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夏休み
神の福音
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婚約決定の数日後、僕は清水先生の誘いで彼の自宅へ招待された。
広めだが、中古感のある二階建ての家に清水先生のワンボックスカーで辿り着いた。
気分は最悪だった。この前の婚約の夜で自己嫌悪に陥っていたのだ。
魂が抜けたかのような僕の背中を清水先生か思い切り叩いた。
バシッ!
「何、死んだ魚の目ぇしてんだよ。
婚約したばっかの奴の目じゃねぇぞ!」
「はぁ。すいません。」
「毒も出ね~か。重症だなこりゃ。」
清水先生はとりあえず、僕を家の中に案内した。
ドタドタドタ。バタバタ。
子供が5人走って来た。
「ちぃ~っす。父さんと同じ、先生?」
「なんの先生?なんの先生?」
「お父さんの弟子~?」
挨拶の前に矢継ぎ早に質問責めにあった。
どうやら清水先生の子供らしい。5人って結構すごいな。
「こらこら。挨拶だろ。いらっしゃいませは?」
「いらっしゃいませ~!」
清水先生の一声で一斉に声を上げた。
「あらあら。ようこそ、いらっしゃいませ。
豊君の妻の恵です。よろしく。」
奥から、髪を後ろで束ねて、マトリョーシカみたいな体型の女性が現れた。
女神……??
横目で清水先生を見ながら挨拶した。
「どうも。後輩の英語教師の、武本です。」
どこが女神だよー。どう見ても違うだろう。
「豊君から話を聞いていて、ぜひお話したいと思ったの。
ま、とりあえず上がって下さい。」
「はい、失礼します。」
僕は案内されるまま、居間に移動し、大きめのソファに座った。
恵さんが、お茶とお茶菓子を出してきた頃、清水先生はソファを立ち上がった。
「メグちゃん。俺、ガキ共の面倒見てくるわ。」
「えっ、ちょ…。」
「武本、うちの女神からのお言葉、ちゃーんと聞いておけよ。」
僕の顔に指を指して、そう言うと部屋を出て行ってしまった。
気まずい雰囲気の中、恵さんが口を開いた。
「そうね。武本先生はご婚約なさったとか?…で迷ってる?」
「あ…はぁ。」
「結婚って一言で言うけど、色んな形があるのよ。ウチみたいに。」
「ウチみたいにって…普通じゃないですか…見たところ。」
「あのね、豊君と私は三人で結婚したのよ。」
「はい?三人??」
「そう。三人。もう1人は神谷遥…豊君が誰よりも愛している女性よ。」
「あの…よく解らないんですが…。」
「豊君が大学生の時に…高校生の遥と…心中未遂をしたのよ。
そして、遥だけが亡くなったの。」
「清水先生が心中!?」
「遥はね、私の友達だった。
綺麗で知的で…そして死ぬ事に魅了されていた…。」
……田宮真朝と同じ!?
「豊ちゃんは塾の先生のアルバイト、で私と遥が生徒だったの。
二人がどんどん惹かれ合うのが目に見えるようだったわ。でも…。」
「でも…何ですか…!」
「遥は…この世界に絶望していたの。
自分の意思とは関係なく、汚されていく自分に我慢が出来なかったの。」
「絶望…。」
「大人だけじゃない…同級生だって…欲望の為に他人を蹴落とし…さげすむ…誰かを自分より下等とみなさなければ、生きて行けないこの世界に絶望していたの。
…汚れたくない…美しい心のままで死にたい…そう遥は願ったの。」
『私は…死に…憧れてるから…。』
田宮の言った言葉…。
そうなのか…田宮も同じなのか…??
