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なによりも大切な人たち
第四話 なによりも大切な人たち4
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昼休みに入り、ワタシと駿河は校内で一番広い第二食堂にいた。ちらほらと浴衣を着ている学生がいるものの、みんな涼しい顔をしている。
「今日は昼休みまでが長く感じたぜ。それなのに、あんまりお腹も空いてないような気もする……」
「こんな慣れない衣服の時に、胃を空にするのはマズいですよ。それに今日も暑いですし」
「うー……」
コンビニで買ったおにぎり二つ食べるだけでも低速になる。咀嚼し、飲み込むとそれだけでまたお腹の部分が少しずつ圧迫されていく。
「四限の授業終了まで大丈夫そうですか?」
「真綾が言ってた。『カワイイは我慢だ』って。暑くても涼しい顔、苦しくても笑顔でって」
「おもしろいほどどれも出来てませんよ」
「今は休憩中だから。この席から立つ時は変わる」
深呼吸して体を落ち着ける。
「桂さんが浴衣着るとは思いませんでした」
「どうせワタシはそういうかわいらしいことしないもんなぁ~?」
「かわいい、かわいくないとかじゃなくて、単純に暑いとか、着るのがめんどくさいと言いそうだったので」
「ま、実際文句なら言ってるけど」
苦笑いしつつ頭をかく。
「こういうイベントの時ってさ、仲良い子と浴衣着たいもんだと思うんだよ。真綾、この大学内にも友達いるのに、その中でワタシを選んでくれたのは単純にめちゃくちゃ嬉しかった。他の人に断られて渋々ワタシに声かけてきたって感じじゃなかったし」
「そうだったんですね」
「真綾は神楽小路を驚かせたかったっていう目的が一番に合ったけど、その手助け出来たし、真綾と一緒に浴衣着て放課後短冊書くの楽しみなんだ」
「良いじゃないですか。楽しんできてください」
「え? 駿河も来るだろ、短冊書きに」
「お邪魔していいんですか?」
「オマエも一人じゃこういうイベント行かねぇだろ? 今日なんか両手に花だぜ? 喜べよ」
「それ、自分で言いますか」
「言って、内心ちょっと恥ずかしくなるのがワタシだよ」
そう言ってワタシが笑うと、駿河も小さく笑いながら、スマホをチラっと見る。
「あ、そろそろ行きましょうか」
「まだ早くないか?」
食堂の壁かけ時計を確認すると授業開始まであと十五分もある。次の授業は一番大きい教室だからそんなに急がなくても、座席が埋まってしまうということは滅多にない。
「今日、下駄じゃないですか。早め早めに行動しないと遅刻しますよ」
「そうだけど、もう少し休憩……」
「それにこのあと雨降るかもですし」
「こんなに晴れてるのに?」
窓を指さす。雲は確かにちょっと多くて太陽の顔は見えないが、雨が降るような気配はない。
「夏場は急な雨が多いですから。さぁ、行きましょう」
渋々立ち上がって歩きだす。歩いていると、空が灰色に曇りはじめ、教室のある棟に到着したころには大雨が、傘を持たない学生たちを襲っていた。みんな悲鳴を上げながら屋根を求め走っている。ワタシたちはそんな人たちを横目に教室のドアを開ける。
「ひぇー、マジか」
「言った通りでしょう」
「駿河様様だな、助かった……」
「天気予報アプリの通知を信じただけです。浴衣が汚れなくてよかったですね」
「おう、ありがとな」
真綾は大丈夫だったかな……。そう思いながら、大粒の雨が打ちつける窓を見た。
放課後、七夕イベント会場である広場に到着すると、先に真綾が待っていた。
「真綾!」
「お疲れ様~。咲ちゃん倒れなかった?」
「ギリ大丈夫だった」
「横で見てた限り、何度か目が死んでましたけどね」
「言うんじゃねぇよ」
