上げる様にやわやわと揉み始めた。
「……あのエド、俺は女の子じゃないんだけど?」
その行動に、もしや自分は誰かと間違えられているのではと思い至った俺は、恐る恐る声をかけてみるが、エドは小バカにしたように鼻で笑うと、そのまま俺の首に猫の様にスリスリと顔を埋めて何も答えない。
そうこうしているうちに、俺の体温が移ったエドの手は、今度は胸の突起を摘まんだりカリカリと引っ掛かき俺はますます困惑した。
「ン゛ッ」
あまりに執拗に胸を弄られて、俺の口から変な声が漏れる。
そんな自分にギョッとしている俺に気づいたのかは分からないが、散々人の胸を弄っていた遠慮を知らない手は、それを合図とばかりにするりと背中に回り、背骨をなぞる様に臀部へと降りた。
ここに来て、俺はようやくエドがこれから何をする気なのかを想像して血の気が引いた。
「エド、エド! 俺は男だぞ!」
声を上げると口の中に血の味が広がるが、そんなことに構っている余裕はなかった。
人の尻を鷲掴みしていたその指が、割れ目の肉に食い込む。
「痛っ、やっ……やだやだやだやだっ! いやだっ!」
俺は肩でエドの頭を押し、折られた腕すら振り回し恥も外聞もなくわめき暴れたが、そんな抵抗など意に介さずエドは俺を力任せに壁に押し付け、再び顔を寄せて来る。
だから俺は唯一自由になる口で、エドのそのあご先に正気に戻ってくれと言う気持ちを込めて、犬歯を立てて噛みついた。
流石に噛まれるなどと思っていなかっただろうエドは、瞬時に顔を離し二撃目を狙った俺の頬をパンッと張った。
しかし今度は意識を飛ばさなかった俺は、フーフーと手負いの獣のように唸りながらエドを睨み上げる。
俺は……、エドの事が好きだ。
好意と言う気持ちの延長線上に、こう言う行為が含まれる事は経験のない俺にだって分かる。
だけど、俺はこいつと付き合ってるわけでも無いし、もし付き合ってだとしてもこんな訳が分からない状態のこいつにヤられるのは絶対に嫌だ!
「お前おかしいよ!」
じくじく痛む傷に響くのも構わず叫ぶと、その拍子にボロッと目から涙が零れた。
それを皮切りに俺の両目からボロボロと涙が溢れだす。
「エドだってホントは俺とこんな事したくないだろ? お前は女の子が好きだし、何でこんな――いっいやだ! いやだよエド」
泣きわめく俺の後ろに容赦なく押入って来るモノがある。
その異物感と痛み、そして恐怖に、ボロボロと後から後から涙がこぼれた。
「い、やだ」
俺を壁に押しつけるエドの腕を、拘束が甘くなった左腕で剥がそうと必死になるが、この手が自分のモノじゃないみたいに震えて力が入らない。
「うっ」
エドの指であろうモノが中で動く度に、俺は嗚咽を上げながら蚊の鳴くような声で「痛い」「やだ」とエドに懇願したが、彼にはもう俺の声なんか届いていない様だった。
どうにかしなきゃと思うのに、震える体は動かせなくなって、涙で滲む視界に写った光景がガタガタと揺れた。
「うっ、うっ……えど、や……だよ」
エドは俺の太腿に引っ掛かったままのボトムを踏み落とし、そのまま地面に縫い付けながら自分のボトムの前をくつろげる。
バックルを外すカチャカチャと言う音が暗い路地裏に響き、俺は固く目を閉じた。
***
それは杭で穿たれたみたいな、吐き気を催す激痛だった。
「ん゛う゛」
何度も何度も突き上げられて、内臓が押される衝撃に声が漏れそうになるのを俺は奥歯を噛みしめてこらえるが、エドはそんな俺の様子に気がつくと、更に激しく突き上げ、まるで俺に声を上げさせようとしているかの様だった。
壁に押し付けられるように立ったままの姿勢で突き上げられるので、背中は石壁に擦れて痛いし後頭部も何度もぶつけている。
指を突っ込むだけ突っ込んで、結局ろくに慣らされなかった尻は指より太いエドのモノによって更に裂かれてひどい有様になっているだろう。それは俺の気を失わせてくれない屈辱的な痛みから想像できた。
「ふっ」
ひと際強く突き上げられ、エドが小さく息を吐き俺の中でイッたことが分かる。
