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1学期
彼女の描く世界
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職員室に戻るとすぐ、清水先生が僕に問い掛けた。
「田宮の、推薦入試の小論文の内容。
聞きたいか?」
「へっ?秘密じゃないんですか?」
「全文は教えない。
ただ、最後の文面だけ教えてやる。」
「…はい。」
ゴクリと唾を飲み込み、清水先生の声を聞き漏らさない様にしっかり耳を傾けた。
「《結論から言うと、私は空っぽで枠しかない箱と同じなのだ。自分と言う意味のなさない単なる入れ物。》
…意味解るか?」
清水先生が謎めいた表示で問い掛けてきた。
「いえ…さっぱり。なにが何やら。」
本当にチンプンカンプンだった。
箱…?単なる入れ物…?
「あーもう!本当にお前はアホだなぁ。」
頭をかきむしり、イライラする清水先生に逆らうように言った。
「解るわけないでしょ!こんなん!」
「生ける屍。」
「えっ…。今、なんて??屍って死体って事…?」
「私は、生きながらにして、死んでますって言ってんだよ!アホにも解る様に説明すると。」
ええーーーー?!
「お前も一応文系だろうが!ったく。
とにかく、そう言う事だ。
田宮はお前が思ってるより、聡明で繊細だ。
下手に荒波を立てるなよ。」
自殺願望者の文字が頭をよぎった。
そうだった…僕には心当たりがあった。
あの、久瀬と田宮の会話…。
死に…憧れる…。
胸のモヤモヤが一層僕の中で騒ぎ出した。
今…彼女は…どこにいる…?
おそらく…旧理科室!
僕は急いで職員室を後にした。
「おい!どこ行くんだ!?
一旦落ち着けよーったく、若い奴ってのは!!」
遠くで清水先生が頭を抱えて僕を呼んだが、足が勝手に向っていた。
彼女の秘密の居場所…旧理科室に。
僕は、いつものように音に注意しながら旧理科室準備室に滑り込む。
早く、田宮の姿を確認したかった。
中扉から彼女の姿を確認した。
「ほっ。生きてる。」
安心して身体の力が抜けた。
肩で息をしながら、様子を伺った。
彼女はイーゼルにスケッチブックを広げ絵を描いていた。
暑いのか、紺のベストを脱ぎ、白い解禁シャツに紺のスカートという夏っぽい格好だった。
白い解禁シャツからは薄っすらと、下着が透けて胸の膨らみが立体的に見えた。
「…おい!誰かに見られたら…って僕が見てんだろ!」
小さな声が思わず漏れた。
ピンク色…!!目のやり場に少し困った。
今更、女子の下着が透けたくらいでこんなにも自分がドキドキするなんて思わなかった。
職員室から慌てて来たせいもあって、鼓動なのか動悸なのか区別がつかないほど心臓がバクバクしていた。
「ヤバ…鼻血…出るかも。」
慌てて鼻をハンカチで覆った。
変態だな絶対…こんなん見つかったら言い訳のしようがない。
自分で自分の反応に呆れて、中扉からずり落ちるようにしゃがみ込んだ。
しばらくして、少し気持ちを落ち着けると、彼女の描くスケッチブックに目をやった。
何を描いているのか、こちらからは角度が悪くて見えない。
しかし、彼女がいつもより真剣に描いているのは確かだ。
1線1線息を止めて描いているかのようで、ひたいや首筋から汗がながれていた。
首筋の汗が解禁シャツの中央部の谷間に流れ落ちる。
…!!
下着が透けて見えるせいか、どうしても変なとこに目が行ってしまう。
くそっ。何やってんだ僕は!