駿河を肘で小突く。
「そういや神楽小路の反応どうだった?」
「神楽小路くん、浴衣見るの初めてだったのか物珍しそうにしてたよ」
「他には?」
「他……!? えっと、その、『……似合っているんじゃないか』って」
「やったじゃん!」
「着替え入ってる荷物持ってくれたり、さっきのゲリラ豪雨の時も傘入れてくれたり。短冊書こうってお誘いしたんだけど、もうお迎えの車来てるから断られちゃった」
アイツ、車で送迎してもらってんのかよ。前々から金持ち感漂ってるとは思ってたけど、すげぇな……。
「そっか、残念だったな」
「でも今日たくさん嬉しいことがあったから」
真綾は満面の笑みを浮かべる。真綾のこの笑顔を見れてワタシもただただ満足だ。成功してよかった。
「浴衣着た甲斐があったな」
「ありがとうね。……あれ、駿河くんは?」
二人で周りを見渡すと、イベント受付の方からこちらへ戻ってきた。
「お二人とも、短冊もらってきましたよ」
「駿河くん、わざわざありがとう」
「サンキューな」
記入スペースで真綾、ワタシ、駿河三人横並びで願いを書く。どうすっかな……。何時間も猶予があったのに何も浮かばなかった。『小説がたくさん書けますように』『バイトで金額打ち間違えミスが減りますように』……うーん。なんか大学入学してから毎日充実してて、書くほど願うことがないんだよな。我ながらめちゃくちゃ幸せモンだよな。真綾は神楽小路についてだろうけど、駿河は何を書いたんだろう? 書き終わって、短冊を握る駿河にそっと近づく。
「桂さん、なんですか?」
「短冊見せろよ」
「嫌です」
「えー、嫌なんだ……」
「そんなの誰だって嫌でしょう。桂さんは見せられるって言うんですか」
ワタシはすぐに書いて駿河に見せる。
「ほれ」
「『真綾が好きな人とうまくいきますように』ですか。なるほど」
慌てて書いたが、陰ながら願っていることには変わりない。
「というわけだ。駿河も見せろよ」
「絶対に嫌です」
「あー、もしかして『しいたけが食べれるようになりますように』って書いたのか?」
「そんなこと書くわけないでしょう。しいたけとは永遠に和解する気はありませんし、しいたけの話はしないでもらえますかね」
なんて言い合っていると、ワタシと駿河は同じタイミングで真綾を見る。真綾は短冊を手にワタシたちを見ていた。
「ご、ごめんね! どうぞ続けて!」
「続かねぇよ!?」
「その通りです。こんな不毛の中の不毛な話はここで終わりますので安心してください」
「二人は本当に仲良しでいいなぁ」
「んーまぁ、仲悪くないよな」
「仲は悪くないです。ただ、あちらがしょうもないことを言ってくるので、相手している感じです」
「しょうもないとはなんだよぉ」
「あ、どんどん人が増えてきましたし、短冊飾りに行きましょう」
笹の方へ向かう。七夕週間が始まって数日なのにたくさんの短冊が吊るされている。たくさんの願いを抱えた笹は重みで頭を垂れている。短冊を飾り終わってから、
「真綾、写真撮ろうぜ」
「いいよー!」
「それなら僕が撮影しますよ」
「サンキュー」
「ありがとう駿河くん」
風で短冊と笹の葉がなびく風景をバックにわたしと真綾のツーショットで写真を撮ってもらった。あとで送ってもらおう。
「駿河くんも咲ちゃんと一緒に撮りなよ。わたしが撮ってあげる」
「えっ、いや、僕は浴衣着てませんし」
「せっかくだし撮ってもらおうぜ。真綾、撮ってくれー」
「オッケー! じゃあ撮るよ」
駿河はロボットのようにカクつきながら立つ。
「この辺りでいいですか」
「なんでそんな離れんだよ」
「駿河くん、もっと近づいて~」
そう言いながら真綾も手で近づけとジェスチャーする。駿河の服の袖を軽く引っ張って、隣に並んだところでシャッターが切られた。
