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1学期
魔女達の思惑
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夜7時30分に香苗と近くのステーキハウスで待ち合わせした。
香苗はタウン誌の記者をしている。
仕事柄、不定期休みと不定時上がりの為、少々会えなくなる事はもともと、お互い承知の上で付き合っていた。
だから逆に言えば、夏休みは香苗の休みに合わせるのに絶好のチャンスだったのだ。
そして、僕は香苗に言われるまで、その事を忘れていた。
ステーキハウス内は香ばしい匂いとホカホカの湯気で店内が充満して食欲を誘った。
「モッちゃん!ちゃんと聞いてる?」
「はぐっ。何だっけ?」
肉を頬張る事に夢中の僕に、ナイフとフォークを突き立てて香苗がグイグイと不平不満を吐き出してきた。
「最近ちーっとも、モッちゃんの方から連絡くれないじゃない。いっつも私から。」
「それは、そのゴメン。」
僕は素直に謝った。いつもなら、それで大概許してもらえたからだ。
でも、今回は違ったのだ。
「それどころか、返信も多くて1行よ!あり得ない!私達、付き合ってるのよね。」
「あ、うん。付き合ってる。」
「結婚前提に付き合ってるのよね!!」
「へっ?けっ、結婚!?」
清水先生の忠告が的中していたのだ。
香苗の目はいつもより、奥の方かギラついていた。
「いや、いや結婚なんてまだまだ早いよ…。」
「モッちゃん!!学校で女生徒にいい寄られてない?」
「なっ、何でそれを…!!って。」
やっちまった!香苗の罠に軽々と引っかかった。
「へえ~~。やっぱり居るんだ。」
「違う!だから…え~と、いきなりキスされただけで……。」
「キスされたぁあ??嘘でしょ。
何でそんなに気を許すのよ!」
墓穴掘っちまった!!修羅場だ!完全に失敗した!
ナイフとフォークをガンガンテーブルに叩きつける香苗は怖いくらいだった。
「気を許すも何も、いきなりで!
別にその娘に行為なんか少しも無くて!
ああもう。こっちだって迷惑してるんだ。
何なら、先輩の先生に連絡するから確認してくれよ~。」
半泣きだったと思う。女ってのは、なんて怖いんだ~~!!
「ふ~~ん。まあいいわ。
モッちゃんにその気が無いのは今のでわかったし。でも…狙われ易い事も充分わかったわ。」
「へっ?許してくれるの…?」
「夏休み、私の両親に会ってくれる?」
「あ…。」
アゴが外れるくらい口を開けてしまった。
両親に会うって…そういう…事…か?
ええええ~!無い無い!
何で僕は、いつの間にか結婚行きの急行列車に乗ってんだよ!!
しかも、今の話の流れ上、絶対に断れない状況じゃないか!!
今の僕はそれどころじゃないってのに~~!!
「わ…解りました。ははははは~。」
思考回路が完全に麻痺した。
「さっ!お肉食べましょう。」
ハメられた…。
ほくそ笑む香苗の顔が、あの魔女…田宮美月と重なって見えた。
この後の事は何一つ覚えてない。
ショックのあまり思考停止状態で翌日を迎えた。
「げっ!どうした武本、また他の奴にキスでもされたのか?」
職員室で僕は、埴輪のような呆けた顔で期末テスト後の補習者をチェックしていた。
「あ、いや、何でもないです。
プライベートでチョット。ははは。」
「こ、壊れてやがる。」
流石の清水先生がドン引きするくらいの壊れっぷりだった。
全ての者が僕の敵なんじゃないかと、自分の運命を恨んだ。
僕には味方なんていないんだ…。
ずっと前にも、こんな気持ちになった事があったっけ…あれはいつの事…?
「ああ!」
急に声を上げた僕に清水先生が驚いた。
「何だよ!叫ぶなよ。今日は終業式だぞ大丈夫か?お前、精神科行った方がいいんじゃ…。」
そんな清水先生の声は耳に入ってこなかった。
「いた…。」
味方になりそうな人物がたった1人いたのだ。
補習者リストの中の名前。
牧田銀子!
牧田なら今現在、田宮真朝の1番近くにいるじゃないか!
担任じゃないからあまり接触した事はなかったが、補習なら葉月もいない夏休み中で気楽だし。以前、牧田は田宮の為になら協力したいって言っていた。
これは、唯一のチャンスかもしれない!
香苗との事は後で考えよう。
まずは、このチャンスを逃さないようにするんだ。
僕はほんの少しの希望に心を躍らせていた。
終業式の間中、僕は1年4組の列の後ろにいる田宮を見ていた。
いや…多分清水先生いわく釘付けだった。
何度か目をそらそうとしたが、どうしても泳いだ視線は彼女で着地してしまう。
また、体調悪くなったら大変だしな。
自分自身に言い訳をした。
白い耳たぶは柔らかそうで、解禁シャツは彼女の鎖骨を美しく見せている。
首から鎖骨にかけての線を見てるだけで顔が赤くなった。
くっ、昨日の旧理科室の後遺症がぁ。
ガツ!
