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2学期
彼女は僕を知らない
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放課後、職員室で清水先生に例のスクールカウンセラーの金井先生について聞いてみた。
「清水先生はどう思います?」
「…腕は確かだよ。俺が頼んだんだ。」
「へっ?」
「実際、3年の問題まで俺が担当したらこっちがダウンしちまう。
だから、優秀な奴を頼んだんだ。」
「そう…ですか。」
カウンセラーとしては一流って事か。
やっぱり、侮れない。
「何だよ。気になる事でも?」
「いえ、田宮 真朝に興味があるようで…。」
「何だよ。ヤキモチじゃねーか。」
清水先生が呆れ顔で言った。
「ち、違いますよ!僕は冷静に判断して…もう、いいですよ。」
「頭がキレる奴ほど胡散臭いもんだろ。
田宮 美月みたいに…。」
「どうせ、僕は凡人ですよ。」
「いや、バカだな。単なる。」
「そこまで言います?後輩に!もう!」
「バカほど可愛いもんはないぞ~。」
「はいはい。」
バカバカ言われて、僕は少しだけ傷ついた。
判ってますよ。自分でも…バカで不器用で…。
ブルルル。
携帯にメッセージが入った。
香苗からだ!!
『今夜、どうしても例の女子高生の事で、確認したい事があるの。
部屋に行ってもいい?』
僕は香苗に了解の返信をした。
香苗にはもう、ハッキリと縁を切って貰おうと考えていた。
このまま、ズルズルとする訳にいかない。
僕は香苗との時間の前に、旧理科準備室に向った。
ふと見ると、旧理科室のドアが少しだけ開いていた。
僕は見つからないように、旧理科準備室に滑り込んだ。
中扉の小窓から中を覗いて見た。
金井先生!?
「凄いとこだね~。
奥まっててあまり人も来ない。
君を探すのに苦労したよ。」
金井先生は旧理解室を見回す素振りをみせた。
「しつこい男性は嫌われますよ。
特に、自分がいい男だと勘違いしてる人はね。」
田宮は実験台の上に座って、脚をプラプラさせていた。
「率直に聞こう。真朝君。
君は姉のしている事が理解出来るかい?」
「理解…?難しい質問ですね。
でも説明は出来ますよ、どんな方向からでも。」
「ほう。それは?」
「先生、理論はほとんどの場合、逆説が可能ですよ。
自分の納得したいように構成すればいいだけの事。
私にとっては説明とはあっても無くても同じです。」
何の話だ?難しくて判らねぇ。
ただ金井先生の目的は、やはり田宮 美月を調べる事だと判った。
「つまり、僕に合わせた説明になってしまうから意味が無いと?…面白い。」
「先生ならどうせ、自分で答えを見つけた方が自分でも納得出来るんじゃないですか?」
「だろうね。僕の性格をよく見抜いてる。
…今の会話からして、君は充分なくらいに田宮 美月を理解している。
僕はそう、推察するね。」
「そうですか…。」
「なのに…何故縛られる!」
金井先生は田宮に急接近して問いただした。
「秘密です…。」
「そうか。…武本先生にもかな?」
な、何で僕の名前が出て来るんだ?
確かに僕は、田宮 美月が彼女を利用してる事は知ってる…死に近い事も…。
でも、それを表立って話した事はないはずだ。
僕は…金井先生に怪しまれてるのか?
「……。」
彼女はそれ以降一言も話さなかった。
「ありがとう。少しだけ判ったよ。
今日のところはここまでだ。
またね。真朝君。」
金井先生は彼女の頭を撫でると、旧理科室を出て行った。
彼女は撫でられた頭を払う仕草をした。
そして、実験台から降りると疲れたかのようにうつ伏せで寝てしまった。
金井先生はやはり危険かもしれない。
正しい事をしているのかも知れない。
けど、彼女に大きな負担をさせるのは違うと思った。
僕は小窓の向こう側で眠る彼女を、見つめていた。
彼女を守らなければ…。
誰にも気付かれないように…彼女にさえ気付かれないように。
僕は彼女が帰宅したのを確認してから、香苗に連絡を入れた。
「今から、帰る。待っててくれ。
僕もちゃんと話したいんだ。」
「わかったわ。待ってる。」
香苗との電話を切って、僕は帰路に着いた。
マンションに着くと、香苗が紺色のコートを着たままで待っていた。
僕は帰宅してすぐに、香苗とテーブルを挟んで向き合った。
「久しぶり。モッちゃん。」
「ああ。久しぶり。香苗…実は…。」
言いかけた時、香苗がスッとボイスレコーダーを差し出した。
「これは…?」
「ごめんなさい。どうしてもモツちゃんの好きな女子高生を知りたくて。
手帳の中の写真…携帯で写真を撮ったの。」
「!!」
手帳の中身を見たのか?