これで解放されるのかと薄目を開けた瞬間、体を離された俺は、自力で立っている事も出来ず無様に地面に転がる。受け身も取れず、薄汚れた石畳で頭をしたたかに打ち付け目の前に星が飛んだ。
「いた、い」
あっちもこっちも痛いのに、呟く言葉を聞いてくれる者はいない。
四肢を投げ出して転がる俺にエドは覆いかぶさって、かろうじて引っかかっていたボトムと下着を剥ぎ取ると、今度は自分の肩に俺の足を乗せて精と血でグチャグチャであろうそこに再び押入った。
「ん゛」
内臓を突かれ、口から生理的な声が漏れるが俺にはもう抵抗する気力はなく、投げ出した自分の指先をぼんやりと眺めていた。
路地裏のすえた臭いに、精と血が混じった臭いが満ちて吐き気がこみ上げるのを耐えながら、俺は揺すられるたびに体中で感じる痛みで意識を保ち、この悪夢のような時間が早く終わる事だけを祈り続けた。
どれくらいそうしていただろう。
エドの体温が離れて俺の下半身が冷たい地面に下された。
視線をエドに向けると、俺に背を向けて服を整え身支度をしていたので、あぁやっとこの悪夢が終わったのだと安堵した。
「……立てるか?」
もがく様に体を起こしていると、てっきりそのまま立ち去るものだと思っていたエドが、振り返って話しかけてきて俺は驚く。
散々地面に擦り付けられた小汚い俺とは対照的に、きちんと身なりを整えたエドはどこか困惑したような顔をして俺を見下ろしていた。
何を言ってんだこいつは?
それはさっきまで強姦していた相手に言うセリフなのか?
俺は急変したエドの態度に再び恐怖を覚える。
やっぱり今のエドは何かおかしい、ここで返答を間違えたら今度は何をされるか分からない、そんな妄想に取り憑かれた俺は、何も返事が出来ず結果的にエドを無視して投げ出されたままの服に手を伸ばした。
「家まで、送る」
朦朧とする頭で、ボトムの色が汚れの目立たない黒で良かったな。そんな事をぼんやり考え、折れた腕を庇いながら、もたもたと衣服を整えているとエドが小さな声で申し出た。
「……大丈夫。俺ん家ここから近いし一人で平気だからエドはもう行って」
もう一度エドを無視するのも恐ろしくて、俺はなるべく彼を刺激をしない様に当たり障りなく返す。
「怪我、治す」
「俺は本当に大丈夫だから帰って」
何故か食い下がるエドに、恐怖で体がガタガタと震えるのを奥歯を噛みしめて耐えた。
何とか服を身に着けて一刻も早くこの場から離れなければと顔を上げると、目の前にエドが――
「触るなっ!!」
限界だった。
おそらく回復魔法を掛けようとして、伸ばしたエドの手がピクリと跳ねる。
しかしそれを気にかける余裕は俺にはもう無かった。
「お願いだからっ、俺の前から去ってくれ!」
俺は自分で自分を掻き抱き泣きじゃくりながら叫ぶ。
こんなことを言ったら、今度は殺されてしまうかもしれないと理性では分かっていたが、心が限界だった。
地面に額を付けてうずくまる俺に、エドがどんな顔をしているかは分からなかったが、彼は何も言わず路地裏には沈黙が満ちた。
――ポツ。
耳が痛いほどの静寂を破ったのは冷たい雨だった。
ポツリポツリと降り出した雨は次第に勢いを増して俺たちを濡らす。
「連絡、する」
しばらくして雨音にかき消されそうな声が聞こえ、靴底が石畳にぶつかる音が遠ざかる。
俺はのろのろと顔を上げ、エドの背中をぼんやりと見送った。
沢山の雨粒が俺の頬を伝って落ちていった。
10
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
腐男子♥異世界転生
よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。
目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。
トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる