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ハードで楽しい深夜のお仕事

第21話

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 型紙のカットも大変だったが、反物の裁断がこれまた手間のかかる作業だった。
  一気に裁断だけとは行かなかったのだ。

「物が漢字、しかもこれだけ画数が多いと、間違いや部分的紛失の恐れも考えられるな。
 これは一文字づつ、切っては仮留め切っては仮留めの作業しないとだなぁ。」
「じゃあ、2人で流れ作業ですね。」
「そうだね。
 仮留めは俺がやるから裁断の方をお願い出来るかな?
 そこに裁ちバサミがあるから。」
「これですね。」
「気をつけてね。
 手入れしてあるから、結構鋭い刃なんだ。」
「はい。
 注意して使います。」

 ピンポン。ピンポン。

 インターホンが鳴って、槇さんが出てみると一馬君と春樹君が帰って来たらしい。

「ごめん、2人の報告聞かなきゃ…うーん。
 時間惜しいな…。」
「あ!じゃあ奈落に手伝って貰います。」
「いいのかい?
 契約とかで問題あるなら無理しなくても…。」

 僕を気遣って槇さんが、申し訳なさそうに言った。

「はい。
 槇さんの仕事はとても『有意義』ですから!」
「ん?『有意義』?…まあ、いいか。
 じゃあ、遠慮なく使わせて貰おうか。
 どうせ暇してるみたいだし。」
「暇じゃねーよ!これでも一応レポート書いてんだぞ!ったく!」

 奈落はノートパソコンをカチャカチャ打ちながら、膨れっ面をした。

「それ、終わってからでもいいから手伝ってよ。
 ね、奈落。
 『有意義』なんだから。」
「…はいはい!お仕事ですからね!」

 奈落はたち上がると、身体を左右に軽くくねらせた。

「じゃあ、よろしく頼む。
 あ、そうだ有村君から貰った菓子折り、一馬と春樹に少しあげるね。
 歩き疲れてるから甘い物は喜ぶと思うんだ。」
「はい。是非!」

 槇さんはキッチンに菓子折りとお茶の用意をしに行った。

「さて、奈落は裁断と仮留めどっちがいい?」
「手先は器用な方じゃないから裁断!」
「…何とかにハサミっていう感じ…。」

 裁ちバサミをチョキチョキしながら笑顔の奈落にちょっとだけ引いた。
 どっかのホラー映画みたい…ははは。

僕は忍者衣装を丁寧にカバーから取り出し始めた。

「ただ今戻りました。」
「お疲れ様です。」

 一馬君と春樹君が紙袋をいくつか手に持って帰ってきた。

「お帰り~!一馬、春樹!お疲れサンマ~!」
「お帰りなさい。お疲れ様。」

 僕と奈落は仕事の手を進めながら挨拶した。
 奥から槇さんが2人を呼んだ。

「お帰り、一馬、春樹。
 有村君にお菓子頂いたから、結果の話しを聞きながらお茶にしよう。」
「あ、はい。
 ありがとうございます。」
「頂きます。有村さん。」

 2人は礼儀正しく、僕に一礼してキッチンの方に消えて行った。

「奈落も…槇さんにも、あんな時があったんだよね。」
「まあな。
 ちょうど、今が一番頭ん中いっぱいいっぱいの時期だな。
 そのうち、力の抜き方覚えて効率よく出来るさ。」
「うん。
 確かに疲れてたみたいだけど…。」

 けど、2人の瞳は仕事をやり切った自信と、この先への意欲でキラキラ輝いているようにも見えた。

 僕も頑張らないと!
 僕は忍者衣装をカバーから丁寧に取り出して裁断し終えた反物を待ち針で仮留めして行った。
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