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第5章「桜十葉に手ぇ出したら俺がぶっ殺す……」

裕翔くんの信頼する人たち 桜十葉side

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その後、お手伝いの由美子さんがこの光景を見てしまっていたようで、失神状態の由美子さんを私の家まで裕翔くんと連れて帰った。



「本当にありがとうございました。こんな姿をお見せしてしまい、誠に申し訳ありません」



私達が悪いのに、由美子さんはペコペコと頭を下げていた。こんなにベテランのお手伝いさんに頭を下げさせてしまうなんて、……。



胸の中で罪悪感が広がっていく。



「いえ、俺が悪いんです。あんな光景を見てしまえば誰でもそうなってしまいます」



裕翔くんは頭を下げ続ける由美子さんに穏やかな声でそう言った。由美子さんはやっと、顔を上げて安堵したような安心した笑みを浮かべた。



「お嬢様と裕翔様に私を運ばせるなんて……。とんでもない失態でございます。今後とも、気を付けます」



「ゆ、由美子さんっ!そんな事、ないです!いつも私のお母さんのことや私の身の回りのことをしてもらっています。だから、こんなことは本当に少なからずのお礼です」


「お嬢様……」



由美子さんは目に涙を浮かべて、ありがとうございます、と言い裕翔くんに家に入るように促した。



「俺は、今日は桜十葉と2人きりになりたいです。お気遣い、ありがとうございます」


「そうですか、……。では楓様にはそう伝えておきますね」



私は裕翔くんと手を繋いで、裕翔くんの家に向かう。日付は2日しか経っていないのに、裕翔くんの家に帰ることがとても嬉しく感じた。



「桜十葉、今日は一緒にお風呂に入ろうよ」



裕翔くんの家に着き、裕翔くんが発した第一声がこの言葉。



「えっ!?む、無理だよ!恥ずかしい……」


「いーじゃん。だって俺達、キス以上の事何回してきたと思ってんの?」



ひ、裕翔くん。顔が絶対に楽しんでる!!
ううっ、酷いよ~。



「そ、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいの!」



私は自分のクローゼットから着替えを適当に取って、脱衣所へと急いで向かった。



そして、扉に手をかける前に裕翔くんの方に振り返り、真っ赤になって伝える。



「そ、その……私とお風呂に入ってもいいのは結婚、してから……ね?」



私の言葉に裕翔くんの目が見開かれた。私は急激に恥ずかしくなって、急いで扉を開けて脱衣所に飛び込む。



そんな私は、扉の向こうで裕翔くんがすごく苦しそうに顔を歪めていたことなんて、知りもしなかったんだ……。



お風呂から上がって、裕翔くんの家の大きくて豪華なリビングに向かう。 



裕翔くんは大きなソファで、放心しているようにして座っていた。



どうしたんだろう……?さっき私があんなに恥ずかしい事を言ってしまったからかな?



「裕翔くん……」



そっと声をかけるが、裕翔くんは反応しない。ちょっとそれに違和感を覚え、次は裕翔くんの肩を揺さぶって声をかける。



裕翔くんはやっと気づいてくれて、私の事を見てまた固まってしまったように目をまん丸くさせる。



「桜十葉、ちょっと来て」



裕翔くんに連れられ、裕翔くんの部屋に入る。
そして部屋の電気を付けて、ソファに座った。



「ほら、おいで」



部屋に入って動こうとしない私に裕翔くんが優しく声をかけてくる。



「う、うん」



私は裕翔くんの膝の上に跨(またが)るようにして座る。



「っ、……」



裕翔くんの顔が真っ赤に染まる。

私ももちろん恥ずかしいのだけど、どうして私よりも裕翔くんの方が恥ずかしがっているのだろう。



「ねぇ、桜十葉。前までそんな露出したパジャマとか着てなかったよね?」



裕翔くんの言葉を聞き、自分の姿を確認する。
確かにちょっと露出度高めのパジャマかも…。
裕翔くんは私の背中あたりを手で触った。



「しかも中はキャミだけ?ねぇ、襲われたいの?」



「だ、だって……脱衣所に、持ってくの忘れて……」



裕翔くんはもう、さっきの困ったことなんてしていなかった。私のパジャマの上から、胸が膨れているあたりを触ってきた。



「ちょ、ちょっと……裕翔くん!?」



「だって俺を煽った桜十葉が悪い。男っていうのは触りたくなるもんなの。好きな女の子の……」 



「あぁー!!もう、裕翔くんの変態!!」



裕翔くんがこれから言おうとする言葉が分かってしまったので、その前に阻止する。



「あぁ、俺は変態だよ。あとめっちゃ桜十葉バカになっちゃってるから」



覚悟してね?と裕翔くんは妖艶に微笑む。
その後、私は目の前が真っ暗になるような感覚になり、気を失ってしまった。



「気ぃ失うなんて可愛すぎだろ……」



裕翔くんがそう言って私を裕翔くんのベッドまで運んでくれたことは私が朝、目を覚ました時に分かる事だった。



私は今、めちゃくちゃ緊張しています……。

ここは裕翔くんが通っていた高校、黒堂と言う所らしい。見るからに外観から普通じゃないんだけど、……大丈夫かな?



