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そんな目で見る
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グラーザの引く車の荷台で。
たくさんの防具が詰まれている隙間、御者台を背にして膝立ちになり、私は彼の前でポンチョをめくった。
胴体のみを覆う革の鎧をじっくり眺め、彼はおもむろに両手を伸ばし、脇腹のあたりに親指を押し込む。
「ふぐぅっ」
「薄いな」
引っ張ったり爪で抉ったり、遠慮なく強度を確かめてくれるものだから、こちらは変な声が抑えられない。
彼――防具店【フォロスの鎧】の店主であり職人であるイーヴォさんは、彫像のように無表情で、喋る時もほとんど唇を動かさない。
それは額から口元まで広がっている顔の右半分の大きな火傷のせいなのかもしれないし、もともとそういう人なのかもしれない。
あまり興味なさそうに見えつつ、背中側にある鎧のホックを外して中の手触りまで入念に確かめていた。
「素材はイポニスか? うん、なめしは丁寧だ。素人仕事にしては上出来。これなら長く使える」
「母と一緒に作ったんです。私も気に入っているんですが、こういうクエストの時にはもう少し強度があったほうが安心かなと」
賊の出る森に差し掛かる前の休憩中、私は自分の装備をイーヴォさんに相談していた。
ちなみに店名のフォロスというのは、彼の故郷に伝わる大昔の戦争で活躍した英雄の名前だそうだ。
「強度が高いだけの防具なら星の数ほどあるが、君の体格では軽さのほうを優先すべき。イポニスの革は軽くていい素材だ。まったく別の防具を作らなくても、これに強度を付与する素材を足せばいい」
「例えばどういうものを?」
「やはり軽いもの――鱗だ、鱗を貼ろう。ちょうど竜人の鱗がある。尻尾の部分を使おう」
「ねえ待ってそれ俺のこと言ってる?」
御者台のほうから、ひょこっとワントさんが頭を出す。
近くに川があったので、水を汲んでくるといって少しの間離れていたのが、タイミングよく戻ってきた。
確かにワントさんの緑青の鱗は硬くてつるつるして、刃なども弾いてくれそうだ。いや防具にはしないけれども。
だが、イーヴォさんは少しも冗談らしい顔をしていなかった。
「尻尾なら必要ないだろう」
「必要なくない。もしかして俺のことずっとそんな目で見てたわけ? 素材だと?」
「あいにくこの世のすべてをそんな目でしか見てない。自分の子供すら気づいたらどう加工しようか真剣に悩んでた」
「人としてどうなんだそれ」
「だめだから妻子に逃げられたんだろ。でもな、人としてだめになればなるほど仕事の評価は上がるんだ。この業界には変態が求められている」
「そうなのかもしれないけども」
「この子はほら、目を防腐加工して鎧の装飾にしたい。黄金色がいい感じなんだよ。髪の毛も色艶がいい。編んで糊で固めればかなり強度は出る。鎧のつなぎ目に使おうか。骨は篭手か脛当ての支柱にできる。皮も加工次第では」
「うぐぅっ」
鎧越しに肋骨のあたりをぐりぐりされ、また変な声が出た。
まさか素材採取しようとしてる?