僕は中扉から離れて、旧理科準備室内の小さなデスクある以前持ってきていたポットに水を入れ、お湯を沸かした。
お湯が沸くと、これもまた以前持ってきていたマグカップにコーヒーを入れた。
丸椅子に腰掛けて、前のめりになった。
「はふっ。やっと落ち着いた。」
机は中扉と同じ旧理科室の壁の方にくっつけられている。
何もない、壁をじっと見つめる。
この向こうに、彼女がいる。
ちゃんと生きてる。
コーヒーを飲んだというのに、安心感からか、少し眠くなった。
彼女がそこにいるだけで…時間の流れも…空気さえも…緩やかな気がした。
騒がしい生徒の声も、職員室の騒めきも、引っ張られるような香苗の声も聞こえない。
2人だけを感じる空間がそこにあった。
眠り込んでいたのか、もう夕方を過ぎていた。
久しぶりに熟睡した後の心地よさが広がる。
ぐっと背伸びをして、椅子から立ち上がった。
旧理科室と旧理科準備室の天井の明かりは連動している。
明かりがついているということは、まだ彼女はそこにいるはず。
僕はそおっと、中扉の小窓から旧理科室を覗く。
ちょうど、作業を終えて片付けをし始めるところのようだった。
イーゼルを畳んでカーテンの陰に、スケッチブックを棚の1番下の戸棚に入れていた。そこには何冊かの同じようなスケッチブックが数冊置いてあった。
室内の電気を消して、戸締まりをすると玄関ホールへと向って行った。
僕は、彼女の描いていたスケッチブックの中身に興味があった。
彼女の姿が完全に消えたのを確認してから旧理科室の鍵を開けて薄暗い室内に入った。
パチン。
電気をつけて、棚の方へ歩いて行った。
どうやら鍵とかは掛かっていないようだ。
辺りをキョロキョロと見渡した。
誰もいるはずがなかったのだが、他人のスケッチブックを覗くとなると多少の罪悪感が胸をよぎる。
そっとしゃがみ込み、戸棚を開けて1番手前にあるスケッチブックをゆっくりと取り出した。
さわっ。
一瞬、周りの景色が変わった感覚がした。
覆いかぶさるような深い木々の葉、囲むような茂み、色の無いはずの鉛筆画なのに鮮やかな深い緑色が目の前に浮かんだ。緑色の巨大な迷路に迷い込んだ気分になった。
「こんな特技があったんだ…。全然知らなかった。」
いや、全然知らない事だらけだ…。
僕は彼女の事を何も知らない。
好きな芸能人、好きな食べ物、好きなファッション、好きな音楽…何もかも、知らないのだ。
自分自身がこの森の迷路の中に閉じ込められている気がした。
リンクしているかのようだ。
出られなくて、出られなくて、もがいても…もがいても…。
彼女が、こんなにも遠いのが何だか淋しくてたまらなかった。
近づいたと思っても、またすぐに遠くに離れて行ってしまう彼女。
「僕は…どうしたらいいんだ?」
でも、彼女が死にたがっているというのは確かだ。
そして、それは田宮美月と彼女との関係に秘密があるんだ。
つまりは、やはりあの去年の夏の日の出来事を解明する事は、彼女に近く為に不可欠だという事だ。
彼女を死の世界から救う為にも…。
…でも…どうすればいいんだ?
スケッチブックを閉じて、天井を仰ぎ
考えを巡らすが、ループしてるだけで答えはまったく出てこなかった。
ブルルル。
携帯のバイブレーションが鳴り出した。
腰のポケットから携帯を取り出して見た。
香苗だ!
慌てて、メッセージを確認した。
「えっ…。夏休みの事で話がしたいから外食しよう…?」
夏休み…そうか、もうすぐに夏休みに入ってしまう。
夏休み…彼女は学校に来るのだろうか。
しばらく、会えなくなるのかな…。
香苗からのメッセージなのに、僕は彼女の事ばかりでこのメッセージの意味を深く考えていなかった。
この時、僕は香苗を甘く見過ぎていたのだ。
待ち過ぎた女の怖さを知らなかったのだ。
「田宮の、推薦入試の小論文の内容。
聞きたいか?」
「へっ?秘密じゃないんですか?」
「全文は教えない。
ただ、最後の文面だけ教えてやる。」
「…はい。」
ゴクリと唾を飲み込み、清水先生の声を聞き漏らさない様にしっかり耳を傾けた。
「《結論から言うと、私は空っぽで枠しかない箱と同じなのだ。自分と言う意味のなさない単なる入れ物。》
…意味解るか?」
清水先生が謎めいた表示で問い掛けてきた。
「いえ…さっぱり。なにが何やら。」
本当にチンプンカンプンだった。
箱…?単なる入れ物…?
「あーもう!本当にお前はアホだなぁ。」
頭をかきむしり、イライラする清水先生に逆らうように言った。
「解るわけないでしょ!こんなん!」
「生ける屍。」
「えっ…。今、なんて??屍って死体って事…?」
「私は、生きながらにして、死んでますって言ってんだよ!アホにも解る様に説明すると。」
ええーーーー?!
「お前も一応文系だろうが!ったく。
とにかく、そう言う事だ。
田宮はお前が思ってるより、聡明で繊細だ。
下手に荒波を立てるなよ。」
自殺願望者の文字が頭をよぎった。
そうだった…僕には心当たりがあった。
あの、久瀬と田宮の会話…。
死に…憧れる…。
胸のモヤモヤが一層僕の中で騒ぎ出した。
今…彼女は…どこにいる…?
おそらく…旧理科室!
僕は急いで職員室を後にした。
「おい!どこ行くんだ!?
