手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

白魔女と牧師の会話

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清水先生は、テラスの白いイスに腰掛けて腕組みをしていた。
彼女は清水先生に背中を向けて、テラスに咲いた花を観ていた。
「田宮、お前…武本にどんな魔法使ったんだ?」
「魔法だなんて…何も。」
「ったく、どんだけスキル高ぇんだよ。
田宮美月は黒魔法のスキル高いし、お前は白魔法のスキル高いって。
大魔女の娘って事か?」
「ふふっ。清水先生、上手い事言いますね。」
僕には全然、話しが見えなかった。
スキル?魔法?魔女っ子か?おいおい。

「で、白魔女さんから見て、武本はまだヤバイのか?」
「さぁ。でも…。武本先生は…いつも1人で泣いてるから…。」
えっ…泣いてる?いつも?僕が?
田宮にはそう見えてるって事か…。
「あいつは、異常な位の普通だ。
俺しかその事に気が付かないと思ってた。
…田宮、お前があいつの異常さに気が付いたのはいつからだ?」
ちょっと待て、僕が…異常!?
「異常だなんて…ただ…危険だと…。感覚の問題です。」
「感覚ね~。同類って事か?」
清水先生は顎手を当てて、ため息混じりに言った。

「磁石って、同じ極に反発するでしょ。
入学式の時…すれ違った瞬間に…身体中に電気が走りました。
そして…この人は危険だと…。どういう意味の危険かは、解りません。私にとって危険なのか…武本先生にとって私が危険なのか…。」
「入学式って。ンな前から…。
なぁ。田宮、正直、俺は牧師のスキルは高くない。2人同時に助け出す自信はねぇ。」
「…解ってます。
もう、武本先生には近づきません。
元々、そのつもりでしたから。」
…元々?わざと僕を遠ざけてた?何で…。
しかも…これから…は…。
「そっか。悪いな…。」
何なんだよ。
清水先生の言う事を聞いて、僕から遠ざかるって言うのか?
何でそこまで、されなきゃならないんだ?
僕が異常…?僕は普通だろどう見ても!!
こんな意味の判らない事で、僕から離れてしまうのか?
田宮はそれを了解するのか…?
僕は混乱した頭を抱えながら、その場を離れた。

いつ、学校を出たのか覚えいない。
気が付いたら雨の中を歩いていた。
「雨なんか…嫌いだ…。」
天を仰ぎ、呟いた。
捕まえられそうになると、すぐに手をすり抜けてしまう。
「僕じゃ…ダメなのか…田宮…。」
僕は雨の中で泣き崩れた。
清水先生の嫌われる方が…相手の記憶に残る…って言葉を思い出していた。

…ダカラ、イッタジヤナイカ…
…マワリニアワセロ…ボクハ…イナイ…。
…ボクノコエハ、トドカナイ…。

帰宅後から日曜日まで引きこもりの中2状態で、布団に包まっていた。
何も考えたくなかった。
何も行動したくなかった。
「モッちゃん…このハンカチ…。もしかして…。」
洗濯物を畳んでいた香苗が、田宮のハンカチを差し出した。
「あ…。」
僕は布団から腕だけ出すとハンカチを受け取った。
「それ…例の女子高生の?」
「……。」
僕は答えなかった。
ただ、そのハンカチを見つめた。
田宮に返さなきゃ…。
どういう顔で返したらいいんだ?
ハンカチを見てるだけで、胸が更に苦しくなった。
「…その娘、どんな感じの女子高生なの?」
香苗が聞いてきた。
「…答えたくない。」
「そっか。」
香苗が側にいるのに、僕は自分の事で手一杯だった。
僕は今心から…田宮の側で眠りたかった。
ずっと…ずっと…眠り続けていたかった。
あの、2人だけの空間が恋しくて…恋しくて…たまらなかった。

翌朝、いつもと同じ早朝に家を出た。
ただスタイルはいつもと全く違う物に変えた。
オールバックに黒縁のメガネ、黒いスーツに紺のネクタイ水色のワイシャツ。
強気でいないと立つ事すら出来ない気がしたのだ。
僕は、旧理科準備室へは行かず、生徒玄関で田宮を待った。
7時過ぎ、彼女がやって来た。
すぐに僕に気がついた。
まだ結わえていない髪をかきあげ、僕に挨拶した。
「おはようございます。」
「おはよう。田宮、これ、返すよ。」
「ああ、ハンカチ…。いい香り…。
婚約者の方が付けてくれたんですね。
お礼を言っておいて下さい。」
「そうだな。」
僕はハンカチを返すと、目も合わさずに職員室へと向かった。
彼女もそのまま振り返らず、旧理科室へと消えて行った。

僕は…冷たく硬い教師の仮面を被る事に決めたのだ。
そのおかげで、彼女を目の前にしても顔色が変わる事はなかった。
やっていける…このまま。
このまま、この仮面を付けていれば何があっても平気なのだ。
平気だ…これが日常になれば。
きっと何もかもが上手く行く。
僕は…僕自身に言い訳し続けた。

…ボクハイナイ…。
…ボクノコエハトドカナイ…。
…ボクハ…キエテ…シマイタイ…。
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