「つっ!」
隣で腕組みをしてる清水先生が、思い切り僕の足を踏んだ。
もう!判ってますってば!
先生の顔でしょ…先生の顔!
僕は顔の筋肉に力を入れて気合いを入れ直した。
あれ…彼女の隣の男子、え…と確か石井だっけ?んんん?
石井が退屈だったのか、彼女にちょっかいを出しているようだった。
いきなり、頭のつむじ辺りをつついて、クスクス笑いだした。
彼女は仕返しに耳たぶをグイッと引っ張った。
モヤモヤ…。
また、胸のモヤモヤがうずいた気がした。
同級生というだけで、あんなに簡単に彼女に近づく石井に悔しさを感じて唇を噛んだ。
何で僕は教師なんだ…何で僕は担任にさえなれないんだ。
何で…君は…石井に…笑いかけるんだ……。
教室に戻り、ホームルームで通知表を配布し、来学期からの大体の予定と補習の日程を報告した。
葉月が熱い視線を向けてるのを感じて、ワザと視線を合わせないようにした。
本当に、めんどくさい。
相変わらず、隣のクラスのざわめきがこちらまで響く。
ムカムカ…モヤモヤ…。
大きな溜息を吐いてホームルームを終えた。
「先生!」
教室を出てすぐ葉月に呼び止められた。
ヤバ…思い切り反応して振り返った手前、無視出来なくなった。
「田宮さんとは、どういう関係ですか?」
「関係って、別に…。…ない。」
あ、自分で言って自爆したような虚しい気持ちになった。
本当にないから困ってるんじゃないか!
「もしかして、お姉さんの美月さんが好きなんじゃ…。」
!田宮美月だとぉ~!?
「はあぁ?チョットまて、何で田宮美月が出て来るんだよ。勘弁してくれ。」
「だって、美人って有名だし、姉に近づく為に妹にって事があるかなって…だから私の事は…。」
何なんだよ。その少女漫画のような発想は!よりによって何で僕が、あの魔女の事を好きにならなきゃならないんだ。
頭痛えー。
久瀬みたいに男好きじゃないけど、ここのところ女の嫌な部分ばかり目にする。
女に減滅しそうになる。
「あのな~葉月。
僕は、教師としてこのクラスにいる。
お前を生徒以上には思う事はない。
…頼むから僕を先生でいさせてくれないか?」
なるべく、相手を傷付けないように言葉を選んだ。
「……。失礼します。」
葉月は何かを考えた後、答えずに立ち去ってしまった。
今の言葉をどう受け止めたのかわからなかったが、このまま諦めてくれればいいのだが。
僕はひとまず職員室へと向かった。
香苗はタウン誌の記者をしている。
仕事柄、不定期休みと不定時上がりの為、少々会えなくなる事はもともと、お互い承知の上で付き合っていた。
だから逆に言えば、夏休みは香苗の休みに合わせるのに絶好のチャンスだったのだ。
そして、僕は香苗に言われるまで、その事を忘れていた。
ステーキハウス内は香ばしい匂いとホカホカの湯気で店内が充満して食欲を誘った。
「モッちゃん!ちゃんと聞いてる?」
「はぐっ。何だっけ?」
肉を頬張る事に夢中の僕に、ナイフとフォークを突き立てて香苗がグイグイと不平不満を吐き出してきた。
「最近ちーっとも、モッちゃんの方から連絡くれないじゃない。いっつも私から。」
「それは、そのゴメン。」
僕は素直に謝った。いつもなら、それで大概許してもらえたからだ。
でも、今回は違ったのだ。
「それどころか、返信も多くて1行よ!あり得ない!私達、付き合ってるのよね。」
「あ、うん。付き合ってる。」
「結婚前提に付き合ってるのよね!!」
「へっ?けっ、結婚!?」
清水先生の忠告が的中していたのだ。
香苗の目はいつもより、奥の方かギラついていた。
「いや、いや結婚なんてまだまだ早いよ…。」
「モッちゃん!!学校で女生徒にいい寄られてない?」
「なっ、何でそれを…!!って。」
やっちまった!香苗の罠に軽々と引っかかった。
「へえ~~。やっぱり居るんだ。」
「違う!だから…え~と、いきなりキスされただけで……。」
「キスされたぁあ??嘘でしょ。
何でそんなに気を許すのよ!」
墓穴掘っちまった!!修羅場だ!完全に失敗した!
ナイフとフォークをガンガンテーブルに叩きつける香苗は怖いくらいだった。
「気を許すも何も、いきなりで!
別にその娘に行為なんか少しも無くて!
ああもう。こっちだって迷惑してるんだ。
何なら、先輩の先生に連絡するから確認してくれよ~。」
半泣きだったと思う。女ってのは、なんて怖いんだ~~!!
「ふ~~ん。まあいいわ。
モッちゃんにその気が無いのは今のでわかったし。でも…狙われ易い事も充分わかったわ。」
「へっ?許してくれるの…?」
「夏休み、私の両親に会ってくれる?」
「あ…。」
アゴが外れるくらい口を開けてしまった。
両親に会うって…そういう…事…か?