「やめやめ、触るな」
ワントさんが私の脇を抱えて、車の外に降ろす。外には一人だけ付いて来たイーヴォさんの弟子の女の子がいて、師匠のかわりに「すみません」と律義に謝ってきた。
「お店の倉庫に【氷海】を回遊しているオシクスという魚型の魔物の皮があります。薄くても竜の鱗のように丈夫です。そちらを補強に使ってはどうでしょう? お安くしますよ。ね、師匠」
フォローまでしてくれた、彼女はカヤという名前。短い橙赤色の髪に、細長い山羊のような耳を持ち、足には二股の蹄が付いてる獣人の少女。私よりも頭一つくらい背が高く、年上に見える。
カヤさんはまともそうだ。今のところ。
「ぜひそれでお願いします!」
「最適は竜の鱗だけど」
「人道から外れない範囲での強化をお願いします!」
至極当然のことを言っているだけなのだが、イーヴォさんは「あっそ」とつまらなそうに肩を落とした。
「いずれにせよ、値引きは働き次第。休憩は終わり。もうすぐ森だ。せいぜいがんばってくれ」
たくさんの防具が詰まれている隙間、御者台を背にして膝立ちになり、私は彼の前でポンチョをめくった。
胴体のみを覆う革の鎧をじっくり眺め、彼はおもむろに両手を伸ばし、脇腹のあたりに親指を押し込む。
「ふぐぅっ」
「薄いな」
引っ張ったり爪で抉ったり、遠慮なく強度を確かめてくれるものだから、こちらは変な声が抑えられない。
彼――防具店【フォロスの鎧】の店主であり職人であるイーヴォさんは、彫像のように無表情で、喋る時もほとんど唇を動かさない。
それは額から口元まで広がっている顔の右半分の大きな火傷のせいなのかもしれないし、もともとそういう人なのかもしれない。
あまり興味なさそうに見えつつ、背中側にある鎧のホックを外して中の手触りまで入念に確かめていた。
「素材はイポニスか? うん、なめしは丁寧だ。素人仕事にしては上出来。これなら長く使える」
「母と一緒に作ったんです。私も気に入っているんですが、こういうクエストの時にはもう少し強度があったほうが安心かなと」
賊の出る森に差し掛かる前の休憩中、私は自分の装備をイーヴォさんに相談していた。
ちなみに店名のフォロスというのは、彼の故郷に伝わる大昔の戦争で活躍した英雄の名前だそうだ。
「強度が高いだけの防具なら星の数ほどあるが、君の体格では軽さのほうを優先すべき。イポニスの革は軽くていい素材だ。まったく別の防具を作らなくても、これに強度を付与する素材を足せばいい」
「例えばどういうものを?」
「やはり軽いもの――鱗だ、鱗を貼ろう。ちょうど竜人の鱗がある。尻尾の部分を使おう」
「ねえ待ってそれ俺のこと言ってる?」
御者台のほうから、ひょこっとワントさんが頭を出す。
近くに川があったので、水を汲んでくるといって少しの間離れていたのが、タイミングよく戻ってきた。
確かにワントさんの緑青の鱗は硬くてつるつるして、刃なども弾いてくれそうだ。いや防具にはしないけれども。
だが、イーヴォさんは少しも冗談らしい顔をしていなかった。
「尻尾なら必要ないだろう」
「必要なくない。もしかして俺のことずっとそんな目で見てたわけ? 素材だと?」
「あいにくこの世のすべてをそんな目でしか見てない。自分の子供すら気づいたらどう加工しようか真剣に悩んでた」
「人としてどうなんだそれ」
「だめだから妻子に逃げられたんだろ。でもな、人としてだめになればなるほど仕事の評価は上がるんだ。この業界には変態が求められている」
「そうなのかもしれないけども」
「この子はほら、目を防腐加工して鎧の装飾にしたい。黄金色がいい感じなんだよ。髪の毛も色艶がいい。編んで糊で固めればかなり強度は出る。鎧のつなぎ目に使おうか。骨は篭手か脛当ての支柱にできる。皮も加工次第では」
「うぐぅっ」
鎧越しに肋骨のあたりをぐりぐりされ、また変な声が出た。
まさか素材採取しようとしてる?
「やめやめ、触るな」
ワントさんが私の脇を抱えて、車の外に降ろす。外には一人だけ付いて来たイーヴォさんの弟子の女の子がいて、師匠のかわりに「すみません」と律義に謝ってきた。
「お店の倉庫に【氷海】を回遊しているオシクスという魚型の魔物の皮があります。薄くても竜の鱗のように丈夫です。そちらを補強に使ってはどうでしょう? お安くしますよ。ね、師匠」
フォローまでしてくれた、彼女はカヤという名前。短い橙赤色の髪に、細長い山羊のような耳を持ち、足には二股の蹄が付いてる獣人の少女。私よりも頭一つくらい背が高く、年上に見える。
カヤさんはまともそうだ。今のところ。
「ぜひそれでお願いします!」
「最適は竜の鱗だけど」
「人道から外れない範囲での強化をお願いします!」
至極当然のことを言っているだけなのだが、イーヴォさんは「あっそ」とつまらなそうに肩を落とした。
「いずれにせよ、値引きは働き次第。休憩は終わり。もうすぐ森だ。せいぜいがんばってくれ」
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