「なんちゅう顔してんだオマエは」
「僕は写真撮られ慣れてないんですよ」
ワタシは笑顔でピースまでしているというのに、駿河ときたらぎこちない、硬い顔だった。
「でも、なんか良いと思うよ」
真綾は微笑みながらその画面を見つめていた。
「今日は昼休みまでが長く感じたぜ。それなのに、あんまりお腹も空いてないような気もする……」
「こんな慣れない衣服の時に、胃を空にするのはマズいですよ。それに今日も暑いですし」
「うー……」
コンビニで買ったおにぎり二つ食べるだけでも低速になる。咀嚼し、飲み込むとそれだけでまたお腹の部分が少しずつ圧迫されていく。
「四限の授業終了まで大丈夫そうですか?」
「真綾が言ってた。『カワイイは我慢だ』って。暑くても涼しい顔、苦しくても笑顔でって」
「おもしろいほどどれも出来てませんよ」
「今は休憩中だから。この席から立つ時は変わる」
深呼吸して体を落ち着ける。
「桂さんが浴衣着るとは思いませんでした」
「どうせワタシはそういうかわいらしいことしないもんなぁ~?」
「かわいい、かわいくないとかじゃなくて、単純に暑いとか、着るのがめんどくさいと言いそうだったので」
「ま、実際文句なら言ってるけど」
苦笑いしつつ頭をかく。
「こういうイベントの時ってさ、仲良い子と浴衣着たいもんだと思うんだよ。真綾、この大学内にも友達いるのに、その中でワタシを選んでくれたのは単純にめちゃくちゃ嬉しかった。他の人に断られて渋々ワタシに声かけてきたって感じじゃなかったし」
「そうだったんですね」
「真綾は神楽小路を驚かせたかったっていう目的が一番に合ったけど、その手助け出来たし、真綾と一緒に浴衣着て放課後短冊書くの楽しみなんだ」
「良いじゃないですか。楽しんできてください」
「え? 駿河も来るだろ、短冊書きに」
「お邪魔していいんですか?」
「オマエも一人じゃこういうイベント行かねぇだろ? 今日なんか両手に花だぜ? 喜べよ」
「それ、自分で言いますか」
「言って、内心ちょっと恥ずかしくなるのがワタシだよ」
そう言ってワタシが笑うと、駿河も小さく笑いながら、スマホをチラっと見る。
「あ、そろそろ行きましょうか」
「まだ早くないか?」
食堂の壁かけ時計を確認すると授業開始まであと十五分もある。次の授業は一番大きい教室だからそんなに急がなくても、座席が埋まってしまうということは滅多にない。
「今日、下駄じゃないですか。早め早めに行動しないと遅刻しますよ」
「そうだけど、もう少し休憩……」
「それにこのあと雨降るかもですし」
「こんなに晴れてるのに?」
窓を指さす。雲は確かにちょっと多くて太陽の顔は見えないが、雨が降るような気配はない。
「夏場は急な雨が多いですから。さぁ、行きましょう」
渋々立ち上がって歩きだす。歩いていると、空が灰色に曇りはじめ、教室のある棟に到着したころには大雨が、傘を持たない学生たちを襲っていた。みんな悲鳴を上げながら屋根を求め走っている。ワタシたちはそんな人たちを横目に教室のドアを開ける。
「ひぇー、マジか」
「言った通りでしょう」
「駿河様様だな、助かった……」
「天気予報アプリの通知を信じただけです。浴衣が汚れなくてよかったですね」
「おう、ありがとな」
真綾は大丈夫だったかな……。そう思いながら、大粒の雨が打ちつける窓を見た。
放課後、七夕イベント会場である広場に到着すると、先に真綾が待っていた。
「真綾!」
「お疲れ様~。咲ちゃん倒れなかった?」
「ギリ大丈夫だった」
「横で見てた限り、何度か目が死んでましたけどね」
「言うんじゃねぇよ」
駿河を肘で小突く。
「そういや神楽小路の反応どうだった?」
「神楽小路くん、浴衣見るの初めてだったのか物珍しそうにしてたよ」
「他には?」
