3 / 3
第三章【オーラス】
しおりを挟む
きち子に負けた日の後、彼女が遠くへ行ったことを知った。僕は怒りと悔しさで、目の前にあった石油ストーブを蹴り上げた。すると、着火プラグの辺りからじわりと石油が漏れだすようになった。
きち子と会うことが出来ない。その寂しさと後悔に苦しみ続けた。しかし、それも今日で終わり。壊れたストーブに石油を入れてスイッチを入れた。
「もう、全て終わりにしてしまおう」そんなことを考えて、雀心を起動した。
その時、目を疑った。きち子からの友人申請。そして納得した。きち子が呼んでいるんだと。
おかしい、画面に『ツモ』が表示されない。興奮して、時間が短く感じられるのだろうか…。このままでは意識が持たない。
そう思っていたら、チャットが動いた。
「槍槓」
対面がツモを宣告し、手牌を見せる。画面は切り替わり、役が読み上げられ、得点計算が終わる。画面には、天兎という、うさぎをモチーフにした長い黒髪でピンク色の巫女服を着たアバターが現れる。
『和了ね、私の方が強いでしょ』
僕は、天兎の決め台詞を聞きながら、意識を失った。
どれくらい時間がたっただろう。ゆっくりと意識が戻る。周囲からは焼け焦げた匂いが漂っているが、炎はあがっていない。激しい雨の音がする。天気予報は当たったようだ。立ち上がろうとしたが、身体に力が入らず仰向けに倒れてしまった。焦げた天井や壁から雨風が入り込み、ひどく寒い。
近くで救急車と消防車のサイレンが聴こえる。そして、玄関ドアを蹴破る音が響く。結局僕は、きち子に勝つことも、きち子の元へ行くことも出来なかった。
タンカーに乗せられて救急車に運ばれる。その途中で見えた夜空、雨雲の隙間から月が見えた。その時…
きち子の声が聴こえた気がした。
クリスマスに終電が横転、死傷者多数。そのニュースを知った僕は後悔し、一年間、自分を責め続けた。
「僕がちゃんと勝っていれば…、きち子を引き留めることができていれば…」
その苦しみを自ら終えようとしたのに、終わらなかった。きち子はまだ、僕のことを呼んでいないと知った。
「生きて、私より強くなって。私はずっと月で待ってるから」
月からきち子が、そう言ってくれたから
— 和了 —
きち子と会うことが出来ない。その寂しさと後悔に苦しみ続けた。しかし、それも今日で終わり。壊れたストーブに石油を入れてスイッチを入れた。
「もう、全て終わりにしてしまおう」そんなことを考えて、雀心を起動した。
その時、目を疑った。きち子からの友人申請。そして納得した。きち子が呼んでいるんだと。
おかしい、画面に『ツモ』が表示されない。興奮して、時間が短く感じられるのだろうか…。このままでは意識が持たない。
そう思っていたら、チャットが動いた。
「槍槓」
対面がツモを宣告し、手牌を見せる。画面は切り替わり、役が読み上げられ、得点計算が終わる。画面には、天兎という、うさぎをモチーフにした長い黒髪でピンク色の巫女服を着たアバターが現れる。
『和了ね、私の方が強いでしょ』
僕は、天兎の決め台詞を聞きながら、意識を失った。
どれくらい時間がたっただろう。ゆっくりと意識が戻る。周囲からは焼け焦げた匂いが漂っているが、炎はあがっていない。激しい雨の音がする。天気予報は当たったようだ。立ち上がろうとしたが、身体に力が入らず仰向けに倒れてしまった。焦げた天井や壁から雨風が入り込み、ひどく寒い。
近くで救急車と消防車のサイレンが聴こえる。そして、玄関ドアを蹴破る音が響く。結局僕は、きち子に勝つことも、きち子の元へ行くことも出来なかった。
タンカーに乗せられて救急車に運ばれる。その途中で見えた夜空、雨雲の隙間から月が見えた。その時…
きち子の声が聴こえた気がした。
クリスマスに終電が横転、死傷者多数。そのニュースを知った僕は後悔し、一年間、自分を責め続けた。
「僕がちゃんと勝っていれば…、きち子を引き留めることができていれば…」
その苦しみを自ら終えようとしたのに、終わらなかった。きち子はまだ、僕のことを呼んでいないと知った。
「生きて、私より強くなって。私はずっと月で待ってるから」
月からきち子が、そう言ってくれたから
— 和了 —
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる