高嶺の花

やっさん@ゆっくり小説系Vtuber

文字の大きさ
2 / 3

第二章【聴牌】

しおりを挟む
 きち子は大学時代の同級生。長い黒髪に整った顔立ち。そして愛くるしい瞳。しっかりしているのに、どこか抜けている様子も含め、まるでうさぎのように可愛らしい。大学内で、男子からの人気はトップクラス。冴えない僕なんか、話しかける機会すらない。まさしく、高嶺の花だった。

 大学でPCの操作を教わる授業。必修科目なのに、電源の付け方から教える超初心者向けの為、とても退屈。後方の席の者はみな、ネットサーフィンやSNSで暇をつぶしていた。僕も、当時覚え始めたオンラインの麻雀ゲームにいそしんでいた。なかなか和了できずに苛立っていた時、メールが届いた。

『役は狙って作るのではなく、ツモに身を任せて役に染まっていくの』

 送信者はきち子。周りを見渡すと、斜め後の席から彼女がこちらを見ている。目が合うと、ニコリと笑顔を向けてくれた。

 翌週から、PCの授業ではきち子が隣に座り、麻雀について色々教えてくれた。彼女の綺麗な打ち筋を見ているだけでも勉強になった。彼女の意外な趣味を週に一度共有する。たったそれだけの時間だが、僕がきち子に恋をするには十分だった。



 友人との対局中は、チャット機能で文字による会話が出来る仕様。大学を卒業後も、時々雀荘で対局した。一年前に雀荘で交わした会話と同じことが、文字チャットで行われる。

「私、結婚できない。こんな麻雀女を嫁に貰ってくれる男なんていない」

「僕が貰ってあげるよ」

「私より麻雀の弱い男と結婚する気はない」




 きち子と僕は、ランダムにマッチングされた他2人のプレイヤーから点棒を吸い上げるように和了を重ねる。大学時代にきち子から鍛えられた僕は、卒業後も確実に強くなった。例え相手が彼女でも、簡単には負けないはず。
 迎えたオーラス。トップのきち子を、なんとか追いかけている。まだ逆転だって狙える。今日こそ、彼女に勝ってプロポーズを受け入れてもらう。そしてこのまま彼女の元へ迎えに行く。そう思うと、かつてないほど集中できた。

 気づくと全身から汗が噴き出している。それほど興奮しているのか、それとも石油ストーブの火が熱すぎるのかもしれない。それに息が苦しい。集中しすぎて息をするのを忘れていただろうか。

 大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。すると、つきあがるような感覚が身体を走る。僕は額の汗を袖で拭うと、再びモニターに集中する。

 一向聴以降ツモが悪い。捨て牌を見る限り、既にきち子の手は整っている。

「ポンにゃ!」

 一か八か、鳴いてテンパイ。これで立直が出来ない。和了してもドラを乗せなければ逆転出来ない。ならばドラを作ればいい。その上でリャンピンを待つだけ。これだけ追い込まれているのに、なぜか自信があった。

 残りの牌も僅か。徐々に自信が薄れ不安が濃くなる。やはりきち子に勝つのは難しいのか。和了するだけでは逆転出来ない。焦りと暑さで頭痛と眩暈がしたその時、チャンスが来た。

「カンにゃ」 

 さっき鳴いた牌にカンを乗せる。これでドラが増える、逆転の芽が出る。嶺上牌が画面に表示される。そこには、きち子のまんまるの瞳のように、黒いまん丸が二つ。
 リャンピン。嶺上開花だ。これで逆転だ。頭の中に、きち子との思い出が駆け巡る。それはまさに走馬灯の如く。あれは、去年のクリスマスの夜。



 お互い仕事が忙しくて会う機会が減ったが、クリスマスだからと強引に呼び出した。しかし、どこに行っても混雑していて入れない。結局、自宅近く、いつもの雀荘に行った。

 カウンターに置かれた小さなツリーだけが、今日はクリスマスであることを告げている。そんな殺風景でムードのかけらもない雀荘で、二麻の対局。クリスマスに男女二人。そんな対局だったからか、珍しくきち子がため息を吐いた。

「私、結婚できない。こんな麻雀女を嫁に貰ってくれる男なんていない」
「僕が貰ってあげるよ」
「私より麻雀の弱い男と結婚する気はない」

 迎えたオーラス。珍しく僕がリード。配られた牌もよく、手早く安い役でテンパイに持ち込む。あえて立直はせずに両面で待つ。勝ちを確信した僕は、安堵した気持ちで話しかける。

「僕、強くなったでしょ?今日は勝つよ。だから、この後二人で…」

 そんな僕の言葉を聞いていないかのように、きち子はカンを宣言して、嶺上牌をツモる。そして時計を見て言った。

「23時半か、まだ終電あるな。電車で帰る・・・・・

『電車で帰る』
 暗槓子を電車のように横へ滑らせることからついた用語。そして、その言葉の意味は…

「嶺上開花」

 最後の最後に逆転された。そして、振られた。一人電車に乗るきち子を駅で見送った。この時、僕は知らなかった。彼女が、遠くへ行ってしまうことを。



 思わずキーボードをタイプする。
「きち子、今からそっちへ行くよ。結婚しよう」

 一年越しにやり返した。しかもあの役で。

 タイピングを続ける
「嶺上開花」  ドーー-ン
 
 爆発の衝撃に身体が揺らぐ。もう、麻痺したのか熱さは感じないし、呼吸が出来ているのか自分でも分からない。意識が朦朧もうろうとするが、『ツモ』を宣言するまで、倒れるわけにはいかない。


 右手をキーボードからマウスへ移す。『ツモ』が表示されたらクリックする為に。勝った、やっと勝った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...