手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

魅惑の勉強会

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翌日、僕は打ちのめされた状態で旧理科準備室に向かった。
人骨模型のモモちゃんから白衣を取り、頭から被ってクマのクッションに顔を埋めた。
香苗はなぜあそこまで…意地を張ってるだけなのか…。
何もかも、上手くいかない。
田宮美月も、香苗も僕の話しなんかに聞く耳を持たない。
清水先生だって…。
僕の声が聞こえない。
誰にも僕の声が届かない。
田宮…君にも…届かない。
「田宮…君に…僕の話を聞いて…もらいたいんだ…。」
涙が自然と溢れ落ちた。

その日の1時限目はよりによって1年4組の授業だった。
僕は気力がなかったので、矢口に試しに教壇に立たせた。
端っこで椅子に座り、窓の外を眺めた。
ふと、視線を感じた。
「えっ…。」
田宮が困惑した表情で僕を見ていた。
いや、見つめていた。
えっ…何で…そんなに。
僕は少し恥ずかしくなった。

授業終了後、職員室へ戻ろうとする僕の腕を掴んで、田宮が声をかけた。
「先生…お願いがあります。」
「えっ…。」
田宮からお願いって…。
しかも、僕の腕を…掴んだ。
「文化祭が終わったら、中間テストですよね。
銀ちゃんが補習しなくて済むように…勉強会をしたいの。協力して下さい。」
「あ、ああ。確かに。牧田は、やばいが…。」
「じゃあ、今日の放課後に。」
艶やかな唇で言った。
「今日…。判った。」
僕の腕を強く握った田宮の表情が、とても優しかった。
そして、スルリと腕から手を離した。
でも…どうしたんだ急に…。勉強会…?

職員室に戻ると、清水先生が僕の顔を覗き混んだ。
「何すか…もう。」
「いや…。別に。」
イジってくるのかと思いきや、何やら深く考え出した。
勉強会か…そういえば…久瀬が言っていたのも、勉強会だった気が…。
まさか…それと同じ?まさかな。
深く考えるのはよそう。僕の頭はすでに昨日の一件でキャパオーバーだし。
彼女と近くで、話せるだけでいい。
早く放課後にならないかな…。
僕の胸は高鳴っていた。

放課後、僕はすり寄ってくる葉月をかわし、1年4組の教室に行った。
「あ!武ちゃん。」
牧田よりも僕の視線は田宮に向かっていた。
「ありがとうございます。先生。
でも、ここじゃ文化祭の道具もあるので…。」
「せ、生徒指導室が使えるから、そこで。」
「はい。じゃあ銀ちゃん行きましょう。」
僕の視線は田宮だけを見ていた。
話してる。普通に会話してる。
ケンカ腰じゃなくて。

生徒指導室に入って、僕は田宮と牧田の正面に座り、牧田に勉強を教えた。
「私もついでに、質問しちゃおうかな。」
彼女が僕に、はにかんだ笑顔を見せる。
「あ、もちろん…。」
僕の心臓は爆破しそうなくらいに激しく動いていた。
机が狭いお掛けで膝もたまに触れていた。
このまま、彼女を見ていたい。
ものの10分もしないうちに牧田が飽きてきた。
「あ~つまんない~。」
「つまんないってな。牧田、このままじゃまた赤点、補習だぞ。」
彼女は牧田の態度を見て、提案してきた。
「じゃあ、少しだけ雑談でもしようか。
気分転換に。
いいでしょ。先生。」
「あ、ああ。そうだな…。」
雑談…!って話しだよな。
勉強以外の…。嘘だろ。
なんなんだ、この急展開は。
僕は、顔が緩みそうなのを必死で堪えた。
「にしししぃ。」
牧田がまた恋愛アンテナを発動させていた。
下手な動きをしないように、教師の顔を意識しなければ…。

「そうね~。銀ちゃんは宇宙人っていると思う?」
はああ?コケそうになった。
何だよいきなり宇宙人って!
「う~ん。いるよ!オバケもお、宇宙人もお。楽しいじゃん。」
「おい!おい!楽しいだけで、そんなんいたら迷惑だ!」
いつもの癖で、つい突っ込んでしまった。
「じゃあ、先生は宇宙人はいないって思ってるんですね。?」
「いや…、そういう訳じゃ。
ほら、水とか酸素とか地球と同じ環境の惑星にならいるんじゃないかな…と。」
僕の意見を言い終わらないうちに、彼女は
机の上に肘を立て、手を組み、顎をのせて僕の方に顔を近づけた。

「それも、判りますが。その意見。
自分勝手な独りよがりな意見とも、とれます。」
「へっ?普通だと思うけど…。」
うわぁ…。顔が近い…!!
「普通って、それ地球上でに限った条件を全宇宙に当てはめてるだけですよね。」
「何が言いたい?」
「全宇宙の星の中のたった一つの星の生命誕生の条件を、普通だなんて、おかしくありません?」
「つまり、地球の方が普通でないと?」
「可能性を言ったまでですが…。誰かの普通が自分の普通と同じだなんておごり以外の何者でもないと…。
普通と言いたいのならば全ての根源と知識を得るべきではないのかなぁ。
なんてね。極論ですけど。」
優しく、ゆっくりと諭すような言葉で彼女は話した。
「わかんないけどぉ…。やっぱり宇宙人はいるって事?」
「そうね。私達が、それを宇宙人と認識できるかどうかは別としてね。
銀ちゃんの言う通り、いろんな宇宙人がいた方が楽しいでしょ。ふふふ。」
なるほど…って、何の話ししてんだ?この面子で…。

あれ…でも…この話しって…なんか…。
もしかして…僕を…元気づけてる…??
まさかな…そんな事…だって、田宮は昨日の事を知らないのだから…。
「さてと、もう少し勉強しましょう。」
「あ~~い。」
僕らは頭を切り替えて、再び牧田の為の勉強を始めた。
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