一旦落ち着けよーったく、若い奴ってのは!!」
遠くで清水先生が頭を抱えて僕を呼んだが、足が勝手に向っていた。
彼女の秘密の居場所…旧理科室に。
僕は、いつものように音に注意しながら旧理科室準備室に滑り込む。
早く、田宮の姿を確認したかった。
中扉から彼女の姿を確認した。
「ほっ。生きてる。」
安心して身体の力が抜けた。
肩で息をしながら、様子を伺った。
彼女はイーゼルにスケッチブックを広げ絵を描いていた。
暑いのか、紺のベストを脱ぎ、白い解禁シャツに紺のスカートという夏っぽい格好だった。
白い解禁シャツからは薄っすらと、下着が透けて胸の膨らみが立体的に見えた。
「…おい!誰かに見られたら…って僕が見てんだろ!」
小さな声が思わず漏れた。
ピンク色…!!目のやり場に少し困った。
今更、女子の下着が透けたくらいでこんなにも自分がドキドキするなんて思わなかった。
職員室から慌てて来たせいもあって、鼓動なのか動悸なのか区別がつかないほど心臓がバクバクしていた。
「ヤバ…鼻血…出るかも。」
慌てて鼻をハンカチで覆った。
変態だな絶対…こんなん見つかったら言い訳のしようがない。
自分で自分の反応に呆れて、中扉からずり落ちるようにしゃがみ込んだ。
しばらくして、少し気持ちを落ち着けると、彼女の描くスケッチブックに目をやった。
何を描いているのか、こちらからは角度が悪くて見えない。
しかし、彼女がいつもより真剣に描いているのは確かだ。
1線1線息を止めて描いているかのようで、ひたいや首筋から汗がながれていた。
首筋の汗が解禁シャツの中央部の谷間に流れ落ちる。
…!!
下着が透けて見えるせいか、どうしても変なとこに目が行ってしまう。
くそっ。何やってんだ僕は!
僕は中扉から離れて、旧理科準備室内の小さなデスクある以前持ってきていたポットに水を入れ、お湯を沸かした。
お湯が沸くと、これもまた以前持ってきていたマグカップにコーヒーを入れた。
丸椅子に腰掛けて、前のめりになった。
「はふっ。やっと落ち着いた。」
机は中扉と同じ旧理科室の壁の方にくっつけられている。
何もない、壁をじっと見つめる。
この向こうに、彼女がいる。
ちゃんと生きてる。
コーヒーを飲んだというのに、安心感からか、少し眠くなった。
彼女がそこにいるだけで…時間の流れも…空気さえも…緩やかな気がした。
騒がしい生徒の声も、職員室の騒めきも、引っ張られるような香苗の声も聞こえない。
2人だけを感じる空間がそこにあった。
眠り込んでいたのか、もう夕方を過ぎていた。
久しぶりに熟睡した後の心地よさが広がる。
ぐっと背伸びをして、椅子から立ち上がった。
旧理科室と旧理科準備室の天井の明かりは連動している。
明かりがついているということは、まだ彼女はそこにいるはず。
僕はそおっと、中扉の小窓から旧理科室を覗く。
ちょうど、作業を終えて片付けをし始めるところのようだった。
イーゼルを畳んでカーテンの陰に、スケッチブックを棚の1番下の戸棚に入れていた。そこには何冊かの同じようなスケッチブックが数冊置いてあった。
室内の電気を消して、戸締まりをすると玄関ホールへと向って行った。
僕は、彼女の描いていたスケッチブックの中身に興味があった。
彼女の姿が完全に消えたのを確認してから旧理科室の鍵を開けて薄暗い室内に入った。
パチン。
電気をつけて、棚の方へ歩いて行った。
どうやら鍵とかは掛かっていないようだ。
辺りをキョロキョロと見渡した。
誰もいるはずがなかったのだが、他人のスケッチブックを覗くとなると多少の罪悪感が胸をよぎる。
そっとしゃがみ込み、戸棚を開けて1番手前にあるスケッチブックをゆっくりと取り出した。
さわっ。
一瞬、周りの景色が変わった感覚がした。
覆いかぶさるような深い木々の葉、囲むような茂み、色の無いはずの鉛筆画なのに鮮やかな深い緑色が目の前に浮かんだ。緑色の巨大な迷路に迷い込んだ気分になった。
「こんな特技があったんだ…。全然知らなかった。」
いや、全然知らない事だらけだ…。
僕は彼女の事を何も知らない。
好きな芸能人、好きな食べ物、好きなファッション、好きな音楽…何もかも、知らないのだ。
自分自身がこの森の迷路の中に閉じ込められている気がした。
リンクしているかのようだ。
出られなくて、出られなくて、もがいても…もがいても…。
彼女が、こんなにも遠いのが何だか淋しくてたまらなかった。
近づいたと思っても、またすぐに遠くに離れて行ってしまう彼女。
「僕は…どうしたらいいんだ?」
でも、彼女が死にたがっているというのは確かだ。
そして、それは田宮美月と彼女との関係に秘密があるんだ。
つまりは、やはりあの去年の夏の日の出来事を解明する事は、彼女に近く為に不可欠だという事だ。
彼女を死の世界から救う為にも…。
…でも…どうすればいいんだ?
スケッチブックを閉じて、天井を仰ぎ
考えを巡らすが、ループしてるだけで答えはまったく出てこなかった。
ブルルル。
携帯のバイブレーションが鳴り出した。
腰のポケットから携帯を取り出して見た。
香苗だ!
慌てて、メッセージを確認した。
「えっ…。夏休みの事で話がしたいから外食しよう…?」
夏休み…そうか、もうすぐに夏休みに入ってしまう。
夏休み…彼女は学校に来るのだろうか。
しばらく、会えなくなるのかな…。
香苗からのメッセージなのに、僕は彼女の事ばかりでこのメッセージの意味を深く考えていなかった。
この時、僕は香苗を甘く見過ぎていたのだ。
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