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気づき
第二十話 気づき8
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四月後半に入ると、桂さんは僕が働く書店の近所の雑貨屋さんで働くことになった。面接は緊張してうまく受け答えできなくてボロボロだったって聞いてたのに。
ゴールデンウィークはお互いにバイトに勤しんだ。その合間に小説も完成させた。アルバイトを始めたことで、立ち読みで乱れた売り場整理したり、レジ操作もする。嫌でもいろんなお客さんを見て、接する。経験が増えるたび、創作に生かせそうなネタも増えていき、忙しさも苦ではなかった。
退勤時間は桂さんの方が少し早いのだが、僕が帰りがけ通りかかった時にお店の電気がついていると、その場合はレジで誤差があったなどのトラブルがある時だ。そんな日は高確率で桂さんは肩を落として出てくる。
なので、お店の裏口で待って、一緒に帰っている。そんなことをしていたら、店長さんとも知り合いになってしまった。店長さんは高いヒール靴のかかとを鳴らし、丈の短いスカートに、胸元が強調されたトップスとかなり派手な身なりの女性で最初はまさか店長さんだとは思わなかったくらいだ。店の外でタバコを吸いながら、
「桂っち、今日もまたレジ打ちミスしちゃってぇ。さっきちょっと注意したら、めちゃ落ち込んじゃってー。今、しおしおな顔して帰る用意してるわ。てことで、駿河っち、帰り際にしっかりフォローよろ~」
なんて声をかけられるようになった。
ゴールデンウィークが明けると、出席率が下がると聞いたことがあったが、満席だったバスや食堂の利用人数がごっそりと減った。四月の時は人で溢れかえっていた。僕ら一回生はその洗礼を受け、驚き、食べる場所を求めて廊下だったり、芝生だったり、教室だったりを彷徨ったものだ。
「桂さん、毎日食堂使ってますけど大丈夫ですか」
「大丈夫って?」
「食堂って結構高いじゃないですか」
近所の大学をそんなに知っているわけではないが、喜志芸術大学の学食の値段設定はやや高い。ワンコイン内で済ましてという荒業を使えば問題ないのかもしれないが。
「んーまぁな。弁当作らねぇとなぁって思うんだけど、アルバイトも始めたところだから今は晩ご飯作るので精一杯でさ」
「僕も毎日作ることは出来てないですね。慣れたら楽なんでしょうけど」
「そういや真綾が弁当作ってるらしいんだよな」
「すごいですね」
「でも、今はなんか授業の課題で友達と食堂のメニュー調べるから、弁当はお休みしてるって言ってた」
「あぁ、だから神楽小路くんとご飯食べてたんですね」
「なっ……! 真綾、友達じゃなくて彼氏と課題やってんの!?」
「いや、たぶんそこまでの関係ではないと思いますよけどね」
神楽小路くんというのは、同じ文芸学科の同級生・神楽小路君彦くんのことだ。長身ですらりと伸びる脚、長い巻き髪をなびかせ、歩く姿は優雅で美しさがある。小説を書けば、人間の内から湧き上がる自然な感情を表現し、読むものを圧倒する。誰とも交流をしない、孤高の存在。
佐野さんが神楽小路くんと食堂でご飯を食べているのを見かけた時、不思議な組み合わせだとは思った。佐野さんが笑顔で何かを言うと、神楽小路くんは無表情ながら返答する。テンションの違う二人の掛け合いが見ていて、なんだかおもしろかった。その数日後、僕は教科書を忘れ、偶然横に座っていた神楽小路くんに貸してもらった。彼の出す不思議なオーラに緊張してしまい、もっと創作について話したかったが、なかなか会話が続かなかった。そんな彼と、にこやかに話す佐野さんはすごいと思った。
「にしても、授業と家事とバイトのバランス取るのがこんなに難しいとはなぁ」
「そうですね。早く慣れたいものですね。でも、無理しすぎないようにしないと」
