父の後妻に婚約者を盗られたようです。

和泉 凪紗

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7.浮気の代償

 あれからわたしたちはユーシス様とお義母様の関係について、二人に詳細な話を聞くことにした。二人の親にも同席してもらってだ。
 わたしの婚約破棄やお父様の離婚、慰謝料を請求するだけならそこまでしなくても良いのかもしれない。ただ、わたしは二人の関係を明らかにしてしっかりと慰謝料を請求したかった。
 ……あと、完全に吹っ切りたかった。それに、ユーシス様の家が婚約破棄に難色を示すかもしれない。納得してもらうためにも二人の関係を明らかにする必要がある。


「それで、ユーシス様とお義母様はいつからお付き合いされているのですか?」
「いや、付き合っていると言うと誤解が……」
「では、いつから浮気していらっしゃったんですか?」
「いや、別に浮気というほどでも……」
「普通に浮気ですから。で、いつからなんですか?」
「……一年半前くらいから」
「一年半前から……。そんなに長い間……」

 ユーシス様が忙しいとあまり会いに来てくれなくなったのは一年ほど前からだ。その頃からお義母様との関係にのめり込んでいったのだろうか。

「どちらからですか?」
「どちらからというのは……?」
「どちらから誘ったのかを聞いているんです」
「……自然な流れで……」

 自然な流れって何?

「では、浮気をしておきながらプレゼントをわたしの家族や屋敷の人間まで贈ってくれていたのは?」
「…………」
「理由はなんなのですか?」
「……ロレッタ様にも贈るにはいろんな人にも贈った方が都合がいい」
「それって、お義母様にかなり本気だったということですね」
「それは……」
「では、お義母様と結婚なされば良かったのでは?」
「それではこの家に婿として入れないだろう? アルティナのことはアルティナで愛していたし……」

 わたしのことはこの家に入るためのパーツだったらしい。

「わたしのことを愛していたのではなく、家を愛していたのですよね」
「いや、アルティナはアルティナで……」
「もう結構です。この一年ほどでお義母様の持ち物がずいぶん増えていたようですね。わたしの家族へ贈り物もありました。まさか、我が家のお金に手をつけていませんよね?」

 ユーシス様は今我が家の事業の一部門で働いている。わたしの婚約者としてそれなりに責任のある立場を任されている。この責任のある立場を任されたのは一年ほど前だ……。

「…………」
「どうなのですか? ここで黙っていても調べればわかることです。それとも沈黙は肯定ということでしょうか?」
「……いずれ僕のものになるじゃないか……」

 信じられない……。

「あなたのものにはなりません。この家のもので、あなたは一従業員です。ユーシス様が不正に手にしたお金も含めて請求いたします。もちろん利子や迷惑料なども上乗せしますから」
「時間はかかるが働いて返すから……」
「小さな額ではないでしょう? 返せるような仕事がそう簡単に見つかるかしら」
「? 今の給料なら切り詰めて、家に援助してもらいながらいけば……」
「何を寝ぼけたこと仰っているんですか? 今後、うちで働けるわけがないでしょう? それにわたしが請求しているのは使い込んだお金だけではありません。浮気による婚約破棄の慰謝料も含めてです」
「そんな……」
「返済期限や返済方法は後ほどユーシス様のご家族も含めてしっかり話し合いましょう」

 ユーシス様のお父様はなんとも言えない顔をしていた。ユーシス様に対して怒りもあり、あきれもあり、といった感じだ。慰謝料や家のことを考えるとどうすれば良いのか途方に暮れてしまうのだろう。婚約解消を回避するすべは無いことは理解してもらえたようだ。
 次はお義母様だ。お義母様はお父様が子供のできない体だということを知らないで結婚した。これにかなり不満があるようだった。お父様を傷つけるようなことがあれば許さない。お父様はわたしが守る。

「お義母様は何か言いたいことがありますか?」
「わたくしは騙されていたのです! 旦那様に子供ができないなんて聞いていません。自分の子が持てないなんて……」
「その点については同情する部分もありますが、お父様もご存じなかったのです。お父様だって好きでご病気になったわけではありません。それに、お義母様が浮気をした理由にはならないでしょう? お義母様もこのこと知ったのはつい先日のことなのですから」
「…………お父様はどうして黙っていらっしゃったのですか? 知っていればわたくしだって結婚を考えました。わたくしは当時まだ、二十歳だったんですよ」

 お義母様は自分の父親に疑問をぶつけた。

「だからだ。言えばおまえは結婚しないと言っただろう。だが、あの時は仕方なかったんだ」
「そんな……」
「あの時は我が家は傾きかけていた。未亡人となってしまったおまえを受け入れる余裕はなかった。どこかに援助してもらわなければ屋敷も失う状況だった。いろんな家に援助を依頼したが全て断られてしまった。先代のヘイリー男爵にも断られたが、何度も頼み込んでようやく援助を受けられることになったんだ」
「そんな……ではわたしは政略結婚の道具だったということですか」
「いや、無理を言っておまえと結婚してもらったんだ」
「え?」
「ヘイリー男爵は再婚を望んでいなかった。だが、我が家にはおまえを養う余裕もない。まだ幼かったアルティナ嬢には母親が必要ではと押し込んだんだ。おまえに選択権は無かった。そのかわり多くの条件をのんだ。子供の件も承知済みだ」
「ひどいです! お父様」
「ひどいのはおまえだ。ヘイリー男爵は望んだ結婚ではなかったが、おまえを大事にしてくれてただろう? どうしてこんなことをしたんだ」
「それは……」

「ヘイリー男爵、アルティナ嬢。愚かな娘がとんでもないことをして申し訳ない。なんとお詫びをすればいいか……」

 お義母様の父親はわたしたちに深く頭を下げてきた。殆ど交流のなかった人なのでどのような人かは知らなかったけれど、ちゃんとした人のようだ。

「このようになってしまった以上、今後のことはご理解されているとは思いますが……」
 
 ジョゼフがしっかりと封のされた封筒を差し出してきた。

「これは?」
「大旦那様が出した条件になります」
「お父様はご存じでしたか?」
「いや、知らなかった」

 わたしたちは封筒の中身を確認していく。いろいろなことが書いてあった。かなりたくさんの条件があったようだ。その代わり我が家は多額の支援することになっている。子供ができた場合は我が家の子供として認めないことも書いてある。その際には慰謝料も払うと。ジョゼフが高額な慰謝料を請求することになると言っていたのはこのことだったのか……。

「では、当初のお約束通り慰謝料を請求し、お祖父様とのお約束も守っていただきます」
「当然です。我が家が持ち直したのは全てヘイリー男爵家のおかげです。わたしには感謝しかありませんでした。ロレッタは連れて帰り、今後は皆さんに近づけませんのでご安心ください。この度はロレッタがとんでもないことして申し訳ありませんでした」

 こうしてわたしとユーシス様の婚約解消、お父様とお義母様の離婚が決まった。

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