田宮の写真が挟んであった。
「それから、画像検索しても全く見つからないから、学校にコッソリ行って調べたの。」
「そんなマネまでしたのか!?」
僕は少しだけ憤りを感じた。
「怒らないで聞いて!
そして…昨日…彼女を待ち伏せたの。」
「彼女に会ったのか!?」
田宮からは何も聞いていないぞ。
「これは、その時の会話よ。
聞いて欲しいの。お願い。」
「…わかったよ。」
僕はボイスレコーダーに手をかけて、再生のスイッチを押した。
『今晩は。田宮 真朝…さん?』
『はい…。
どなたですか?
知り合い…ではないですよね。』
『お願い…。モッ…ううん。
正輝さんを取らないで!!』
『ま…さき?』
『とぼけないで!あなたのせいで…』
『申し訳ありませんが人違いじゃありませんか?私は…まさき…さんという方を知りません。
私の父の名も別の物です。』
『えっ…。』
『もう一度、ご確認する事をお勧めします。
では…。』
『ちょっと…。』
カチッ。
再生が終わった。
「モッちゃん…どういう事か判る?
彼女はあなたの名前すら…知らないのよ!!」
「!!」
確かに…担任以外の教師の下の名前を覚えてる確率は低い…。
当たり前の事だ…。
春に一度だけ自己紹介しただけだし、普段は苗字か『先生』扱いしかされない。
彼女の口から一度だって僕の名前を聞いた事は無い…当たり前の事なんだ…。
当たり前の事なのに…僕のショックは計り知れなかった。
彼女の中に僕という人間がいないと改めて認識させられるなんて…。
「だから…モッちゃん…やり直そう。
私がいるから…ね…。」
「…るさい。…うるさい!黙れ!!」
「モッちゃん…。」
「そんな事…知ってるさ!
…当たり前なんだから!!……。」
僕は発狂したかのように叫んだ。
「…帰ってくれ…帰ってくれ…もう…2度と僕の前に…現れるな…!!」
香苗は泣き叫びながら部屋を出て行った。
僕はシャワーを浴びながら頭を冷やした。
これは現実なんだ…わかってたはずだ。
なのに…胸が張り裂けて潰されたように痛みが走った。
でも…何故か遠い昔に、同じ痛みを感じた時があった事を思い出していた…。
あれは…いつの頃だったっけ…。
大事なものを…失った…日…。
もう…2度と取り戻せない…後悔の雨…。
雨は…嫌いだ…。
「清水先生はどう思います?」
「…腕は確かだよ。俺が頼んだんだ。」
「へっ?」
「実際、3年の問題まで俺が担当したらこっちがダウンしちまう。
だから、優秀な奴を頼んだんだ。」
「そう…ですか。」
カウンセラーとしては一流って事か。
やっぱり、侮れない。
「何だよ。気になる事でも?」
「いえ、田宮 真朝に興味があるようで…。」
「何だよ。ヤキモチじゃねーか。」
清水先生が呆れ顔で言った。
「ち、違いますよ!僕は冷静に判断して…もう、いいですよ。」
「頭がキレる奴ほど胡散臭いもんだろ。
田宮 美月みたいに…。」
「どうせ、僕は凡人ですよ。」
「いや、バカだな。単なる。」
「そこまで言います?後輩に!もう!」
「バカほど可愛いもんはないぞ~。」
「はいはい。」
バカバカ言われて、僕は少しだけ傷ついた。
判ってますよ。自分でも…バカで不器用で…。
ブルルル。
携帯にメッセージが入った。
香苗からだ!!
『今夜、どうしても例の女子高生の事で、確認したい事があるの。
部屋に行ってもいい?』
僕は香苗に了解の返信をした。
香苗にはもう、ハッキリと縁を切って貰おうと考えていた。
このまま、ズルズルとする訳にいかない。
僕は香苗との時間の前に、旧理科準備室に向った。
ふと見ると、旧理科室のドアが少しだけ開いていた。
僕は見つからないように、旧理科準備室に滑り込んだ。
中扉の小窓から中を覗いて見た。
金井先生!?