「他……!? えっと、その、『……似合っているんじゃないか』って」
「やったじゃん!」
「着替え入ってる荷物持ってくれたり、さっきのゲリラ豪雨の時も傘入れてくれたり。短冊書こうってお誘いしたんだけど、もうお迎えの車来てるから断られちゃった」
アイツ、車で送迎してもらってんのかよ。前々から金持ち感漂ってるとは思ってたけど、すげぇな……。
「そっか、残念だったな」
「でも今日たくさん嬉しいことがあったから」
真綾は満面の笑みを浮かべる。真綾のこの笑顔を見れてワタシもただただ満足だ。成功してよかった。
「浴衣着た甲斐があったな」
「ありがとうね。……あれ、駿河くんは?」
二人で周りを見渡すと、イベント受付の方からこちらへ戻ってきた。
「お二人とも、短冊もらってきましたよ」
「駿河くん、わざわざありがとう」
「サンキューな」
記入スペースで真綾、ワタシ、駿河三人横並びで願いを書く。どうすっかな……。何時間も猶予があったのに何も浮かばなかった。『小説がたくさん書けますように』『バイトで金額打ち間違えミスが減りますように』……うーん。なんか大学入学してから毎日充実してて、書くほど願うことがないんだよな。我ながらめちゃくちゃ幸せモンだよな。真綾は神楽小路についてだろうけど、駿河は何を書いたんだろう? 書き終わって、短冊を握る駿河にそっと近づく。
「桂さん、なんですか?」
「短冊見せろよ」
「嫌です」
「えー、嫌なんだ……」
「そんなの誰だって嫌でしょう。桂さんは見せられるって言うんですか」
ワタシはすぐに書いて駿河に見せる。
「ほれ」
「『真綾が好きな人とうまくいきますように』ですか。なるほど」
慌てて書いたが、陰ながら願っていることには変わりない。
「というわけだ。駿河も見せろよ」
「絶対に嫌です」
「あー、もしかして『しいたけが食べれるようになりますように』って書いたのか?」
「そんなこと書くわけないでしょう。しいたけとは永遠に和解する気はありませんし、しいたけの話はしないでもらえますかね」
なんて言い合っていると、ワタシと駿河は同じタイミングで真綾を見る。真綾は短冊を手にワタシたちを見ていた。
「ご、ごめんね! どうぞ続けて!」
「続かねぇよ!?」
「その通りです。こんな不毛の中の不毛な話はここで終わりますので安心してください」
「二人は本当に仲良しでいいなぁ」
「んーまぁ、仲悪くないよな」
「仲は悪くないです。ただ、あちらがしょうもないことを言ってくるので、相手している感じです」
「しょうもないとはなんだよぉ」
「あ、どんどん人が増えてきましたし、短冊飾りに行きましょう」
笹の方へ向かう。七夕週間が始まって数日なのにたくさんの短冊が吊るされている。たくさんの願いを抱えた笹は重みで頭を垂れている。短冊を飾り終わってから、
「真綾、写真撮ろうぜ」
「いいよー!」
「それなら僕が撮影しますよ」
「サンキュー」
「ありがとう駿河くん」
風で短冊と笹の葉がなびく風景をバックにわたしと真綾のツーショットで写真を撮ってもらった。あとで送ってもらおう。
「駿河くんも咲ちゃんと一緒に撮りなよ。わたしが撮ってあげる」
「えっ、いや、僕は浴衣着てませんし」
「せっかくだし撮ってもらおうぜ。真綾、撮ってくれー」
「オッケー! じゃあ撮るよ」
駿河はロボットのようにカクつきながら立つ。
「この辺りでいいですか」
「なんでそんな離れんだよ」
「駿河くん、もっと近づいて~」
そう言いながら真綾も手で近づけとジェスチャーする。駿河の服の袖を軽く引っ張って、隣に並んだところでシャッターが切られた。
「なんちゅう顔してんだオマエは」
「僕は写真撮られ慣れてないんですよ」
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