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燃え盛る襲撃者
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最初の一撃は、たまたまかわせた。
謎の敵に驚いてたたらを踏み、転んだ頭上を炎が行き過ぎた。
からぶった隙を逃さず、ワントさんが炎に蹴り入れる。
だがおそらく、うまく当たらなかった。炎は先に飛び退って避けていた。
ワントさんは私を掴み上げ、坑道の出口へ向かう。
それを炎が猛追してくる。
「あれなんですか!?」
「わかんないっ!!」
ワントさんも混乱していた。
私を前に抱えている状態だから走りにくいんだろう、思ったよりも敵を引き離せない。
炎は全体像が揺らいでいまいちわかりにくいが、ぼんやりと頭と手足の形が見える。最初は獣かと思ったが、今は二本足で走っているようにも思える。
私はワントさんの肩越しに背後に矢を射って少しでも足止めできないかと思ったが、揺れが激しくてとても弓を引ける体勢にはなれなかった。
不意に追いかけてくる炎の体が膨らんだ。
私は嫌な予感がして目を大きく見開く。
ワントさんの竜のブレスのごとく、炎から放たれた火が地面を走り、一瞬で私たちのところまで届いた。
けど、私たちに触れようとした火は細かい粉のようになって散る。
アーデイティシルの無力化の魔術。火も防げたよやった!
そのまま私たちは坑道を飛び出した。
謎の敵も同じく出て来て、また火を放つ。今度は二つ。巨大な獣の口を模した火が、意思をもって左右から食らいつく。
私はいっぱい集中し、それらを寸前ですべて無害な火の粉に変えた。
どんなもんだ! あ、あ、でも連続ではそろそろ失敗しそう。
もうその攻撃やめてほしい。
だが相手はお構いなしだ。雨のように火を降らせてくる。
こんな普通じゃない攻撃は大抵、魔法魔術の類だ。無尽蔵ではないだろうが、それでも莫大な魔力を持っていることは察せられる。全然勢いが衰えない。
「ごめんリズ! 次の攻撃の後に放す!」
「はい!」
ワントさんはずっと私を抱えて、下ろす暇も与えられていなかった。
なので私が火を魔術で消した直後に、炎の本体が殴りかかってくる寸前で私を放り投げる。
ちょうど障害物のない平らなところで、問題なく受け身を取れた。
炎はワントさんとの戦いに集中しており、私のほうにはまったく目もくれない。
よって私は振りかかる火の粉を搔い潜り、すぐ近くの野営地に走りワントさんの大剣を取ってきた。
鞘は捨て、自分の身長に近い刃を岩に立てかける。
「ワントさんっ!!」
両手を振り、武器がここにあることを伝える。
一瞬の隙にワントさんはその位置を確認していた。私が弓を引き絞るのに合わせ、こちらへ駆け出す。
当然追ってくる炎の真ん中目がけ、私は援護の矢を放った。
だが炎はすんでのところで身を捩り、矢をかわす。距離があったとはいえ素早過ぎる反射だ。
すると、矢がかすめたところ、炎が散らされて人の肌色が見えた。
――火の中に人がいる?
私の目は見間違えない。どんなに遠くにあっても絶対に。
とすれば、あれは火だるまの人間なのか?
