手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

地獄からひと時の天国へ

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『先生は嘘つきだもの…』

彼女の…田宮の言った通りだ。
僕は嘘つきだ。
そしてこれからも嘘を突き通す。
そこに…僕がいなくなるまで…。

…ボクハイナイ…ボクハイナイ…

「武本。お前…マジで顔色悪いぞ。」
「あ、はい。」
職員室に戻って残ってる仕事を片付けていると、清水先生が心配顔で声を掛けて来た。
…でも僕は、旧理科準備室に行かなきゃ。
委員会もすでに終わってるはず。
田宮はもう旧理科室に来てるはず。
清水先生が心配して体温計を持って来た。
「おい!40度あるぞ!送ってやるから病院行くぞ!」
「嫌です…僕は…行かなきゃ…」
「バカやろう!おい!誰か手伝え!」
僕は意識の薄れる中、清水先生と田中先生が車に運んでくれたのを見た。
田宮…無事で…帰宅出来るかな…。

「脇やリンパを冷やす物…あと、スポーツドリンクとスポーツゼリーをいくつか。」
「じゃあ頼んだぞ。
こいつの彼女と連絡取れないから。」
…なんの…話し…?
なんか…お粥の匂いも…。
どこだ…ここ…僕は…行かなきゃ…いけないのに…。
「…田宮…。」
「はい、何ですか?」
えっ!?田宮…田宮 真朝!!
彼女は僕のオデコに自分のオデコをつけた。
「熱、下がりませんね。
今しがた清水先生も買いに出てしまって。」
って、ここ…どう見ても…僕のマンション!!
「驚きました。清水先生が携帯で、すぐ来い!
武本が死んでる!って…。
一緒に車に乗って病院に行ったんです。」
「…死んでるって…。」
「すいませんでした。
私のせいですよね。風邪。
責任取ります。何か欲しいものあります?」

そんなの…決まってる…田宮が…欲しい…。

喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。
「汗、拭きますね。」
彼女がタオルで僕の顔の汗を拭いてくれた。
「洗濯物、干しに行きますね。
何かあったら呼んで下さい。」
彼女が立ち上がろうとした手を僕は掴んでいた。
「ここに…いて…くれ。」
「…はい。判りました。」
彼女は素直に側に座ってくれた。
優しい眼差しを僕に向けて…。
僕は彼女の手に指を絡ませその手に頬ずりしたまま、眠ってしまった。
とっても…気持ちよかった…。

ああ、本当に僕は彼女が…田宮が…
たまらなく…愛おしい…。
大好きだ…誰よりも…。
彼女の為になら…僕は…どんな事も…。
僕は…君の為に…地獄を歩こう…。
僕は改めて、心にそう誓った。

「おい。大丈夫か?」
「!!」
清水先生が僕を覗き込んだ。
「あ、はい…。少し楽になりました。」
「田宮は一旦帰したぞ。
明日も学校あるからな。
お前は一日休め。
後の事は俺が何とかする。」
「すいませんでした。
よろしくお願いします。」
帰ったんだ…。田宮…。
「朝イチで田宮がこっちに様子見に来るから、鍵開けてやれよ。」
「あ…はい…。」
田宮…朝に来てくれるのか…。
時計を見るともう、夜中の12時を回っていた。
「顔色良さそうだな。俺も帰るわ。
話したい事も色々あるが…また今度な。」
清水先生は黒のコートを羽織ると、出て行った。
僕は早く朝が来る事を願って再び眠りについた。

朝6時、汗をでベトベトした身体が気持ち悪くてシャワーを浴びた。
熱もだいぶ下がった気がする。
シャワーから出て髪を乾かそうとした時に、インターホンがなった。
ピンポーン。
「あ!今開ける!」
田宮!?
僕は、慌ててドアを開けた。
ガチャ。
「やだ~!武本っちゃん!シャワー後でセクシー!」
久瀬!
バタン!!
反射的にドアを閉めた。
「ひっで~~!せっかく心配して来たのに!
田宮連れて帰っちゃうぞ!」
ガチャ。
「久瀬~~。」
朝からは見たくない顔だ。
「おはようございます。
熱は下がりましたか?」
久瀬の脇から田宮が顔を覗かせた。
「あ、うん。とにかく上がって。」
「おっじゃましまーす!」
「失礼します。」

2人は部屋に上がると、田宮はすぐにキッチンに立って持って来たエプロンを身に付けた。
「朝ごはんは、お粥と卵焼きで大丈夫ですか?
お昼はお弁当を作っておきますから。」
「あ、ありがとう。」
僕は、髪を乾かすのを忘れてボーっと彼女に見惚れていた。
「いゃ~。
朝勃ちしてるのを狙ったんだけどなぁ。」
久瀬が変な事を言い出す。
「お前!奥に行くぞ!田宮のじゃまだ!」
「わーい!寝室だぁ!ベットイン~~!」
ドカッ。
「ひっで~~。」
思わず蹴りを入れた。
「元気じゃん。武本っちゃん。」
「まあな…。」

田宮が朝食と弁当を作ってる間に、僕と久瀬は寝室で話した。
「田宮に伝染されたんだって?
でも、何で田宮の風邪だってわかるんだ?」
久瀬は鋭いところを突いてきた。
「…し…仕返しされた…。」
「あんん?仕返し…?」
「だから、この前一方的にキスしたから…仕返しだって…風邪を…。
その…口移しというか…。」
「田宮からキスしたっての?マジ?」
さすがの久瀬も驚いたようだ。
そりゃそうだ。
本人は大パニックだったんだから。
久瀬は急に黙り込んで考え出した。
田宮の行動を解読してるのか?

「うーん。情報足りないな。推測するには。
ま、ラッキーくらいに考えておきなよ。」
何だよわかんないんじゃん!期待して損した。
久瀬はプラス思考なのか?
「あのさ…そんなに田宮好きなら、今あいつをベットの上で押し倒しちゃえば?」
「ばっ!馬鹿言うな!」
久瀬のセリフに思いっきり動揺した。
なるべく想像しないようにしてるのに!
「冗談だよ。マジ、そういう反応されると、俺が武本っちゃん押し倒したくなるよ。」
「やめてくれ!」
久瀬のせいできっと熱がまた上がった。

 キッチンの方から、美味そうな匂いがしてきた。
何かいいなぁ。新婚夫婦みたいで…。

田宮は朝食と弁当を作り終えた。
「風邪が治るまでコーヒーは控えて下さい。
冷蔵庫にスポーツドリンクがありますから。
食欲がなければスポーツゼリーも入ってます。」
「一緒に…食べて行かないのか?」
田宮はすでに鞄を手にしていた。
「久瀬君が相手してくれますよ。
では、お大事に。」
「任せてよ。田宮!」
彼女はそう言うと早々と登校して行った。
「いや~武本っちゃんとモーニングって夫婦みた~い。」
久瀬が僕の肩を組んで囁いた。
「帰れ!」
「え~。ひど~い。まさか…武本っちゃん!」
「何だよ。」
「今の田宮の残像で…独りで抜くとか…。」
「帰れ~~!2度と来るなボケ!」
僕は久瀬を早々に追い出した。





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