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第三章【オーラス】
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きち子に負けた日の後、彼女が遠くへ行ったことを知った。僕は怒りと悔しさで、目の前にあった石油ストーブを蹴り上げた。すると、着火プラグの辺りからじわりと石油が漏れだすようになった。
きち子と会うことが出来ない。その寂しさと後悔に苦しみ続けた。しかし、それも今日で終わり。壊れたストーブに石油を入れてスイッチを入れた。
「もう、全て終わりにしてしまおう」そんなことを考えて、雀心を起動した。
その時、目を疑った。きち子からの友人申請。そして納得した。きち子が呼んでいるんだと。
おかしい、画面に『ツモ』が表示されない。興奮して、時間が短く感じられるのだろうか…。このままでは意識が持たない。
そう思っていたら、チャットが動いた。
「槍槓」
対面がツモを宣告し、手牌を見せる。画面は切り替わり、役が読み上げられ、得点計算が終わる。画面には、天兎という、うさぎをモチーフにした長い黒髪でピンク色の巫女服を着たアバターが現れる。
『和了ね、私の方が強いでしょ』
僕は、天兎の決め台詞を聞きながら、意識を失った。
どれくらい時間がたっただろう。ゆっくりと意識が戻る。周囲からは焼け焦げた匂いが漂っているが、炎はあがっていない。激しい雨の音がする。天気予報は当たったようだ。立ち上がろうとしたが、身体に力が入らず仰向けに倒れてしまった。焦げた天井や壁から雨風が入り込み、ひどく寒い。
近くで救急車と消防車のサイレンが聴こえる。そして、玄関ドアを蹴破る音が響く。結局僕は、きち子に勝つことも、きち子の元へ行くことも出来なかった。
タンカーに乗せられて救急車に運ばれる。その途中で見えた夜空、雨雲の隙間から月が見えた。その時…
きち子の声が聴こえた気がした。
クリスマスに終電が横転、死傷者多数。そのニュースを知った僕は後悔し、一年間、自分を責め続けた。
「僕がちゃんと勝っていれば…、きち子を引き留めることができていれば…」
その苦しみを自ら終えようとしたのに、終わらなかった。きち子はまだ、僕のことを呼んでいないと知った。
「生きて、私より強くなって。私はずっと月で待ってるから」
月からきち子が、そう言ってくれたから
— 和了 —
きち子と会うことが出来ない。その寂しさと後悔に苦しみ続けた。しかし、それも今日で終わり。壊れたストーブに石油を入れてスイッチを入れた。
「もう、全て終わりにしてしまおう」そんなことを考えて、雀心を起動した。
その時、目を疑った。きち子からの友人申請。そして納得した。きち子が呼んでいるんだと。
おかしい、画面に『ツモ』が表示されない。興奮して、時間が短く感じられるのだろうか…。このままでは意識が持たない。
そう思っていたら、チャットが動いた。
「槍槓」
対面がツモを宣告し、手牌を見せる。画面は切り替わり、役が読み上げられ、得点計算が終わる。画面には、天兎という、うさぎをモチーフにした長い黒髪でピンク色の巫女服を着たアバターが現れる。
『和了ね、私の方が強いでしょ』
僕は、天兎の決め台詞を聞きながら、意識を失った。
どれくらい時間がたっただろう。ゆっくりと意識が戻る。周囲からは焼け焦げた匂いが漂っているが、炎はあがっていない。激しい雨の音がする。天気予報は当たったようだ。立ち上がろうとしたが、身体に力が入らず仰向けに倒れてしまった。焦げた天井や壁から雨風が入り込み、ひどく寒い。
近くで救急車と消防車のサイレンが聴こえる。そして、玄関ドアを蹴破る音が響く。結局僕は、きち子に勝つことも、きち子の元へ行くことも出来なかった。
タンカーに乗せられて救急車に運ばれる。その途中で見えた夜空、雨雲の隙間から月が見えた。その時…
きち子の声が聴こえた気がした。
クリスマスに終電が横転、死傷者多数。そのニュースを知った僕は後悔し、一年間、自分を責め続けた。
「僕がちゃんと勝っていれば…、きち子を引き留めることができていれば…」
その苦しみを自ら終えようとしたのに、終わらなかった。きち子はまだ、僕のことを呼んでいないと知った。
「生きて、私より強くなって。私はずっと月で待ってるから」
月からきち子が、そう言ってくれたから
— 和了 —
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