いや、そういう魔物かもしれない。魔物はさまざまな形を持っている。獣のようなもの、植物のようなもの、人のようなもの、あらゆるものがいると迷宮に潜った冒険者たちが言っていた。
逡巡する間に炎が迫り、武器を得たワントさんと再びぶつかり合う。
すっかり蚊帳の外になった私は、矢筒から矢を一本抜き、買ったばかりの薬を試してみることにした。
愛想のよい獣人お手製の麻痺毒。
丸薬は柔らかく粘り気があり、親指で潰して鏃の根元の辺りに付着させる。
相手は人間か、魔物か。どっちにもこの毒は効くだろうか。
私は息を整え、落ち着いて狙った。
やがて、敵がワントさんの一太刀を避け、ちょうど私のほうへ背を向けて着地した瞬間。
音もなく放った矢は、吸い込まれるように炎の中に消えた。
炎は大きくのけ反ったが、すぐには倒れなかった。
ワントさんの追撃を一度はかわし、だが二撃目はかわしきれず、大剣の腹に殴られ地面に体を擦られる。
最後にぱっと炎が大きく弾けて、消えた。
警戒しながら近づいていくと、上半身が刺青だらけの、半裸の男の人が肩に矢を刺したまま倒れ伏していた。
「……人間、でしょうか?」
「そうっぽいな」
「っんが!」
「わ!?」
突然引きつけのようにその人が上体を反り返らせた。起き上がるのかと思って、ワントさんは咄嗟に私を後ろに下がらせたが、そうではなかった。
手足が細かく痙攣してる。毒の効果なのかもしれない。
「矢、抜かないとっ。毒矢なんですっ」
「リズは下がってて。俺がやる」
ワントさんはその人の上に馬乗りになり、涎を垂れ流している口に適当な布を噛ませて、ナイフで肩の肉をいくらか裂いて鏃を取り出す。幸い、致命的なほど深くは刺さっていなかった。
私はリュックから革の水筒を出して中身を全部、傷口にかけた。これで毒が流れるだろうか。一応、死ぬような毒ではないはずだが。
あとはワントさんが手早く止血をし、応急処置とした。
「……と、なんとなく助けたけど、別に助けなくてもよかったんだよな」
全部できてしまってから、ワントさんがぼやいた。
まあ、そうかも。人間だったのがびっくりして手当てしちゃった。でも襲われたんだよね私たち。
「この人どうします? というか、人なんですよね? あの火は魔法でしょうか?」
「たぶん? 俺もよくは知らないけど、もしかしたらこいつ交信魔術師かも」
「それって……?」
話の途中で、ぐぉぉ、と獣声のようなすごい腹の音が鳴った。
私じゃない。ワントさんでもない。
足元に倒れている彼だ。
「メシ……食いモン……よこせぇ……」
口に詰められた布を吐き出し、虫の息で脅してきた。
謎の敵に驚いてたたらを踏み、転んだ頭上を炎が行き過ぎた。
からぶった隙を逃さず、ワントさんが炎に蹴り入れる。
だがおそらく、うまく当たらなかった。炎は先に飛び退って避けていた。
ワントさんは私を掴み上げ、坑道の出口へ向かう。
それを炎が猛追してくる。
「あれなんですか!?」
「わかんないっ!!」
ワントさんも混乱していた。
私を前に抱えている状態だから走りにくいんだろう、思ったよりも敵を引き離せない。
炎は全体像が揺らいでいまいちわかりにくいが、ぼんやりと頭と手足の形が見える。最初は獣かと思ったが、今は二本足で走っているようにも思える。
私はワントさんの肩越しに背後に矢を射って少しでも足止めできないかと思ったが、揺れが激しくてとても弓を引ける体勢にはなれなかった。
不意に追いかけてくる炎の体が膨らんだ。
私は嫌な予感がして目を大きく見開く。
ワントさんの竜のブレスのごとく、炎から放たれた火が地面を走り、一瞬で私たちのところまで届いた。
けど、私たちに触れようとした火は細かい粉のようになって散る。
アーデイティシルの無力化の魔術。火も防げたよやった!