「だなぁ。お互いにそこそこ頑張ろうぜ」
と、話してから、二週間経った六月の二日のことだった。
ゴールデンウィークはお互いにバイトに勤しんだ。その合間に小説も完成させた。アルバイトを始めたことで、立ち読みで乱れた売り場整理したり、レジ操作もする。嫌でもいろんなお客さんを見て、接する。経験が増えるたび、創作に生かせそうなネタも増えていき、忙しさも苦ではなかった。
退勤時間は桂さんの方が少し早いのだが、僕が帰りがけ通りかかった時にお店の電気がついていると、その場合はレジで誤差があったなどのトラブルがある時だ。そんな日は高確率で桂さんは肩を落として出てくる。
なので、お店の裏口で待って、一緒に帰っている。そんなことをしていたら、店長さんとも知り合いになってしまった。店長さんは高いヒール靴のかかとを鳴らし、丈の短いスカートに、胸元が強調されたトップスとかなり派手な身なりの女性で最初はまさか店長さんだとは思わなかったくらいだ。店の外でタバコを吸いながら、
「桂っち、今日もまたレジ打ちミスしちゃってぇ。さっきちょっと注意したら、めちゃ落ち込んじゃってー。今、しおしおな顔して帰る用意してるわ。てことで、駿河っち、帰り際にしっかりフォローよろ~」
なんて声をかけられるようになった。
ゴールデンウィークが明けると、出席率が下がると聞いたことがあったが、満席だったバスや食堂の利用人数がごっそりと減った。四月の時は人で溢れかえっていた。僕ら一回生はその洗礼を受け、驚き、食べる場所を求めて廊下だったり、芝生だったり、教室だったりを彷徨ったものだ。
「桂さん、毎日食堂使ってますけど大丈夫ですか」
「大丈夫って?」
「食堂って結構高いじゃないですか」
近所の大学をそんなに知っているわけではないが、喜志芸術大学の学食の値段設定はやや高い。ワンコイン内で済ましてという荒業を使えば問題ないのかもしれないが。
「んーまぁな。弁当作らねぇとなぁって思うんだけど、アルバイトも始めたところだから今は晩ご飯作るので精一杯でさ」
「僕も毎日作ることは出来てないですね。慣れたら楽なんでしょうけど」
「そういや真綾が弁当作ってるらしいんだよな」
「すごいですね」
「でも、今はなんか授業の課題で友達と食堂のメニュー調べるから、弁当はお休みしてるって言ってた」
「あぁ、だから神楽小路くんとご飯食べてたんですね」
「なっ……! 真綾、友達じゃなくて彼氏と課題やってんの!?」
「いや、たぶんそこまでの関係ではないと思いますよけどね」
神楽小路くんというのは、同じ文芸学科の同級生・神楽小路君彦くんのことだ。長身ですらりと伸びる脚、長い巻き髪をなびかせ、歩く姿は優雅で美しさがある。小説を書けば、人間の内から湧き上がる自然な感情を表現し、読むものを圧倒する。誰とも交流をしない、孤高の存在。
佐野さんが神楽小路くんと食堂でご飯を食べているのを見かけた時、不思議な組み合わせだとは思った。佐野さんが笑顔で何かを言うと、神楽小路くんは無表情ながら返答する。テンションの違う二人の掛け合いが見ていて、なんだかおもしろかった。その数日後、僕は教科書を忘れ、偶然横に座っていた神楽小路くんに貸してもらった。彼の出す不思議なオーラに緊張してしまい、もっと創作について話したかったが、なかなか会話が続かなかった。そんな彼と、にこやかに話す佐野さんはすごいと思った。
「にしても、授業と家事とバイトのバランス取るのがこんなに難しいとはなぁ」
「そうですね。早く慣れたいものですね。でも、無理しすぎないようにしないと」
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と、話してから、二週間経った六月の二日のことだった。
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