手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

僕は嘘を、君は…

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「おはようございます。
一昨日と昨日は大変ご迷惑をお掛けしました。
以後気をつけます。」
僕は朝の学年ミーティングで謝った。
授業予定も変動してるので週末までは忙しくなりそうだった。
来週には体育祭も控えていた。

ミーティングを終えて自分の席に戻った。
「清水先生…どうしても…聞きたい事が。」
僕は隣の清水先生に声を掛けた。
「何だよ。改まって。」
「その…なぜ田宮を呼んだんですか。」
僕はどうしても清水先生が田宮に連絡したのが不思議で仕方なかった。
「あの時間だ、残ってるのが確実な奴で携帯番号知ってるのは、田宮だけだったんだから仕方ないだろ。」
「本当に…それだけの理由ですか?」
「そうだよ。あいつなら料理もまともだろ。」
「そうですよね。」
仕方なくだよなぁ。やっぱり。
でも、嬉しかった。
夢のようだった。
僕は手の指を絡ませた、あの感触を思い出して、陶酔した。

今日の1時限目は1年4組だ。
僕は少し緊張していた。
田宮の顔をまともに見れるだろうか…。
ネクタイをキュッと締めて気合を入れた。
そろそろ始業チャイムが鳴る。

「先生~~。葉月さんとデキてるんですか?」
「はっ?」
唐突に、生徒から質問された。
さすがは一般クラス。
噂があればすぐに飛びつく。
「まあ、可愛い生徒の1人だよ。」
「えええ~。じゃあ、他の人作ったお弁当も食べてくれます?」
葉月のだって食べてねぇよ。
僕が食べたのは田宮のおにぎりと弁当だけだ。
「あ、ああ安月給の僕にはありがたいからな。」
「先生、誰でもOKってか?ははは。」
男子が羨ましそうに笑った。
バーカ。
本当はそんな事したくないんだよ。
「でもさ、となると田宮だけ嫌われてんだよなぁ~~。」
「!!」
「田宮~何とか言ってやれよ~~えこひいきだぜ!」
男子共がふざけて騒ぎ出した。
それを受けて田宮 真朝は立ち上がった。
「先生にだって、好みがあるでしょう。
人間だもの。
私は武本先生の範囲に入らない。
…というだけの事。ただそれだけ。
ですよね。武本先生。」
淡々と表情1つ変えないで彼女は僕に同意を求めた。

僕の範囲外?ど真ん中だってーの!
でも…僕は嘘をつかなければならない。
「そうだな。それは、どうしようもないかもな。犬猿の仲とも言うし。」
自分ではサラッとした表情で言えたつもりだ。
「雑談は終わりだ!授業始めるぞ!」
言った後で黒板に向かった僕は、奥歯を噛み締めた。
これでいいんだ…。

授業中、田宮が机の上でうつ伏せで寝ていた。
いつもなら、起こすところだが…一昨日と昨日彼女に迷惑を掛けてる。
今日は…寝かせてあげよう。
そう、思ったのに周りはそうさせてくれなかった。
「先生…田宮寝てる、寝てる。」
小さな声でチクってくるバカがいた。
田宮と僕のバトルを見たいだけだろ、こいつら。
僕は無視する事も出来ず、溜息をついてから田宮に声を掛けた。
「おい!田宮授業中だぞ!
せめて身体起こしておけ!」
「…あ、はい。すみません。
先生も、もう少し楽しい授業して下さい。」
周りの生徒がクスクス笑い出す。
「田宮!立って102ページからの長文を読め!」
「はい。」
彼女は立ち上がると、高めの声で長文を読み始めた。
流れるように聞こえる彼女の声に聞き惚れてしまいそうになる。
周りの奴らのざわめきなんか聞こえなくなりそうだった。

授業終了後、予感はしていたが…牧田が僕のところにやって来た。
妖怪恋愛アンテナは電波がハンパねぇ。
「武ちゃん。なんか、いい事あったの?」
「ブッ。」
そっちか!ズゴ過ぎる!
「お口の端がねぇ。
昨日のお休みで楽しい事あったんだ。」
「ま…まあな。そんなとこだ。」
頼むから、そこは掘り下げないでくれ!
「ふ~ん。じゃあ真朝と一緒だ!」
「!!」
えっ…田宮と一緒??
「武ちゃんがお休みだから…って感じでもなかったけど。」
「そんなに機嫌良かったのか?」
「んん~。
機嫌良かったって言うより…なんか安心してホッとしてる。
いつもよりリラックス出来てるみたいな?」
「そう…。」
僕の熱が下がったから…?
だったら嬉しいんだけど…。
僕は牧田の頭をグリグリと撫でた。
「あー武ちゃん何すんのよ!
ヘアが乱れちゃう!」
「この前のお祓いのお返しだ!」
「ひっどい~!」
思わず笑ってしまった。
牧田のくれた小さな情報が僕に安らぎをくれた。

「先生~~!風邪治ったんでしょ。」
廊下に出た途端に葉月 結菜に捕まった。
「ああ、もう平気だ。」
「じゃあ、今日もお昼一緒に食べてくれますよね~。」
腕に絡み付くし、甘ったるい喋り方でちょっと胸がムカムカしたが仕方なかった。
「ああ、わかった行くよ。」
「今日は食堂に2人きりでいいですよね。」
「じゃあ、昼は食堂で待っててくれ。」
僕はそう言うと、葉月の腕を剥がし、職員室へと向かった。

「おーい武本!体育祭後の振替休日開けとけよ。」
「えっ。何かあるんですか?」
職員室へ戻ると清水先生が声をかけて来た。
「…お前、田宮の事知りたいんだろ?」
「あ、いえそんな…。」
僕はお茶を濁した返事をした。
「田宮の母親に会いに行く。」
「えっ!」
清水先生は僕の肩に手を置いて小さな声で話した。
「田宮の母親だ。今まで拒否されてたが、何とか会う約束を取り付けた。」
「田宮の…母親…。」
田宮 美月が言っていた…自分の方が母親よりはマシだと。
「でも、担任でもない僕が行っていいんですか?」
「俺1人じゃ負けそうなんだよ。
相手は大魔女だからな。ただし、一言も喋るな!余計な事を喋れば、田宮に何が起こるか保証できん。」
「そんなに…。判りました。必ず行きます。」
田宮の母親…。
彼女が死を望む理由に近づくには、行くしかない。
彼女をもっと知るために…。
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