ええええ~!無い無い!
何で僕は、いつの間にか結婚行きの急行列車に乗ってんだよ!!
しかも、今の話の流れ上、絶対に断れない状況じゃないか!!
今の僕はそれどころじゃないってのに~~!!
「わ…解りました。ははははは~。」
思考回路が完全に麻痺した。
「さっ!お肉食べましょう。」
ハメられた…。
ほくそ笑む香苗の顔が、あの魔女…田宮美月と重なって見えた。
この後の事は何一つ覚えてない。
ショックのあまり思考停止状態で翌日を迎えた。
「げっ!どうした武本、また他の奴にキスでもされたのか?」
職員室で僕は、埴輪のような呆けた顔で期末テスト後の補習者をチェックしていた。
「あ、いや、何でもないです。
プライベートでチョット。ははは。」
「こ、壊れてやがる。」
流石の清水先生がドン引きするくらいの壊れっぷりだった。
全ての者が僕の敵なんじゃないかと、自分の運命を恨んだ。
僕には味方なんていないんだ…。
ずっと前にも、こんな気持ちになった事があったっけ…あれはいつの事…?
「ああ!」
急に声を上げた僕に清水先生が驚いた。
「何だよ!叫ぶなよ。今日は終業式だぞ大丈夫か?お前、精神科行った方がいいんじゃ…。」
そんな清水先生の声は耳に入ってこなかった。
「いた…。」
味方になりそうな人物がたった1人いたのだ。
補習者リストの中の名前。
牧田銀子!
牧田なら今現在、田宮真朝の1番近くにいるじゃないか!
担任じゃないからあまり接触した事はなかったが、補習なら葉月もいない夏休み中で気楽だし。以前、牧田は田宮の為になら協力したいって言っていた。
これは、唯一のチャンスかもしれない!
香苗との事は後で考えよう。
まずは、このチャンスを逃さないようにするんだ。
僕はほんの少しの希望に心を躍らせていた。
終業式の間中、僕は1年4組の列の後ろにいる田宮を見ていた。
いや…多分清水先生いわく釘付けだった。
何度か目をそらそうとしたが、どうしても泳いだ視線は彼女で着地してしまう。
また、体調悪くなったら大変だしな。
自分自身に言い訳をした。
白い耳たぶは柔らかそうで、解禁シャツは彼女の鎖骨を美しく見せている。
首から鎖骨にかけての線を見てるだけで顔が赤くなった。
くっ、昨日の旧理科室の後遺症がぁ。
ガツ!
「つっ!」
隣で腕組みをしてる清水先生が、思い切り僕の足を踏んだ。
もう!判ってますってば!
先生の顔でしょ…先生の顔!
僕は顔の筋肉に力を入れて気合いを入れ直した。
あれ…彼女の隣の男子、え…と確か石井だっけ?んんん?
石井が退屈だったのか、彼女にちょっかいを出しているようだった。
いきなり、頭のつむじ辺りをつついて、クスクス笑いだした。
彼女は仕返しに耳たぶをグイッと引っ張った。
モヤモヤ…。
また、胸のモヤモヤがうずいた気がした。
同級生というだけで、あんなに簡単に彼女に近づく石井に悔しさを感じて唇を噛んだ。
何で僕は教師なんだ…何で僕は担任にさえなれないんだ。
何で…君は…石井に…笑いかけるんだ……。
教室に戻り、ホームルームで通知表を配布し、来学期からの大体の予定と補習の日程を報告した。
葉月が熱い視線を向けてるのを感じて、ワザと視線を合わせないようにした。
本当に、めんどくさい。
相変わらず、隣のクラスのざわめきがこちらまで響く。
ムカムカ…モヤモヤ…。
大きな溜息を吐いてホームルームを終えた。
「先生!」
教室を出てすぐ葉月に呼び止められた。
ヤバ…思い切り反応して振り返った手前、無視出来なくなった。
「田宮さんとは、どういう関係ですか?」
「関係って、別に…。…ない。」
あ、自分で言って自爆したような虚しい気持ちになった。
本当にないから困ってるんじゃないか!
「もしかして、お姉さんの美月さんが好きなんじゃ…。」
!田宮美月だとぉ~!?
「はあぁ?チョットまて、何で田宮美月が出て来るんだよ。勘弁してくれ。」
「だって、美人って有名だし、姉に近づく為に妹にって事があるかなって…だから私の事は…。」
何なんだよ。その少女漫画のような発想は!よりによって何で僕が、あの魔女の事を好きにならなきゃならないんだ。
頭痛えー。
久瀬みたいに男好きじゃないけど、ここのところ女の嫌な部分ばかり目にする。
女に減滅しそうになる。
「あのな~葉月。
僕は、教師としてこのクラスにいる。
お前を生徒以上には思う事はない。
…頼むから僕を先生でいさせてくれないか?」
なるべく、相手を傷付けないように言葉を選んだ。
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