乙女ゲーの世界でツンデ令嬢を溺愛する

赤色愛好家

文字の大きさ
2 / 9
ハジマリの章

ここは現実?

しおりを挟む
目がさめると知らない天井だった。

「………は?」

もえは思わず声をあげた。

「あら、起きたのね。」

声のした方を見ると美幼女がいた。
縦ロールの金髪に吊り上がった蒼目だ。
ふふん、と得意気に笑う様子は、まさに"竜の姫君"の悪役、フィフィリアのようで…

「私はフィフィリア・イディアよ!」

はい確定。
どうやらこれは乙女ゲーの世界に転生(?)♡という展開らしい。

「あなた!名前は?」

「あ、柊もえです…。」

「そう。ヒイラギ!今日から私の下僕となる権利をあげるわ!喜びなさい!」

「いや、もえが名前なんですけど…ナンデモナイデスハイ!」

ここでフィフィリアのことを捕捉しておこう。
まず、ゲームの設定では契約している竜はいないものの、第一王子の婚約者であるため同じ学園に通っていた。
しかし契約竜がいないことがコンプレックスで主人公を虐めるのだ。
性格はワガママで残酷。見た目もゴテゴテとした典型的な悪役令嬢である。

しかし、もえは彼女のこともあまり知らなかった。何故ならドラゴンに夢中だったから。
ちなみに攻略対象達のこともよく知らない。何故ならドラゴンに夢中だったから。

ここでもえに魔がさした。
ここは異世界だ。というか多分夢だ。ちょっとくらいはっちゃけてもいいかもしれない。
設定をいじってみたらどうなるのか。
だから、ほんの軽~い気持ちで。

「私…ドラゴンなの。契約する気はない?」

フィフィリアが目を見開いて固まった。
目の前の人間がドラゴンだと言われて驚かない人もそうそういないだろう。
しかし、竜と契約することに異存があるわけもなく。

「い、いいわ。契約してあげる…!」

震えながらも歓喜の声をあげた。
よほど嬉しかったのか、バラ色になった頬が緩みきっている。
キラキラと見上げてくる美幼女に、もえはあっけなく陥落した。

(…え?あれ?この子悪役だよね?可愛くね?いや、可愛い!可愛いよフィフィたん!)

「じゃ、じゃあさっさとやっちゃおうか。」

フィフィリアの手を取って手首をなぞる。
じわじわと紋章が浮き上がってきた。
なぞるたびに濃くなっていく。
この印は、この人間は私のもの!と示すもので、いわゆるマーキングである。
カッと光ったかと思えば手首には黒薔薇が描かれていた。

「うん!出来た出来た!これからよろしくね…ぇと、フィフィって呼んでいい?」

流石にフィフィたんはマズイだろうと遠慮したのだが…。もえの問いかけには答えず、フィフィリアは自分の手首を食い入るように見つめていた。
気に食わなかったかと心配になり顔を覗き込むと、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。

「ぁ…あ…わた、わたくし…っ」

どんな弱小貴族でも契約竜を持っている者がほとんどの世界で、この小さな女の子がどれほど苦悩してきたかはわからないが…。

「もう…もう大丈夫だよ。私が守るからね、安心して…私のフィフィ。」

もえがこの世界でフィフィリアを守ることを決意するには十分な出来事であった。






なんとなく流されてしまった感が否めないが、ここは夢の中の筈だ。
もえは一度冷静に考えることにした。

(目の前にいるフィフィはイキイキとしていて現実のようだし、自分に魔力らしきものが流れているのもわかるけれど。私には身寄りがなくて悲劇のヒロインぶってた時期もあったけれど。まさか…まさか、ね?)

もえは自分の頰をムギュッとつねってみたがやはり痛みは感じない。

(あぁ…なんだ夢なのか。安心したよーな、残念なよーな…。)

ブッチィ

「…んぇ?」
「……いやァァァ!!」

手には頰の感触に加えてヌルッとした何かが…

「…アアアァァァァァ!!」

もえの頰はもげた。
ドロドロとした暖かいナニカがここがリアルだと主張していた。

顔面蒼白なもえの目の前でとうとうフィフィが倒れた為、片手で頰を抑え、片手でフィフィを支えるというカオスな状況に陥ってしまった。

(治れ治れ治れ治れ治れ治れェ…!)

もえの祈りが通じたのかどうなのか。
頰がグチグチと嫌にリアルな音を立てて元に戻り始めた。

てんやわんやな現場が落ち着いた頃、目を覚ましたフィフィに土下座をする少女がいた。

その少女はのちにこう語る。

「いやぁ、あの時は流石に生きた心地がしませんでしたよ!でもそのおかげでここが現実たと理解出来ました!たまには力技も必要なのかなって…思った瞬間ですね。」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく…… (第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)

【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない

As-me.com
恋愛
完結しました。 自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。 そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。 ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。 そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。 周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。 ※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。 こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。 ゆっくり亀更新です。

【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの
恋愛
 ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。  ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!  そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。  ゲームの強制力?  何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。 なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。 超ご都合主義のハッピーエンド。 誰も不幸にならない大団円です。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...