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魔物憑き
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捕らえた賊は一人だけだった。
しばらく辺りを探しても他の人影は見つからず、私たちは肩から気持ち悪いコブを生やしているその男をロープで念入りに縛り、荷物と一緒に車に積んでティーラの村に行くことにした。
賊はそこで村の自警団にでも引き渡し、然るべき対処をしてもらう。おそらく最終的には王国の兵士に突き出されることになるだろう。
「【魔物憑き】は、魔物に寄生された人のこと」
車輪の音を背後に、ワントさんが荷車の中で説明してくれた。
「ごく一部の魔物は別の生き物に寄生して、特殊な力を与えてくれるかわりに、宿主から養分をもらって生きるらしい。まあ、一種の魔術ではあるんだろう。中にはわざと魔物を体に寄生させて力を得ている人もいる。たぶん、こいつもそのクチだろう」
まだ麻痺して意識のない賊を小突く。
男はどこか少年のようにも見える若い人物だった。黒い短い髪をした、さして特徴のない、無害そうな人族。左肩の青黒い魔物さえなければ。
どうも魔物の口から妙な匂いがするので、そちらには布を巻き付けている。あの無限に湧く敵の幻影は、その匂いを嗅ぐと現れるものなのかもしれない。
道にまき散らしたゴミで荷車を止め、魔術にかけ、幻影と戦わせて獲物が力尽きるか逃げた後に荷を奪う。それが作戦の全容だったのだろう。
「……この魔物を体から取ることはできないんですか?」
「無理だと思う。魔物の根っこが体中に張り巡らされていて、表面上に見える部分だけ切ってもまた生えてくる。俺も前に一回だけ魔物憑きと戦ったことがあるんだが、いくら斬ってもきりがなくて。結局逃がしちゃったんだ」
今回は捕まえられてよかったよ、とワントさんは軽く話してくれるが、こんな異様な敵に二回も遭遇するのはかなり珍しいことなのではないだろうか。
「こいつの腕、中は空洞か?」
ロープの隙間に指を差しこみ、イーヴォさんは興味津々に、木の根のように変形している男の左腕の性質を確かめていた。こつこつと、指で叩いた音が中で反響して聞こえる。
さらにイーヴォさんが小さなナイフを躊躇なく腕に刺した。血は出ず、刃を引き抜いたところは瞬時に塞がった。
「なるほど。こりゃ魔物だ」
ぶつぶつ独り言を漏らして笑っているところが、やはり少しばかり変態的だ。
魔物単体だったら、実は私も一回だけ見たことがある。
人目を盗み勝手に遺跡に入っていったじい様を追いかけて、そこで遭遇した。本当は遺跡の深部にいるはずの魔物が、探索に来ていた冒険者に刺激され、たまたま入り口近くまで上がってきていたのだ。
その時に、私は採取用の図鑑を譲ってくれた冒険者のゴールデン・オッドに助けられ、彼と知り合った。
遺跡の名状しがたき魔物の姿は、この賊の肩から生えている不気味なものに、形こそ違えど雰囲気は似ている。何を考えているのかまったく読めない、まるでこちらに恐怖を与えるためだけにその姿となったかのような、異様な生物。
自ら進んでこんな生き物を体に寄生させる人の気持ち、私はちょっと理解できない。
「仲間はもう何人かいそうだけどなあ」
そう言ってワントさんは少しだけ悔しそうにもしていた。
大量に道に物を撒き散らしたり、奪った荷を運んで売りさばいたりするには人手が必要。幻影を使ったってそれはできないだろう。
だからきっと、森の中には他にも仲間がいたはずというのが、ワントさんの経験からくる推測だった。
もっとも、幻影を生み出していた人だけは捕まえられたのだから、もう同じ手口は使えない。賊が二度と現れなくなったのならば十分だろう。
それ以上の問題は何も起きず、私たちは無事にティーラの村へ辿り着けた。
イーヴォさんの鎧の届け先が村の自警団のもとだったため、そのまま彼らに賊を引き渡して感謝され、私も幻影を見破ったことを評価され、格安で装備の強化をしてもらえることになった。
なお魔物憑きの男は結局、私たちが去るまで一度も目覚めず、なんの話もできなかった。
そこまで麻痺毒が強力だったのだろうか。人間じゃなく魔物の部分に刺さったのに。
