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神殿に着いて僕たちは塔の最上階にある部屋に押し込まれた。
今までいた地下の部屋よりは清潔ではあったが、埃っぽく窮屈な感じがした。

あいつが僕の服の袖を掴んできて泣きそうな声でヒソヒソと話してきた。

「ねぇ、僕たちどうなっちゃうんだろう…うぅ…」

僕も不安で押し潰されそうだったから、あいつにあたってしまった。

「わっかんないよ!おまえ、なにしたんだよ!」

「ぼ、僕?えっ、な、何もしてない」

「お前が神官にぶつかったからじゃないのか!?僕は神官なんてあったことねぇ」

「で、でも…」

まだ幼い僕たちはこの状況にいっぱいいっぱいでヒソヒソ話していたのにいつの間にか大声で泣きながら喧嘩をし、不安をぶつけ合った。

暫く泣き続けていたが、コツコツと近づいてくる足音が聞こえ、僕たちは泣き止み、互いにしがみつき構えた。


ガチャ

僕たちを連れてきた上級神官の他に数人の上級神官が入ってきた。

「おや?2人…ですか?」
「よく似てる。どちらです?」

初めて見る顔の神官たちは怪訝そうな顔で僕たちを見下ろし、見比べた。

「それが、あの方が話されていたのはどっちなのかわからなくてですね」

僕たちを連れ去った神官が他の神官に説明するように僕たちの頭を掴んだ。

「えぇ、右のが受容で左の供給です。揃っていないと使い物にならないので2人とも連れて来る必要があると判断しました」

神官は僕たちから手を離し、手を布で拭くと布を棄てた。
人相の悪い神官が僕の髪をつかんで持ち上げ

「ちっ、めんどくせぇなぁ。あっちは色々使えるけど、コイツは居るだけか?」

「いえいえ、使えるように仕込めば、それ単体でもまぁそれなりに」

「ハンッ」

つまらなさそうに僕を床に投げ捨てた。

「皆さん確認できましたね。では、大神官様に御報告して準備に取り掛かりましょう、キース、これらの世話を頼みましたよ」

上級神官の中でも1番偉そうな神官がパンパンと手を叩き、軽薄そうな神官に僕らを押し付けた。

「マジっすか~」

「頼みましたよ」

そう言って軽薄そうな神官以外の神官は部屋から出ていった。

「はぁ~。やれやれ。お前ら、くっせぇからこれで体拭いとけ。ちょっとはマシになるだろ。その間に俺は着替えとなんか食いもん持ってくっから」

軽薄そうな神官は濡れた布を僕たちに1枚ずつ渡し、神官と思えない口調で話をし、出ていった。

キースと呼ばれた神官が食事と着替えを持って戻ってきた。

食事をテーブルの上に置くと、僕たちに声をかけてきた。

「ちゃんと拭けたか?おー待て待て、そのボロは脱いてこっちにしろ。ほれ、お前たちにはデカいかもしれないが、それが一番小さいサイズなんだわ。まぁいくらかマシだろう」

そう言って生成りのシャツとズボンと下着を渡してきた。下着とズボンは紐で調整できるようになっていた。

僕たちの着ていたボロボロの布はキースが処分するとのことだった。

「濡れタオルじゃ頭が洗えねぇな。くせぇ…。仕方ねぇ、お前ら着替えたらアレ食っとけ。俺はまたちょっと出る」

キースは近寄ってきて勝手に人の頭のにおいを嗅いで顔を顰めた。一寸考えて、テーブルの方を指差しながらまた部屋から出ていった。

キースが馴れ馴れしいからか、僕たちに害をなす訳では無いからか、僕たちはキースに対してのあまり警戒しなくなっていた。

「なんか忙しない人だね」
「うん…食べよーか」

部屋に残された僕らは机の上に置かれた食事を摂ることにした。
机の上には籠が2つと大きな器に入ったスープが置いてあった。パンは籠に山盛りで入っていて今までで食べたことがないぐらいふわふわしていた。スープは黄金色で透き通っていて細かく刻まれた具が入っていた。パンもスープもまだ温かかった。
そして、もう1つの籠には果物が入っていた。

「美味しい!ねぇ、美味しいね!」
「………モグモグ…」

僕たちは最初の一言以外無言で食べ続けた。

ゴクゴク…ふぅ~

あっという間に机の上の籠も大きな器も空っぽになった。

と、その時キースが戻ってきた。
その両手には湯気が出てる桶を持っていた。

「おぉ、食ったか。いい食いっぷりだな!そしたら、右の奴、そう、お前、こっち来い」

キースに呼ばれた僕はソファに仰向けに座るように促され、頭をガシガシと洗われた。

「お前らくっせぇからな。特別に洗髪料使ってやるよ」

キースは楽しそうに僕の頭を洗った。
一回じゃ落ちねぇなとかいって何回か洗髪料を付けて洗われた。
最後に温かいお湯で何度か洗い流されてタオルを渡された。

「よし、もう臭くないな。次、左のお前、来い」

あいつも同じように、ガシガシと洗われ、タオルを渡された。

「はぁ~これでくっせえの取れた取れた。やっと俺も息ができるぜ。なんつったってこの部屋、換気窓しかねぇんだよな。ちっ辛気くせぇ。じゃぁ俺はこれ片付けて自分の仕事に戻るからお前ら好きにしな。

あっ、でもな、この部屋からは出られねぇから」

キースは鍵をクルクル回しながら僕たちを牽制した。
そして、食器や桶を器用に纏め、ヒョイと持つとじゃぁなと言ってドアに鍵をし、塔から出ていった。

「あの人いい人?」
「わかんない…」

僕たちは自分の置かれている立場を理解していなかったけど、緊張が解け、眠気が襲ってきた。

ふらふらと寝台に横になった。硬い木のベッドの上に薄い布団が乗っかっているだけだったが、前の部屋、スラム街の地下室よりは全然、上等な寝床だった。

「僕たち…これからどーなっちゃうんだろう…」
「わかん…ねぇ…けど……………」

不安を話し、分かち合いたかったが、猛烈な睡魔には勝てなかった。

翌朝キースが朝食と水の張った桶を持ってくるまで泥のように眠っていた。
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