リズの冒険日記

輝安鉱

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草原の村

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 クエストの場所は、ジランから北西に二日ほどグラーザを走らせた草原にあるのどかな農村。

 村の主要な産業は畜産で、ヤグルという家畜の肥育を多くの家で行っている。ヤグルは食肉用であるだけでなく、真紅の体毛が美しい織物になるそう。

 依頼主の家に到着すると、草原に作られた囲いの中にヤグルたちがたむろっていた。
 体高は私の腰よりやや高いくらい。体の前半分にものすごい量の毛があり、細長い顔を隠してしまってる。なのに下半身や尻尾は無毛で、かわりにつるつるした茶色い鱗に覆われてる。
 変な動物。私は初めて見た。少なくともうちの村の近辺にはいなかった。

 ブモブモという鳴き声はあんまり可愛くない。
 でも、真紅の毛を掻き分けると黒目がちの可愛い瞳が見える。毛の間からぴょこんと生えてる小さい耳も可愛い。好奇心が強いらしく、初対面の私やグラーザに寄ってきては、ふやふやの柔らかい上唇でくすぐってきた。可愛い。

 今回のクエストの魔物退治とは、このいたいけなヤグルたちを守るため。

 話によれば、ヒュポスという魔物は毎年決まった時期に近くの森から現れ、繁殖期のヤグルのメスに寄生するらしい。
 以前、ティーラ村の森で戦った【魔物憑き】みたいに、魔物の体が同化してしまうそうだ。想像するだけで気味が悪い。

 寄生されたヤグルはなぜか黒いヒュポスの子しか産めなくなるという。
 なのでそういったヤグルはすぐに殺処分しなくてはならない。もちろん肉も売れないし、毛並みも商用できないくらい質が悪くなるそうだ。畜主にとっての損害甚だしい。

 せめてもの幸いというか、ヒュポスが現れるのは今時期の新月の前後に限定される。一年間のうちの二、三日程度を凌げばあとは安心。
 期間中、村人たちは昼夜問わずの番をし、ヤグルを狙ってやってきた魔物を打ち殺すのだ。

 そんなふうにヒュポス自体はちょっと腕っ節がある人なら対処できるレベルの魔物なのだが、とにかく数が多いのが難点で、通常作業もあって手の足りない依頼主さん宅では毎年冒険者協会に応援を頼んでいたそうだ。

 それでヨーゼムは去年も同じ依頼でここに来ていたみたい。

「あらぁ! また来てくれたのヨーゼム!」

 依頼主宅の元気なお母さんが、ヨーゼムを見つけるなりとびきりの笑顔で出迎えた。
 ヨーゼムも少しはにかんで、嬉しそうな顔を見せる。

「またお力になれたらと思いまして」
「ああ嬉しい。実はまたあんたが来てくれたらいいなって娘たちと話してたんだよ?」
「ほんとですか? 二度と来るなと思われてたんじゃなくて、安心しました」
「そんなこと思うわけないでしょ? あんたほど親切な冒険者はなかなかいないよ!」
「あー!?」

 と、厩舎のほうから十歳くらいの小さい女の子たちが三人、叫びながらヨーゼムに突進した。
 よく見れば三人とも同じ顔。

「ヨーゼムきたぁっ!」
「ヨーゼムだぁ!」
「ヨーゼムヨーゼムヨーゼム!」

 大歓迎のコールが止まらない。
 ヨーゼムの腰に抱きついたり、ズボンの穴からぴょこぴょこしてる短い尻尾を掴んだり、やりたい放題だ。私がひっそりと気になっていた尻尾をあんな遠慮なしに触れるなんてうらやましい。

 ヨーゼムのほうも、戸惑いを見せつつやっぱり嬉しそうだった。
 なんなら、都会に出稼ぎに行ったお兄ちゃんが久しぶりに帰省したくらいの勢いだ。

 私と、それからアヴィさんはちょっと蚊帳の外。
 アヴィさんはそもそもあんまり関わり合いになりたくなさそうな様子で、遥か後方でグラーザに寄りかかり、再会シーンが終わるのを待っている。
 彼は人付き合いが嫌いなのか私に対しても終始そんな態度で、未だに打ち解けられてない。

「今回は三人で来ました。リズとアヴィといいます」

 三つ子を両手に抱えたヨーゼムの、私たちを紹介する声が聞こえたところで、私はヤグルの口からポンチョを抜いてそちらに合流した。

 私の容姿にお母さんも三つ子も驚いていたけれど、特に嫌なことは言われなかった。
 人によっては髪や目の色を気味悪がられることもあるからね。ひと安心。

 後から三つ子のお父さんと、おじいさんやおばあさん、雇い人の方々とも顔合わせし、これから数日お世話になるご挨拶をした。
 お家はけっこうな大農家でヤグルの頭数もかなり多いのだが、雇い人も女性がほとんどで男手が圧倒的に足りない。それで魔物退治を協会に依頼しているんだろう。

 こんな感じで到着当日は非常に温かな歓待を受け、翌日からの仕事のために英気を養ったのだった。
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