「凄いとこだね~。
奥まっててあまり人も来ない。
君を探すのに苦労したよ。」
金井先生は旧理解室を見回す素振りをみせた。
「しつこい男性は嫌われますよ。
特に、自分がいい男だと勘違いしてる人はね。」
田宮は実験台の上に座って、脚をプラプラさせていた。
「率直に聞こう。真朝君。
君は姉のしている事が理解出来るかい?」
「理解…?難しい質問ですね。
でも説明は出来ますよ、どんな方向からでも。」
「ほう。それは?」
「先生、理論はほとんどの場合、逆説が可能ですよ。
自分の納得したいように構成すればいいだけの事。
私にとっては説明とはあっても無くても同じです。」
何の話だ?難しくて判らねぇ。
ただ金井先生の目的は、やはり田宮 美月を調べる事だと判った。
「つまり、僕に合わせた説明になってしまうから意味が無いと?…面白い。」
「先生ならどうせ、自分で答えを見つけた方が自分でも納得出来るんじゃないですか?」
「だろうね。僕の性格をよく見抜いてる。
…今の会話からして、君は充分なくらいに田宮 美月を理解している。
僕はそう、推察するね。」
「そうですか…。」
「なのに…何故縛られる!」
金井先生は田宮に急接近して問いただした。
「秘密です…。」
「そうか。…武本先生にもかな?」
な、何で僕の名前が出て来るんだ?
確かに僕は、田宮 美月が彼女を利用してる事は知ってる…死に近い事も…。
でも、それを表立って話した事はないはずだ。
僕は…金井先生に怪しまれてるのか?
「……。」
彼女はそれ以降一言も話さなかった。
「ありがとう。少しだけ判ったよ。
今日のところはここまでだ。
またね。真朝君。」
金井先生は彼女の頭を撫でると、旧理科室を出て行った。
彼女は撫でられた頭を払う仕草をした。
そして、実験台から降りると疲れたかのようにうつ伏せで寝てしまった。
金井先生はやはり危険かもしれない。
正しい事をしているのかも知れない。
けど、彼女に大きな負担をさせるのは違うと思った。
僕は小窓の向こう側で眠る彼女を、見つめていた。
彼女を守らなければ…。
誰にも気付かれないように…彼女にさえ気付かれないように。
僕は彼女が帰宅したのを確認してから、香苗に連絡を入れた。
「今から、帰る。待っててくれ。
僕もちゃんと話したいんだ。」
「わかったわ。待ってる。」
香苗との電話を切って、僕は帰路に着いた。
マンションに着くと、香苗が紺色のコートを着たままで待っていた。
僕は帰宅してすぐに、香苗とテーブルを挟んで向き合った。
「久しぶり。モッちゃん。」
「ああ。久しぶり。香苗…実は…。」
言いかけた時、香苗がスッとボイスレコーダーを差し出した。
「これは…?」
「ごめんなさい。どうしてもモツちゃんの好きな女子高生を知りたくて。
手帳の中の写真…携帯で写真を撮ったの。」
「!!」
手帳の中身を見たのか?
田宮の写真が挟んであった。
「それから、画像検索しても全く見つからないから、学校にコッソリ行って調べたの。」
「そんなマネまでしたのか!?」
僕は少しだけ憤りを感じた。
「怒らないで聞いて!
そして…昨日…彼女を待ち伏せたの。」
「彼女に会ったのか!?」
田宮からは何も聞いていないぞ。
「これは、その時の会話よ。
聞いて欲しいの。お願い。」
「…わかったよ。」
僕はボイスレコーダーに手をかけて、再生のスイッチを押した。
『今晩は。田宮 真朝…さん?』
『はい…。
どなたですか?
知り合い…ではないですよね。』
『お願い…。モッ…ううん。
正輝さんを取らないで!!』
『ま…さき?』
『とぼけないで!あなたのせいで…』
『申し訳ありませんが人違いじゃありませんか?私は…まさき…さんという方を知りません。
私の父の名も別の物です。』
『えっ…。』
『もう一度、ご確認する事をお勧めします。
では…。』
『ちょっと…。』
カチッ。
再生が終わった。
「モッちゃん…どういう事か判る?
彼女はあなたの名前すら…知らないのよ!!」
「!!」
確かに…担任以外の教師の下の名前を覚えてる確率は低い…。
当たり前の事だ…。
春に一度だけ自己紹介しただけだし、普段は苗字か『先生』扱いしかされない。
彼女の口から一度だって僕の名前を聞いた事は無い…当たり前の事なんだ…。
当たり前の事なのに…僕のショックは計り知れなかった。
彼女の中に僕という人間がいないと改めて認識させられるなんて…。
「だから…モッちゃん…やり直そう。
私がいるから…ね…。」
「…るさい。…うるさい!黙れ!!」
「モッちゃん…。」
「そんな事…知ってるさ!
…当たり前なんだから!!……。」
僕は発狂したかのように叫んだ。
「…帰ってくれ…帰ってくれ…もう…2度と僕の前に…現れるな…!!」
香苗は泣き叫びながら部屋を出て行った。
僕はシャワーを浴びながら頭を冷やした。
これは現実なんだ…わかってたはずだ。
なのに…胸が張り裂けて潰されたように痛みが走った。
でも…何故か遠い昔に、同じ痛みを感じた時があった事を思い出していた…。
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