緊張でカチコチになる私に裕翔くんが優しく笑いかける。



「大丈ー夫だよ。みんな俺が信じてる仲間だから」



私は暴走族の事や総長の意味もたくさん教えてもらった。なんだか聞き終わった後は放心状態になってしまったけれど…。



裕翔くん率いる暴走族は日本中に知れ渡る暴走族であり、その名は



KOKUDO(コクドウ)



いつも優しい裕翔くんがまさか暴走族を率いる総長だなんて、私はとっても驚いてしまった。
でも、同時に納得出来る所も沢山あった。



「おい、お前ら!!!総長が来たぞ!道を開けろ!!」


坊主頭の私と同い年くらいの男の子が大きな声を出して、裕翔くんに頭を下げる。



「総長!!!お疲れ様です!!!」



「「「お疲れ様です!!!!総長!!」」」



突然現れた裕翔くんに、今までだらしなく話していた彼らが息を揃えて、大きな声で挨拶し、頭を下げる。



本当に、裕翔くんは総長さんなんだ……。

聞いた時には現実味がなかった言葉達が今、生々しく体全体に伝わってくる。



「はは、みんな元気にしてた?頭、上げてもいーよ」



裕翔くんが歩く道が自然と作られていく。
裕翔くんはどうやらどこかに向かっているらしかった。



「ねぇ、裕翔くん……。どこに向かってるの?」



沢山の不良達みんなが私に釘付けになっている気がして、いたたまれなくなって裕翔くんの腕を掴む。



「んーとね、これから紹介したいヤツらがいるんだ。俺と同い年のやつもいるし、桜十葉と同い年くらいのやつもいるよ」



裕翔くんは学校にある扉にしてはとても大きい厳重な扉を開けて、中に入る。

私も裕翔くんに続いて部屋の中に恐る恐る足を踏み入れた。



「おー、裕翔じゃん。おひさー」



さっきの人達とは違って、友達のように総長である裕翔くんに話しかける彼。この人も凄く綺麗な容姿をしてる……。でも裕翔くんの横にいる私を見て、その人は固まってしまった。



「え、裕翔、それ…女?もしかして彼女なん?」



目を見開いて固まる綺麗な容姿をした男の人。この人はなんだか裕翔くんと同い年の大人っぽい。



「滉大。こいつ、俺の彼女だから。手ぇ出すなよ」


「マジか、…。オンナ嫌いのはずの裕翔が、ねぇ」


「おい、なんだよその目。気持ちわりぃな」



やっぱり、いつもとは違う裕翔くん。
その口調は本当に不良さんみたいで、いつもは見ない姿にキュンとしてしまう。



「俺、山海 滉大(やまみ こうた)。もう俺らの事は裕翔から聞いた?」



私はコクンと小さく頷く。まだ緊張が解けないのは、目の前にいる山海さんのせいでもあるけれど、大きくて立派な長い机に沿って置かれている高級そうなソファに座っている人達からの視線のせいでもある。



「桜十葉、こいつはKOKUDOの副総長だ。そして、この部屋にいるヤツらは全員幹部のヤツらだ」



へっ!?ってええー!?
また出てきた新しい単語に私はまたもや驚いてしまう。



「まあ、いわゆる特攻隊の隊長とか副隊長とかの人達だ。君、桜十葉って言うんだね」



山海さんは裕翔くんの説明に付け加えをしてくれたらしいのだが、それを聞いてもっと訳が分からなくなってしまったのは申し訳ない。



「わぁ~!君、とっても可愛い!歳はいくつ?ちなみに俺は今22歳!」



な、なんと……。裕翔くんの同い年の大人がここにもいたのか。



「おい、來翔(らいと)。俺の桜十葉に近づくな」


「ひぃー、怖ぇ」



そんな事を言っているけど、來翔と呼ばれた銀髪の男の人は怖がっている素振りなんて1ミリもなかった。



この人達はきっと、裕翔くんがヤクザの息子だと知った上でこんな風に接してくれているのだろう。とても、優しい人達だ。



「桜十葉、こいつの事なんて直ぐに忘れてもいいんだけど…。來翔は一番隊隊長を務めている」



KOKUDOは合計600人以上の日本では最強と知られる超巨大な暴走族なのだそう。そして、壱番隊、弐番隊、参番隊……、と沢山のグループに分かれているそうで、ここには



総長─────坂口 裕翔(22歳)



副総長────山海 滉大(22歳)



壱番隊隊長──如月 來翔(22歳)



壱番隊副隊長─早乙女 賢人(さおとめ けんと) (17歳)
                               ・
                               ・
                               ・
と、伍番隊副隊長までが入れる部屋らしい。



