手の届かない君に。

平塚冴子

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夏休み

道化師の策略その1

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「…で、やっぱりお前か…。久瀬!!」
8月の終わりに、石井を含め男だらけ五人の映像研究部に付き合わされた僕の前にミニバスが止まり、久瀬が現れた。

「ヤッホー。だってさー、武本っちゃん、折角の合宿に熱出しちゃうんだもん。
2学期からはウチの学校のコート使用可能になっちゃうじゃん。
会えなくなって寂しいでしょ!」
「そういう話じゃねーだろ!
そもそも、テニス部だろ映像研究部関係ねーだろ。
学校違うし!何で出てくんだよ。」
「やだなあ、大人気なく怒んないでよ。
こっちだって頼まれたんだからね。
映像研究部の石井くんに。
田宮…経由でね。断れないっしょ。」
久瀬はグイっと顔を近づけて言った。
「田宮…経由?」
「そう!田宮経由!で仕方なく出演OKする代わりに、コッチの条件飲んでもらったんだよね。
病院経営者の息子の権力も使えて、資金援助だってできるしね。
映像研究部としては、いい事ずくめ!」
近づきすぎる久瀬を引き剥がしてると、見兼ねた映像研究部の顧問で、美術教師のロバート高橋先生が金髪の長髪を揺らしながら声を掛けた。
「すいません。武本先生。
ウチは部費も少ないし、役者もいないからね。
久瀬君が出演OKしてくれる上に、撮影場所の手配から宿泊、送迎全て協力してくれるって申し出てくれまして。
…まあ、武本先生が生贄になってくれたお陰です。
感謝してます。クククッ。」
「ロバート先生!生贄って!後輩を何だと思ってんですか?」
小柄できゃしゃな肩を揺らしながら、ロバート先生は笑っていた。
くそっ!ロバめ!

「まぁ、そう言うなって、武本っちゃんの特典はちゃんと付けといたから。」
「特典だと…?」
「決まってんじゃん…田宮…との…一…夜…。」
耳元で久瀬が囁いた。
「ばっ…!ばっかじゃねーのお前!!
僕は正式に婚約したんだ!
別に田宮の事は…!」
「へぇ。そうなんだ。
…まっそれはそれとして、途中で田宮と主演女優を乗せるから。
私服姿もバッチリだぜ。」
田宮の私服姿…!!うっ…見たくないと言えば…嘘になる…。
普段は制服かジャージだもんな。
私服姿って…。
カジュアルかな、可愛い系?清楚な感じとか。
「武本っちゃん。妄想中悪いけど、そろそろバス出るから乗って。」
「妄想なんか!」
…してたよ!完全に!久瀬のヤロー!
僕は熱くなった顔を仰ぎながら前の席に座った。

バスは学校を出て商店街を通り過ぎ、駅前に止まった。
バスのクラクションがなり、手前に立っていた2人が振り向いた。
1人は渋谷にいそうな、ツインテールの頭に派手な身なりの牧田銀子。
もう1人は白のバレッタで髪を留めて、白の膝丈のフレアワンピースを着ていた田宮真朝。
清楚な私服は白い肌にとても似合っていた。
想像通りだ…。
僕はホッとしながら彼女に見とれていた。
バスの扉が開き、ステップを上がって来た2人に後ろの男共は大はしゃぎだ。
おいおい、狼の群れってやつかよ!?
教師2人もいるから大丈夫だとは思うが…。
いや、ロバは何となく、ひ弱で頼りない。
僕が気を張らなくちゃ。
「武ちゃんだー!テニス部いいの?」
「あっ、武本先生?どうして…。」
バスに乗り込んだ2人は僕に気づいた。
そりゃそうだ。部外者も部外者って感じだからなぁ僕は。
「久瀬に強制的に参加させられたんだ。」
ちょっとぶっきらぼうに答えた。
「久瀬君に…。私のせいですね。
ご迷惑かけてしまって、すみません。
折角の休みなのに。」
彼女の言葉は優しく、僕に気をつかったものだった。
…けど、そんなよそよそしい態度に、無性に腹が立った。
「別に、田宮に謝られてもな。」
思わず、冷たい言葉を発してしまった。
バカ~~僕のバカ!!なんてガキっぽい反応してんだよ~~。
「武ちゃん、すねてんの~?可愛いい~。
あははは。」
牧田が鋭く突っ込んだ。
「あのなー!!」
さらにムキになってしまった。
そこへ、久瀬が間に入って来た。

「おっつー。田宮。
武本っちゃん、マリッジブルーだから気にしないで。」
「!」
久瀬のやつ!なんで今ここで!
「マリッジブルー?武ちゃん結婚するの?」
「婚約したんだってよ、いつ結婚するかは聞いてないけど。ねっ武本っちゃん。」
悪意のある笑みで言い放った。
田宮は…彼女の…反応は…?
「…おめでとうございます。
幸せそうですね。」
カチン!何だろ…すっごく腹の立つ反応だった。
「幸せかどうかは関係ない!僕は…!」
「あー。それよりさぁ。
先に席に座らない?バス出ちゃうから。
話しは後でねっ。武本っちゃん。」
久瀬が僕の顔を押さえた。
牧田と田宮は通路を挟んで、僕と反対側の座席に並んで座った。