僕は顔面蒼白になった。
胸が苦しい…。頭が痛い…。
…スベテノカンジョウヲケセバイイ…。
ボクハイナイ…ボクハイナイ…。
ボクハニンギョウ…。
「!!」
何だ?今、変な声が頭の中で…。
「豊君は遥を愛しすぎるくらいに愛していたの。
だから、遥の気持ちを受け入れた。
…でも、生き残ってしまった。
自分を見失い、全てから逃げる様にキリスト教に入ったの。」
「恵さん…あなた…それを全て受け入れたんですね。」
「私からプロポーズしたのよ。
三人で結婚しましょうって。
遥の分まで子供作って、遥の分まで幸せになって、二人で遥の事思い出せる様にって。」
ああ…女神だ…!本当に…この人は清水先生にとって女神なんだ。
恵さんの後ろに後光が見えた気がした。
「今、豊君のクラスに、遥に似たタイプの生徒さんがいるみたい。
彼、悩んでたわ。
今度こそ助けたいって。」
「清水先生…!!」
僕は涙を押さえられなかった。
そして、清水先生を深く尊敬していた。
恵さんと話し終えた後で、僕は清水先生の車で送ってもらった。
「武本、死に近い人間は本能的に同類を引き寄せる…。
相哀れむようにな。」
車の中で清水先生は呟く様に語った。
「田宮を見た時…遥と同じ匂いがした。
同じ人種だと感じた。
唯一違ってたのは、田宮自身…自分が同類を惹きつける事にすでに気が付いているって事だ。
俺は、1度死んだからな…死に近い人間が判っちまう。面倒な事にな。」
「……。」
何も言葉が出なかった。
「俺は…お前には…田宮に近づいて欲しくない。」
「えっ?ああ、教師と先生だからですか?」
「…はああ。自分に鈍感ってどう言う事だよ…まったく。
お前に初めて会った時…田宮と同じ感覚がしたんだよ。」
「えっ…まさか…。」
僕が…田宮と…?僕が…死に…近い…??
「俺には毒撒いて、周りを否定して、かなりストレスあるように見えたけどな。」
「…解りません。」
本当に解らなかった。自分の事なのに。
「俺は生徒を好きになる事は否定しない。
それが本気ならな。
…でも、生半可な気持ちで俺の生徒に手を出す事は認めないからな。」
「僕は…結婚するんです…婚約者と…。」
「そっか。」
清水先生はそれ以上何も言わなかった。
僕は何も考えたくなかった。
…カンガエナクテイインダ…
……マワリガスベテ、キメテクレル…
…ボクハ…カンガエナイ…
また、あの変な声が頭の中で響いた。
そして、無性に田宮の側にいられない僕は孤独感を感じていた。
田宮真朝…君との時間の中で眠りたい…。
広めだが、中古感のある二階建ての家に清水先生のワンボックスカーで辿り着いた。
気分は最悪だった。この前の婚約の夜で自己嫌悪に陥っていたのだ。
魂が抜けたかのような僕の背中を清水先生か思い切り叩いた。
バシッ!
「何、死んだ魚の目ぇしてんだよ。
婚約したばっかの奴の目じゃねぇぞ!」
「はぁ。すいません。」
「毒も出ね~か。重症だなこりゃ。」
清水先生はとりあえず、僕を家の中に案内した。
ドタドタドタ。バタバタ。
子供が5人走って来た。
「ちぃ~っす。父さんと同じ、先生?」
「なんの先生?なんの先生?」
「お父さんの弟子~?」
挨拶の前に矢継ぎ早に質問責めにあった。
どうやら清水先生の子供らしい。5人って結構すごいな。
「こらこら。挨拶だろ。いらっしゃいませは?」
「いらっしゃいませ~!」
清水先生の一声で一斉に声を上げた。
「あらあら。ようこそ、いらっしゃいませ。
豊君の妻の恵です。よろしく。」
奥から、髪を後ろで束ねて、マトリョーシカみたいな体型の女性が現れた。
女神……??
横目で清水先生を見ながら挨拶した。
「どうも。後輩の英語教師の、武本です。」
どこが女神だよー。どう見ても違うだろう。
「豊君から話を聞いていて、ぜひお話したいと思ったの。
ま、とりあえず上がって下さい。」
「はい、失礼します。」
僕は案内されるまま、居間に移動し、大きめのソファに座った。
恵さんが、お茶とお茶菓子を出してきた頃、清水先生はソファを立ち上がった。
「メグちゃん。俺、ガキ共の面倒見てくるわ。」
「えっ、ちょ…。」
「武本、うちの女神からのお言葉、ちゃーんと聞いておけよ。」
僕の顔に指を指して、そう言うと部屋を出て行ってしまった。
気まずい雰囲気の中、恵さんが口を開いた。
「そうね。武本先生はご婚約なさったとか?…で迷ってる?」
「あ…はぁ。」
「結婚って一言で言うけど、色んな形があるのよ。ウチみたいに。」
「ウチみたいにって…普通じゃないですか…見たところ。」
「あのね、豊君と私は三人で結婚したのよ。」
「はい?三人??」
「そう。三人。もう1人は神谷遥…豊君が誰よりも愛している女性よ。」
「あの…よく解らないんですが…。」
「豊君が大学生の時に…高校生の遥と…心中未遂をしたのよ。
そして、遥だけが亡くなったの。」
「清水先生が心中!?」
「遥はね、私の友達だった。
綺麗で知的で…そして死ぬ事に魅了されていた…。」
……田宮真朝と同じ!?
