【1】胃の中の君彦【完結】

羊夜千尋

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パーティー

第二十六話 パーティー4

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 食後は、トランプを使い、ババ抜きや大富豪をしたり、くだらない話をしながら動画を観たり、あっという間に夕方六時を迎えようとしていた。
「では、俺はそろそろ迎えが来るので帰る」
「晩ご飯食べねぇのかよ。ラーメン屋行ってカラオケも行く予定だったのに」
「そのつもりで来てない。家で夕飯の準備がされてる」
「もしまたココで集まるときは泊まる気で来いよ」
「狭いですが、僕の部屋で寝泊まりしていただいて大丈夫ですので」
「ほぉ、そういうものなのか。検討しておく」
 帰宅する準備をしている中、一つだけ気になっていることがあった。
「おい、佐野真綾」
「ん?」
 桂と共にラーメン屋検索をしていた佐野はスマホから顔を上げた。
「今日はあまりお前とは話せなかったな」
「えっ! あっ……でも、たしかに」
 佐野は楽しそうに笑っていたが、今日はそもそも口数が少なかった。桂が一人話すことが多いというのもあるだろうが。かといって、何を話したかったかと言われれば、すぐに話題は出せず、難しいところではあった。
「そういや、神楽小路って今日のメンツ誰一人と連絡先交換してないってマジ?」
「えっ、てっきり佐野さんが連絡先をご存じだと思ってましたよ。今日もし待ち合わせがうまくいかなかったら誰も連絡取れなかったってことですか」
「そういうことになるな。交換するという考えに今までに至ったことないから抜け落ちていた」
「浮世離れしてんなぁ」
「それでも生活に支障がなかったからな」
「ワタシや駿河はいいとして、課題制作一緒にやってた真綾となんで交換してねぇんだよ」
「それは、わたしが神楽小路くんを迎えに行ってたからね」
「連絡を取らなくても勝手に来る」
「むしろすげぇな、オマエら……」
「交換したら、今度また集まる時に楽になるから、交換しようぜ」
「俺はかまわんが、佐野真綾、どうする?」
「ぜひ!」
 佐野は勢いよくスマホ握りしめて強く言った。

 神楽小路を乗せた車は、帰宅ラッシュの波に飲まれていた。
「君彦様、渋滞のため、ご帰宅時間は少々遅れるかと」
「うむ、仕方ない」
 運転手の男は申し訳なさそうに頭を垂れて、神楽小路家へ無線で連絡し始めた。
 すると、いつも振動することがないスマホがカバンの中でかすかに震えていることに気がついた。画面を確認すると、先ほど連絡先交換をした三人からだった。
 
 駿河からは、
『今日はお疲れさまでした。連絡先、僕や桂さんまで交換してくださり、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします』
 桂からは、
『おつかれー。今日はありがとな。これで何かトラブったら助けてもらえる奴が一人増えたってもんだ。助かる。よろしく』
 駿河には、
『こちらこそよろしく』
 と返し、桂には
『俺は便利屋ではない』
 と返す。桂からすぐに意味不明なスタンプが連投されたが無視した。
 最後に開いたのは佐野のメッセージである。
『今日はお疲れ様! 来てくれてありがとう。ご飯おいしかったね。わたしが作った料理おいしいって言ってくれてうれしかったよ。お話あまりできなくてごめんね。咲ちゃんと駿河くんのやりとりがおもしろくて、つい聞き入ってしまって。もし、神楽小路くんが良ければ、予定が合うときにまたお昼一緒に食べたり出来ないかな?』
 神楽小路は数秒画面を眺めたあと、文字を打った。
『かまわん』
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