久瀬は僕の隣に座り、耳打ちした。
「ダメだなぁ。武本っちゃんガキじゃないんだから、恋愛にはテクニックが必要だよ。
そんな感情表に出しちゃ…焦らすくらいでないと。」
僕は反論出来なかった。
でも、田宮を目の前にすると、気持ちのコントロールが出来なくなる。
イライラしてくる…。
僕が婚約したって、彼女には何も問題はないんだ。
当たり前だ…判ってる。
僕だって…彼女に…恋なんか…してる…訳じゃないんだから。

「ねぇねぇ、あなたが噂のイケメンさん?うーむ。」
隣の席に座っていた牧田が久瀬に話し掛ける。
「よく言われます。ははは。」
「タイプじゃないわー。
しかもぉ~銀子には判る…あなた…おホモ君でしょう!」
「お…ホモって。」
「ぷはっ。おホモってあははは。」
僕はこの時とばかりに久瀬に指差して笑った。
「ふふふふっ。」
あ…田宮が笑った。
「当たりでしょう!銀子ちやんには恋のアンテナがついてるの!」
「あー、判った判った。正解だよ。
ちなみにタイプは武本っちゃん。
狙ってんだけどなー。」
「狙うなよ!勘弁してくれ!
僕はノーマルだ!」
「ふふっあははは。」
田宮のツボにはまったらしく珍しく笑い続けた。
可愛い…笑顔が…。
唇を少しだけ開けて、恥じらいながら笑う彼女は僕を陶酔させた。
「銀子ちやんの思う、いい男ってのはぁ、包容力があって、優しくしてくれるのを言うのだ!イケメンでもそれをクリアしなきゃだわよ。
おホモは論外。」
「いや~。牧田は本当に見かけよりも全然いい奴だな。
僕のタイプじゃないけど。」
「武ちゃんの言葉には愛を感じないのよねー。
嬉しくない!じゃあ、武ちゃんのタイプって?」
「えぇ。」
調子に乗って墓穴を掘った。
久瀬がニヤリと含み笑いをした。
「俺も聞きたいなぁ。
ライバルになるかもしんないし。」
わざと乗せてきた!さっきの仕返しか??
僕の視線は田宮へ向いた。
「その…繊細で…でも…強くて…優しくて…その…側に居てやりたくなるような感じかなぁ。」
久瀬が肩でクスクス笑い出した。
…田宮そのままのイメージだった。
くそーお前が言わせたんだろうが!
僕は恥ずかしさでいっぱいになった。
「まーさはぁ?どんなのがタイプ?」
牧田が切り返した。
僕は何故か緊張した。ゴクリと唾を飲み込んで彼女を見た。
「そうね。困ったなぁ。
好きになるって気持ちがわからないけど
…きっと、いつの間にか、この人の為に全てを差し出せる気持ちが持てたなら…好きって事なのかもね。」
「銀子わっかんなーい。」
「ごめんね。」

彼女に認められる男じゃなきゃ…男として見てもらえないのかな…。
認められたら…受け入れて…もらえるのかなぁ…。

「武本っちゃん!すっごくエロい顔してるよん。興奮しちゃうじゃん!」
いつの間にか、久瀬が携帯で僕の顔を録画していた。
「エロいっ…て!違うっ…僕は!」
ヨダレ…出てたのかな?慌てて口元を袖で拭いた。
「そーだ。エロいと言えば後ろにいる童貞君達の為に、大人の武本っちゃんのエッチテクニック教えてあげなよ~。
婚約者とはヤッてんでしょ。
モチロン、あんな事やこんな事。」
「なっ!」
久瀬!お前!何企んでんだー!!
「いっ、言える訳ないだろ!そんなの…。」
彼女の前でそんな話しできる訳ないだろ!
…しかも、僕は彼女を想像しながら香苗を抱いた…。
彼女の方を向く事さえ出来ないくらいの恥ずかしさで耳まで赤くなった。
「えーおれも聞きたいです先生!」
「俺も!俺も!」
後ろの男子生徒が興奮気味に騒ぎだす。
久瀬の目的は何なんだよ!
僕に恥をかかせたいのか?
「黙れ!ンなの個人差があるだろ!
自分で経験して学べ!童貞共!!」
半ギレで男子を一喝した。

ガシッと久瀬が僕の肩を組んで、コソコソ言い放った。
「武本っちゃんさぁ。まったく、お子様だな。
男を意識させなきゃ…!」
「はぁ?どういう…。」
「田宮にとって、あんたは教師っていうだけ!
だけなんだよ!」
うっ。胸にグサグサくる。
「先生もオトコだって…感じさせなきゃ。
1人の大人の男ってね。」
「久瀬…おま…!」
「先生のままじゃ、先へは進めないだろ。」
「先って…進んじゃダメだろ!そこは!」
「ふ~~ん。本気で、そう思ってる?」
「……!!」
久瀬はふふんと鼻をならし、僕を上目遣いで見ていた。

やっぱり、こいつ…ヤバイ奴だ!
僕はこのイベントに一抹の不安を感じた。
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