「豊ちゃんは塾の先生のアルバイト、で私と遥が生徒だったの。
二人がどんどん惹かれ合うのが目に見えるようだったわ。でも…。」
「でも…何ですか…!」
「遥は…この世界に絶望していたの。
自分の意思とは関係なく、汚されていく自分に我慢が出来なかったの。」
「絶望…。」
「大人だけじゃない…同級生だって…欲望の為に他人を蹴落とし…さげすむ…誰かを自分より下等とみなさなければ、生きて行けないこの世界に絶望していたの。
…汚れたくない…美しい心のままで死にたい…そう遥は願ったの。」
『私は…死に…憧れてるから…。』
田宮の言った言葉…。
そうなのか…田宮も同じなのか…??
僕は顔面蒼白になった。
胸が苦しい…。頭が痛い…。
…スベテノカンジョウヲケセバイイ…。
ボクハイナイ…ボクハイナイ…。
ボクハニンギョウ…。
「!!」
何だ?今、変な声が頭の中で…。
「豊君は遥を愛しすぎるくらいに愛していたの。
だから、遥の気持ちを受け入れた。
…でも、生き残ってしまった。
自分を見失い、全てから逃げる様にキリスト教に入ったの。」
「恵さん…あなた…それを全て受け入れたんですね。」
「私からプロポーズしたのよ。
三人で結婚しましょうって。
遥の分まで子供作って、遥の分まで幸せになって、二人で遥の事思い出せる様にって。」
ああ…女神だ…!本当に…この人は清水先生にとって女神なんだ。
恵さんの後ろに後光が見えた気がした。
「今、豊君のクラスに、遥に似たタイプの生徒さんがいるみたい。
彼、悩んでたわ。
今度こそ助けたいって。」
「清水先生…!!」
僕は涙を押さえられなかった。
そして、清水先生を深く尊敬していた。
恵さんと話し終えた後で、僕は清水先生の車で送ってもらった。
「武本、死に近い人間は本能的に同類を引き寄せる…。
相哀れむようにな。」
車の中で清水先生は呟く様に語った。
「田宮を見た時…遥と同じ匂いがした。
同じ人種だと感じた。
唯一違ってたのは、田宮自身…自分が同類を惹きつける事にすでに気が付いているって事だ。
俺は、1度死んだからな…死に近い人間が判っちまう。面倒な事にな。」
「……。」
何も言葉が出なかった。
「俺は…お前には…田宮に近づいて欲しくない。」
「えっ?ああ、教師と先生だからですか?」
「…はああ。自分に鈍感ってどう言う事だよ…まったく。
お前に初めて会った時…田宮と同じ感覚がしたんだよ。」
「えっ…まさか…。」
僕が…田宮と…?僕が…死に…近い…??
「俺には毒撒いて、周りを否定して、かなりストレスあるように見えたけどな。」
「…解りません。」
本当に解らなかった。自分の事なのに。
「俺は生徒を好きになる事は否定しない。
それが本気ならな。
…でも、生半可な気持ちで俺の生徒に手を出す事は認めないからな。」
「僕は…結婚するんです…婚約者と…。」
「そっか。」
清水先生はそれ以上何も言わなかった。
僕は何も考えたくなかった。
…カンガエナクテイインダ…
……マワリガスベテ、キメテクレル…
…ボクハ…カンガエナイ…
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そして、無性に田宮の側にいられない僕は孤独感を感じていた。
田宮真朝…君との時間の中で眠りたい…。
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