そのまま私たちは坑道を飛び出した。
謎の敵も同じく出て来て、また火を放つ。今度は二つ。巨大な獣の口を模した火が、意思をもって左右から食らいつく。
私はいっぱい集中し、それらを寸前ですべて無害な火の粉に変えた。
どんなもんだ! あ、あ、でも連続ではそろそろ失敗しそう。
もうその攻撃やめてほしい。
だが相手はお構いなしだ。雨のように火を降らせてくる。
こんな普通じゃない攻撃は大抵、魔法魔術の類だ。無尽蔵ではないだろうが、それでも莫大な魔力を持っていることは察せられる。全然勢いが衰えない。
「ごめんリズ! 次の攻撃の後に放す!」
「はい!」
ワントさんはずっと私を抱えて、下ろす暇も与えられていなかった。
なので私が火を魔術で消した直後に、炎の本体が殴りかかってくる寸前で私を放り投げる。
ちょうど障害物のない平らなところで、問題なく受け身を取れた。
炎はワントさんとの戦いに集中しており、私のほうにはまったく目もくれない。
よって私は振りかかる火の粉を搔い潜り、すぐ近くの野営地に走りワントさんの大剣を取ってきた。
鞘は捨て、自分の身長に近い刃を岩に立てかける。
「ワントさんっ!!」
両手を振り、武器がここにあることを伝える。
一瞬の隙にワントさんはその位置を確認していた。私が弓を引き絞るのに合わせ、こちらへ駆け出す。
当然追ってくる炎の真ん中目がけ、私は援護の矢を放った。
だが炎はすんでのところで身を捩り、矢をかわす。距離があったとはいえ素早過ぎる反射だ。
すると、矢がかすめたところ、炎が散らされて人の肌色が見えた。
――火の中に人がいる?
私の目は見間違えない。どんなに遠くにあっても絶対に。
とすれば、あれは火だるまの人間なのか?
いや、そういう魔物かもしれない。魔物はさまざまな形を持っている。獣のようなもの、植物のようなもの、人のようなもの、あらゆるものがいると迷宮に潜った冒険者たちが言っていた。
逡巡する間に炎が迫り、武器を得たワントさんと再びぶつかり合う。
すっかり蚊帳の外になった私は、矢筒から矢を一本抜き、買ったばかりの薬を試してみることにした。
愛想のよい獣人お手製の麻痺毒。
丸薬は柔らかく粘り気があり、親指で潰して鏃の根元の辺りに付着させる。
相手は人間か、魔物か。どっちにもこの毒は効くだろうか。
私は息を整え、落ち着いて狙った。
やがて、敵がワントさんの一太刀を避け、ちょうど私のほうへ背を向けて着地した瞬間。
音もなく放った矢は、吸い込まれるように炎の中に消えた。
炎は大きくのけ反ったが、すぐには倒れなかった。
ワントさんの追撃を一度はかわし、だが二撃目はかわしきれず、大剣の腹に殴られ地面に体を擦られる。
最後にぱっと炎が大きく弾けて、消えた。
警戒しながら近づいていくと、上半身が刺青だらけの、半裸の男の人が肩に矢を刺したまま倒れ伏していた。
「……人間、でしょうか?」
「そうっぽいな」
「っんが!」
「わ!?」
突然引きつけのようにその人が上体を反り返らせた。起き上がるのかと思って、ワントさんは咄嗟に私を後ろに下がらせたが、そうではなかった。
手足が細かく痙攣してる。毒の効果なのかもしれない。
「矢、抜かないとっ。毒矢なんですっ」
「リズは下がってて。俺がやる」
ワントさんはその人の上に馬乗りになり、涎を垂れ流している口に適当な布を噛ませて、ナイフで肩の肉をいくらか裂いて鏃を取り出す。幸い、致命的なほど深くは刺さっていなかった。
私はリュックから革の水筒を出して中身を全部、傷口にかけた。これで毒が流れるだろうか。一応、死ぬような毒ではないはずだが。
あとはワントさんが手早く止血をし、応急処置とした。
「……と、なんとなく助けたけど、別に助けなくてもよかったんだよな」
全部できてしまってから、ワントさんがぼやいた。
まあ、そうかも。人間だったのがびっくりして手当てしちゃった。でも襲われたんだよね私たち。
「この人どうします? というか、人なんですよね? あの火は魔法でしょうか?」
「たぶん? 俺もよくは知らないけど、もしかしたらこいつ交信魔術師かも」
「それって……?」
話の途中で、ぐぉぉ、と獣声のようなすごい腹の音が鳴った。
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