手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

王子の心は怯えてる

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『先生…キス以外って…どうするの?』
『…大丈夫…僕が教えてあげるから…。』
『先生…。先生…。』
『先生って呼ぶな…!』
『あっ…。』

「マジかぁ~~。」
とうとう、見てしまった…。
なるべく、想像とか妄想とかしない様にしてきたのに…。
思い出しても恥ずかしくなるくらいの…僕の欲望100パーセントの夢…。

昨夜のイルミネーションの影響かな…。
僕は火照る身体をシャワーで引き締めた。
確かに…楽しかったし…嬉しかった。

でも、学校に入れば、やっぱり教師と生徒なんだよ。
こればっかりはどうにも出来ない。
昨日が楽しかっただけに、今日どんな顔をすればいいのか。
しかも、あんな夢まで見ちゃうし。
「はあぁぁ。」
思わず大きな溜息が漏れた。
マジに気をつけないと、感情が爆発してしまいそうだ。

とりあえず、オールバックに黒縁メガネ、紺のスーツに着替えて気を引き締めた。
形から入らなきゃ…。
鏡を見てふと思い出す。
パグに…似てるのかな…。
確かに目はデカイし黒目も大きい方だけど…。
普通だと思ってだけど…ブサイクかも…。
ちょっと気分をヘコませた。

11月に入り、朝は結構肌寒くなってきた。
旧理科準備室に着くとすぐに白衣を羽織り、コーヒーを飲みながら田宮を待った。
何だかいつもより一層ドキドキした。
あんな夢見たからかなぁ。
僕は手帳を開き、彼女の写真を見つめた。
「はぁ。田宮…としか呼べないんだよな。
そして…僕も武本先生としか呼んでもらえない。真朝って…呼びたいな。」

彼女の足音がして、旧理科室のドアの開く音がした。
ガチャ。
僕は中扉の小窓から、彼女に朝の挨拶を小声でした。
「おはよう…真朝…。」
彼女は高めにポニーテールを結っていた。
耳がハッキリ見えた。
あの耳…弱いんだよな…触れただけで…。
「可愛いなぁ。もう。」
まずい…可愛いくて仕方ない。
どうしよう。
今日は4組の授業あるってーのに!
僕は自分との戦いに悪戦苦闘していた。

職員室に行くと、清水先生がニヤニヤして僕の事を背中から羽交い締めにして来た。
「おっはよう!ドライブ~~どおだった?
ん?んん?」
「離して下さいよ!金井先生のデートです。
僕のデートじゃないんです!」
「にしては…機嫌良さそうにしてんじゃん。
お前はすぐに、顔に出るからなぁ。」
「げっ!」
やっぱり顔に出ちゃってんのかよ!マジヤバい!教師!僕は教師だ!
僕は教師の顔をイメージした。
「じっくりと聞かせて貰おうかな。武本先生!」
清水先生は僕をイジリ倒すつもりだ!
勘弁してくれ!

「おはようございます。清水先生、武本先生。」
金井先生が職員室に入って来た。
「おっす。昨日楽しんだか?」
「おはよう…ございます。」
僕の顔は思いっきり引きつった。
昨日の今日だ。
どういう顔で金井先生に対応すればいいのか分からなかった。
「ええ、とっても楽しかったですよ。
清水先生…ちょっと3年の事で…。」
「あ!ああ。頼んであったな。
今行くよ。
武本!昼に話し聞くから覚悟しとけよ!」
清水先生と武本先生は職員室を出て行った。
「助かったー。」
金井先生、普通にしててくれてたな。
やっぱり大人だ。あの人。
それに比べて僕は、久瀬の言う通りお子様で…。
僕も、せめてもっと大人だったらな。

まずは、朝の授業を乗り越えなきゃ。
葛藤タイムだもんなぁ。
教師辞めてぇー!

4組への足取りは重かった。
顔に意識を集中させて、ドアの前で深呼吸した。
教師!僕は教師!
心臓は鳴り止まない…。
僕は4組のドアを開けた。
ガラッ。
「こらー!席に着け!授業始めるぞ!」
一般クラスで助かった。生徒のザワザワ感が少しだけ、僕をリラックスさせた。

しかし…やっぱり、長時間の表情維持には無理があった。
こうなれば教科書で不自然に隠すしかなかった。
教科書の隙間から田宮を見る。
なんか、眠そうだなぁ。目が…。
昨日の事で疲れたんだなぁ。
あ、あくびした。
口が小さいから、可愛いなあくび…。
はっ!いかん!ダメだって!
教科書のこちらで、僕は必死に顔を作った。
今日はやたら長い1日になりそうだ…。

「…で、どうして僕のところに来ちゃうんですか?
変わってますね。武本先生。」
金井先生は和かに僕をカウンセリングルームで迎えてくれた。
「すいません。
なんか…その一言謝っておかないと気が済まないと言うか…。
昨日は本当にすいませんでした!」
僕はめいいっぱいに頭を下げた。
「わざわざありがとう。
でも僕は謝られる事なんてないと思ってますよ。」
「でも…。」
「おかげで真朝君の事が解って来たし。
そして、久瀬が言ってた事の意味が少しだけ解りましたから。」
「久瀬の言った意味?」
「スタートが違うって意味ですよ。
確かに…似てますね。武本先生と真朝君。」
「あ…えっ…と。」
「たった2匹の絶滅危惧種ってこんな感じに近いのかなって、思っちゃいました。」
「絶滅危惧種?」
えっ…動物に例えられた…。
「例えですよ例え。
まぁ僕は諦めてはいませんので。
もっと真朝君を知りたくなりましたよ。」
「そう…ですか。」

「後、久瀬君ですが…。
彼ふざけたように見せてますが、本当はかなりの真面目だね。純粋なくらいに。」
「あ、ああ。そうですね。
一途なところありますし。」
好きな人には、悲しいくらいに一途だからな、あいつ。

「武本先生は…臆病ですね。
何を怖れてるんです?」
「…!!」
僕は何も答えなかった。
「なるほど…この質問は武本先生にはタブーのようだ。」
「これで、失礼します。
ありがとうございました。金井先生。」
「また、いらしてください。」
僕はカウンセリングルームを出て職員室へと向かった。

僕は人が怖い…近づきすぎると…傷つけてしまう…失ってしまう…怖くて怖くて…。

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