どうやら、裕翔くんと同い年なのは山海さんと如月さんの2人だけのようだ。

そして一番隊副隊長の早乙女さんは私よりも1つ年上の高校2年生。



ふぇぇ……、凄いなぁ。

早乙女さんはさっき裕翔くんと私に頭を下げただけで、ずっと喋らない。



「あ、賢人の事気になる?」



如月さんが裕翔くんの方をチラ見しながら私に私にそう尋ねる。



「あ、いや ……」



裕翔くんからとっても黒いオーラが出ているように見えるのは私の勘違いでしょうか。



「ふっ、はははははっ……」



私があたふたとしていると、今まで無口だった
早乙女さんが笑いだした。私はびっくりして、早乙女さんの方へと視線を戻してしまう。



「桜十葉っていうんだっけ?お前、俺の事ジロジロ見すぎ、……くくっ」



そんなにその事が面白かったのか早乙女さんは笑い続けている。反対に私はどんどん不機嫌になって頬を膨らませてしまう。



「だ、だって早乙女さん、……ずっと話さないから不思議に思って……」



だけどそんなに見る?と早乙女さんは私を馬鹿にするようにそう言った。



「むむ……!」


「ごめん、桜十葉。怒ってる顔、結構好き」



そう言って早乙女さんがとても優しくてかっこいい笑顔を弾けさせた。この部屋にいる人達は全員イケメン揃い。



それでも、私は裕翔くんがダントツ飛び抜けてかっこよく見えて仕方がない。



「おい……、早乙女、お前……」



後ろからとても恐ろしい声が聞こえたかと思えば、私の体を後ろから抱きしめる裕翔くん。



裕翔くんを見上げると、とっても不機嫌な顔ををしてとても恐ろしい言葉を言い放った。



「桜十葉に手ぇ出したら、俺がぶっ殺す……」



その場にいた全員が凍りついた。早乙女さん、さっきまで笑ってたのに今は顔が引きつってるよ…。



「ひ、裕翔くん?もうここから……出たい」


「…え?あ、そうだな。もう出ようか」



私に向ける声はとても優しいもので表情も優しく笑っていた。



「うわ。裕翔、切り替え早ぇー」



部屋を出る時、如月さんが裕翔くんを茶化していたけれど、裕翔くんはそんなのお構いなしに私を部屋から出した。



「あいつら、ああいうヤツらなんだけどさ。……その、めっちゃいいヤツらだから」



裕翔くんは恥ずかしそうに私に告げた。さっきまではあの人たちに黒いオーラを見せて怒ってばかりだったのに、やっぱり心の底ではあの人たちのことをちゃんと大切に思ってるんだな…。



「うん。それは分かったよ。だってみんな裕翔くんを慕ってくれてるもん」



裕翔くんは驚いたような顔をしたけれど、ふっと優しく笑って私の手を取った。



「桜十葉、これからあの公園に行こうか」


「うんっ!」



黒堂から出る前も沢山の不良さん達が裕翔くんと私に挨拶をしてきた。



うぅ、……私にこの挨拶が慣れる日が来るのかなぁ。



私達は公園に入り、前に来た時と同じベンチに座った。裕翔くんが肩が当たる距離で座ったので、私の心臓がまたドキドキと鳴り始める。 



「ひ、裕翔くんはここの公園に何か思い出があったりするの…?」



私は思いきって切り出す。裕翔くんは一瞬黙った後、ゆっくりと頷いた。



「俺、ここの公園で小さい時さ……一度だけ、一緒に遊んだ子がいたんだ」



一度だけ遊んだ子、かぁ……。それは女の子なのかな?
そうだったらちょっと嫌だな……。だってもしそうなら、裕翔くんは一度だけしか遊んでいない子のことを今までずっと、覚えていたということになる。



「ねぇ、桜十葉。もしさ、過去に桜十葉のこと傷つけた奴と一緒にいたいって思う?」



裕翔くんは真剣な顔で私を見つめていた。

その質問は私には難しいもので、直ぐには答えられなかったけれど、裕翔くんがとても真剣だったから私もちゃんと答えることにした。



「んー、どうだろ。自分を傷つけた相手とは一緒にいたくはない、……かな」



なぜ、裕翔くんがそんな質問をしてきたのか。
なぜ、もしもの話なのにこんなにも心臓が嫌な音を立てているのか。



「そっか、……そうだよね」



空気が重くなるのを感じた。でも、私は……



「でもね、例え過去に自分を傷つけた相手だったとしても自分が一緒に居たいって思えたら、私は一緒にいる事を選ぶと思う…」



裕翔くんはそれを聞き、驚いた表情で私を見つめていたけれど、今度は優しく笑った。



「そっか、……そうなんだ。聞けてよかった」



裕翔くんがそんな事を聞いてくる意図が分からない。裕翔くんがなぜ、そんなにも安心した顔で笑っているのかも分からない。



でも、少し分かった事がある。



お母さんがなぜ、裕翔くんと一緒にいなさいと言ってきた理由。



それはきっと、何がなんでも一緒にいなさい、そういう意味も込められていたと思うんだ。



「私、もし裕翔くんが昔私を傷つけていた相手だとしても、……ぜ、絶対好きになるし一緒にいる自信、あるよ」



なんでもない風に本心を言った私の言葉に、裕翔くんの心が泣いていた事になんか気づきもしなかったんだ。



「桜十葉、ちょっと俺の昔話、聞いてくれる?」



✩.*˚side end✩.*˚

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