ややそんなことに引っかかりつつも、私たちは村で一泊し、翌朝、帰路についた。
しばらく辺りを探しても他の人影は見つからず、私たちは肩から気持ち悪いコブを生やしているその男をロープで念入りに縛り、荷物と一緒に車に積んでティーラの村に行くことにした。
賊はそこで村の自警団にでも引き渡し、然るべき対処をしてもらう。おそらく最終的には王国の兵士に突き出されることになるだろう。
「【魔物憑き】は、魔物に寄生された人のこと」
車輪の音を背後に、ワントさんが荷車の中で説明してくれた。
「ごく一部の魔物は別の生き物に寄生して、特殊な力を与えてくれるかわりに、宿主から養分をもらって生きるらしい。まあ、一種の魔術ではあるんだろう。中にはわざと魔物を体に寄生させて力を得ている人もいる。たぶん、こいつもそのクチだろう」
まだ麻痺して意識のない賊を小突く。
男はどこか少年のようにも見える若い人物だった。黒い短い髪をした、さして特徴のない、無害そうな人族。左肩の青黒い魔物さえなければ。
どうも魔物の口から妙な匂いがするので、そちらには布を巻き付けている。あの無限に湧く敵の幻影は、その匂いを嗅ぐと現れるものなのかもしれない。
道にまき散らしたゴミで荷車を止め、魔術にかけ、幻影と戦わせて獲物が力尽きるか逃げた後に荷を奪う。それが作戦の全容だったのだろう。
「……この魔物を体から取ることはできないんですか?」
「無理だと思う。魔物の根っこが体中に張り巡らされていて、表面上に見える部分だけ切ってもまた生えてくる。俺も前に一回だけ魔物憑きと戦ったことがあるんだが、いくら斬ってもきりがなくて。結局逃がしちゃったんだ」
今回は捕まえられてよかったよ、とワントさんは軽く話してくれるが、こんな異様な敵に二回も遭遇するのはかなり珍しいことなのではないだろうか。
「こいつの腕、中は空洞か?」
ロープの隙間に指を差しこみ、イーヴォさんは興味津々に、木の根のように変形している男の左腕の性質を確かめていた。こつこつと、指で叩いた音が中で反響して聞こえる。
さらにイーヴォさんが小さなナイフを躊躇なく腕に刺した。血は出ず、刃を引き抜いたところは瞬時に塞がった。
「なるほど。こりゃ魔物だ」
ぶつぶつ独り言を漏らして笑っているところが、やはり少しばかり変態的だ。
魔物単体だったら、実は私も一回だけ見たことがある。
人目を盗み勝手に遺跡に入っていったじい様を追いかけて、そこで遭遇した。本当は遺跡の深部にいるはずの魔物が、探索に来ていた冒険者に刺激され、たまたま入り口近くまで上がってきていたのだ。
その時に、私は採取用の図鑑を譲ってくれた冒険者のゴールデン・オッドに助けられ、彼と知り合った。
遺跡の名状しがたき魔物の姿は、この賊の肩から生えている不気味なものに、形こそ違えど雰囲気は似ている。何を考えているのかまったく読めない、まるでこちらに恐怖を与えるためだけにその姿となったかのような、異様な生物。
自ら進んでこんな生き物を体に寄生させる人の気持ち、私はちょっと理解できない。
「仲間はもう何人かいそうだけどなあ」
そう言ってワントさんは少しだけ悔しそうにもしていた。
大量に道に物を撒き散らしたり、奪った荷を運んで売りさばいたりするには人手が必要。幻影を使ったってそれはできないだろう。
だからきっと、森の中には他にも仲間がいたはずというのが、ワントさんの経験からくる推測だった。
もっとも、幻影を生み出していた人だけは捕まえられたのだから、もう同じ手口は使えない。賊が二度と現れなくなったのならば十分だろう。
それ以上の問題は何も起きず、私たちは無事にティーラの村へ辿り着けた。
イーヴォさんの鎧の届け先が村の自警団のもとだったため、そのまま彼らに賊を引き渡して感謝され、私も幻影を見破ったことを評価され、格安で装備の強化をしてもらえることになった。
なお魔物憑きの男は結局、私たちが去るまで一度も目覚めず、なんの話もできなかった。
そこまで麻痺毒が強力だったのだろうか。人間じゃなく魔物の部分に刺さったのに。
ややそんなことに引っかかりつつも、私たちは村で一泊し、翌朝、帰路についた。
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