手の届かない君に。

平塚冴子

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夏休み

道化師の策略その3

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撮影も夜には終わった。
宴会場での食事は皆んな浴衣姿だった。
僕は料理に手が伸びなかった。
そんな心境じゃなかったのだ。
彼女は髪をアップしてうなじをさらけ出している。
風呂上がりの火照った身体も、浴衣の胸元も…。
イライラしていた。
彼女のそんな姿を他の男が見てると思うだけで…おかしくなりそうだ。
僕は…こんなに…嫉妬深かったっけ?
苦しい…この場に居たくない!
「武本っちゃん、疲れたの??さあ~、これでも飲んで。」
「ああ。」
久瀬が差し出した飲み物を無造作に口にいれた。
「!!ぶっ!これっ!テキーラっゴホッ!」
「当ったりぃー!」
ヤバイ!空きっ腹にこんなん呑んだら、悪酔いする…。
身体から力が抜けた。
久瀬はその後も意識半分の僕に、ガンガン酒を呑ませた。
「久瀬君、武本先生に呑ませすぎじゃない?」
彼女の声…僕を覗き込む。
石鹸の匂い…。
「大丈夫ですか?」
浴衣の、胸元から谷間が…見えた。
一気に酒が回った!
「…田宮…行くぞ。」
僕は勢いよく彼女の手を引き、宴会場を飛び出した。
「あっれ~。まーさどこ行ったの?」
「悪酔いした、武本っちゃんを介抱しに行っただけだよ。銀子ちゃん。」
僕はまんまと、久瀬の策略に乗ってしまったのだ。

「先生…どこ行くんですか?大丈夫ですか?」
僕は田宮を連れて、旅館の外に出た。
満月で夜でも比較的明るい空だった。
小さな川を渡す橋の上で足を止めた。
酒のせいで目の前がグルグルと回り出す。
欄干の上でうつ伏せになった。
「先生…。」
心配そうな声で囁き、白い手で僕の背中をさする。
「た~みやはぁ、僕の婚約者がぁ、どんな女か気にならないんだよな~~。」
「素敵な人なんでしょ?」
「ソレ!腹立つなーもう!…。
当たり前の返事しか返って来ない。」
「ごめんなさい。」
「…謝るなよ~!僕が勝手に怒ってるんだ。
いつも…いつも…。」
「先生、呑み過ぎです。帰りましょう。」
「やだ!…やだここにいる。」
「子供みたい。じゃあ、後10分したら帰りましょう。
それまで、満月と星を見上げて待ってますから。」

彼女は首すじを伸ばし空を仰いだ。
月明かりで、その浴衣姿が妖艶で…刺激的で…魅力的だった。
このままいたいんだ。このまま…。
「先生、帰りましょう。」
「…やだ。このままがいい。」
だだっ子のように、わがままを言う僕に田宮は困った様子だ。
「先生、どうしたら一緒に帰ってくれますか?」
「…キスを…田宮からキスしてくれたら…。」
酔った勢いで、思わず口走ってしまった。
甘えてしまった。意地悪だった…出来ないと思ったから…。

「………………!!」
彼女の柔らかく小さな蕾のような唇か、優しく僕の唇に触れた…。
僕の浴衣の袖を掴む手が少し震えていた。
「先生…。」
酔いが一気に冷めた…が!
…理性が同時にぶっ飛んだ!!
「田宮!…田宮!!」
僕は離れた唇を追うように、彼女の首と腰に手を回した。
「きゃ、先…ん。」
「ん…。」
そして、舌を絡ませる…激しい大人のキスをしてしまった。
…田宮…田宮…真朝…ま…。

ゴオオン!!
頭の上で衝撃が走り、僕は気を失った。
「ごめん。フライパンしかなくて。
…だってここで止めないと、犯罪者とか淫行教師になっちゃうだろ。
酔った勢いでーなぁんてさ。」
「久瀬君。」
「まっ、ヘタレ武本っちゃんにしては、よく出来ましたかな?
後は俺が部屋に運んでおくからさ。
田宮も部屋に戻れよ。」


頭がガンガンする…ズキズキも…。
昨日…何があったっけ…昨日…!!
「やっちまった!!とうとう!くそっ!」
思い出すだけで、口の中に彼女の感触が広がる…。
甘くて…とろけそうな口づけ。
それ以降は憶えてない。
ヤッて…ない…よな…。たぶん…。
そういえば、どうやって部屋まで戻ったんだっけ。

「んん?この部屋…、あの荷物は…。」
げっ!久瀬の部屋!?
まさか…おい!?
バタン!!
「おっは~。武本っちゃん!いい夢見れたかな?」
久瀬が勢いよく、上機嫌で入ってきた。
「久瀬…お前…なんで、僕がここに!?」
「ああ、心配しないで。
フライパンが空から降ってきて、武本っちゃんが倒れたのを、ここに運んで寝かせただけだから。
俺は武本っちゃんの代わりに、ロバ君の部屋に行っただけ。」
「フライパンー!?久瀬!お前~~。って…。」
どおりで頭の後ろがズキズキと…ん?。
見られてた!!久瀬に…あのキスを…!?
恥ずかしさが込み上げてきた。

「あ~~んな熱いキス見ちゃったらさ…俺も身体がうずいちゃった。
気絶してる武本っちゃん襲うのもなんだし、結局ロバート先生を食べちゃった。テヘッ。」
「はぁ?」
ええええ~~!!
ウチの30歳のロバが16歳のオオカミに食べられた!!

何考えてんだ…こいつ!
「お前!ふざけすぎだ!安東部長にチクるぞ!」
「武本っちゃんさぁ。
婚約者を抱く時、田宮を想像して抱いてんだろ。」
「うっ。お前には関係ない…。」
「別に軽蔑しないよ。
女ならそういうの理解出来ないだろうけど。
男はさあ、溜まっちゃうからさ、どっかで出さないと苦しいんだよな。
本当なら好きな人としたいのは当たり前だけど、出来ない事の方が多いだろ。
どっかで出さないと、想いが爆発しちまうからさ。」
久瀬は肘をつきながら笑顔て言った。
「…ありがとう…昨夜は行き過ぎた僕を…止めてくれたんだよな。」
「酔った勢いで…なんて、後味悪いでしょ。
犯罪だしね。
まっ、お互い厄介な恋愛してますね~。
俺ら。
でも、自分の気持ちは理解しといた方がいいよ。辛いけどさ。」
久瀬がいい奴なのは解った。
安東部長には真剣に恋をしてる事も。
ふざけた道化師の仮面の下はきっと…泣いてるんだ…誰にも理解されない…切ない想いを胸に。

…田宮にどんな顔を見せればいい?
彼女は僕を軽蔑しただろうか?
それとも…僕の気持ちを理解しただろうか?
彼女に会うのが…怖い…。

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