手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

牧師の誤算

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午後7時30分、僕は清水先生と一緒に学校を出た。10月に入るとさすがに夜は少し冷えるのでトレンチコートを羽織った。
「お前、そういえば良く白衣着てるが寒がりか?」
「どっちかというと、寒がりですよ。
でも、白衣は学生時代からの癖みたいなもので、着てると落ち着くんですよ。」
「ふーん。」
「今日は僕と…まさかサシで呑むつもりですか?」
「岸を呼んであるよ。お前も話したいんだろ。」
「あ、はぁ。」
なんだかんだ言って、やっぱり清水先生は僕をちゃんと見てる…。
僕はこっそり携帯を見た。
よかった。田宮は無事に家に着いた様だ。
GPSを確認すると、携帯をしまった。
「何だ?メールか?」
「いえ、大した用事ではないので。」
さすがに、コレはバレたら清水先生に怒られる。

僕らは店に着くと先に岸先生が待っていた。
指定の個室に入って驚いた。
佐藤 ゆかりが座っていたのだ。
「今晩は。清水先生、武本先生。」
「あ…。」
「早く座れ!」
清水先生に押され、席に着いた。
佐藤 ゆかりが来るとまでは予想してなかった。
「佐藤と岸は未成年と車の運転があるから、ジュースな。
武本と、俺は生ビール!」

清水先生が勝手に注文をしたあと、岸先生が口を開いた。
「武本先生は驚かれたと思いますが…。」
「あの…知ってました。結構前から…。
すいません。言い出せなくて。」
あれ、何で僕は謝ってんだ?
「いえ、それでは話が早くて済みますよ。」
生ビールを一口飲んだ清水先生が呟いた。
「噂の件だが、時間の問題だな。
ごまかせるところはごまかしておいたが…。」
「あの…すいません、失礼とは思いますが、あの…佐藤さんの…その…体調というか…。」
僕がお茶を濁す言い方をしたのを見て、清水先生が声を上げた。
「何だ!お前そこまで知ってんのかよ!
どっからの情報だよそれ!」
「違いますよ!
偶然、山中女史との会話を聞いてしまって。」
僕は全力で弁解した。
「武本先生!じゃあ、今まで黙っていてくれたんですね。
ありがとうございます。」
佐藤が涙目になりながら御礼を言ってきた。
「いや…単にタイミングが…。」
「まぁ、武本はそれどころじゃないって事があるからな!」
清水先生が酔ってきたのか、絡んできた。
「なっ!何の事でしょうね!
僕には全く判りませんが!」
ムキになって否定した。
「まあまあ、で、僕らやっぱり結婚しようと思ってます。」
岸先生が爆弾発言した。
「多分、しばらくは学校も騒ぎになると思ってます。
お二人にも迷惑をかけるかも知れません。
でも、決めたんです。」
岸先生は真っ直ぐに自信たっぷりに言った。
迷いなんて全く無かった。
「おめでとうございます。
陰ながら応援します。」
言いながら、僕は逆に寂しい気持ちになった。
僕がこのセリフを言う事は無いのだ。

「そういう事だ。
武本、どうだ?お前には無理だろう。」
「知ってますよ、そんな事。」
佐藤 ゆかりが僕と清水先生の会話を首を傾げて聞いていた。
「もしかして…武本先生は生徒の誰かと付き合ってるんですか?」
「ブッホッ!ゲホッ!」
佐藤のセリフに僕は動揺を隠せなかった。
「あ~違う違う。
こいつはヘタレなだけで向こうは何とも思って無い。
教師の癖に完全な片想いしてやんの!」
「そこまで言います?」
「キスの1つや2つしてれば話しは別だがな。」
「僕だってキスくらい!…あ…えーと。」

ヤバい!つられた!
僕は即座に視線を逸らした。
清水先生はグッと僕のネクタイを掴んだ。
「お前…何だその反応!まさか…。」
「し…してません。本当です。」
僕は嘘をついた。2回もしてるなんて言えない!
けど…清水先生は納得していない表情だった。
「なんか…変わってますね。武本先生。」
佐藤 ゆかりが引いた…。くそっ!
「後でゆっくりと話しを聞くぞ!」
「…。」
清水先生が手を放した。
僕はネクタイを緩めた。
言える訳ない…。どっちも田宮の意思とは無関係なものだ。
僕が勝手に…彼女に…キスしたんだから。
胸を鷲掴みされたような痛みが走った。
息苦しい…。

岸先生と佐藤ゆかりは1時間後に帰って行った。
僕は清水先生とサシで話さなければならなくなった。
「お前、何企んでるんだ?」
「何って何も…。」
「あのイケメンだって、田宮と関係あるんだろ。」
「言えません…。」
「お前なぁ。」
「言えません!
でも、彼女は僕の事なんか好きになりませんよ。
安心して下さい。
僕は自分の出来る事だけをするつもりですから。
教師と生徒以上の関係にはなりませんよ。」
「本気で言ってんのか?」
清水は不信そうに僕の顔を覗き込んだ。
「…当たり前じゃないですか。」
僕は笑顔で答えた。
「お前…自分の言ってる意味…。
ちくしょう!あー!もう何でこうなるんだ?」
「??」
清水先生は僕の顔をみるなり混乱した。
お酒を呑み過ぎたのかもしれない。
僕はお酒が回ったせいか、さっきよりは気分が良かった。
彼女は僕を好きにならない…そうなんだ…もう…すでに判りきってるんだ。
期待しなければいい。
望まなければいい。

……キモチハヒミツノママニ…。

僕はそのまま、少しばかり眠ってしまった。
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