手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

僕は言えない。

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「えっ…と言えません。ってか別に大した事じゃないんで気にしないで下さい。」
金井先生の視線をかわしつつ、僕はごまかすように水割りを一口飲んだ。

「 へぇ…じゃあ、真朝君本人に聞いてみるよ。」
金井先生の言葉に瞬時に反応してしまった。
「ダメです!絶対にダメですってば!」
「ほ~ら。後ろめたい事をしてたんだろ。」
清水先生が下世話な勘ぐりをしてくる。
「違います!」
「キスとかして叩かれた?」
「してません!」
「じゃあ、その先…。押し倒したり。」
「する訳ないでしょ!あんたじゃあるまいし!」
「じゃあ何だよ!あの顔は!」
「言えません!関係ないでしょ!」
僕は必死に抵抗した。
「武本先生には秘密が多いんですね。」
目を細めて、観察するように金井先生が言った。
「だから!大した事じゃないんです。もうやめて下さい!」

言えるわけないだろ!屋上で抱き合ってました…なんて!絶対言えねぇ!

「ふぅん。ま、いいでしょ。
では、僕の質問に答えて頂けますか?」
「質問ですか…?」
「ええ。武本先生の真朝君に初めて会った時の事です。覚えてますよね。」
指を組んで肘を膝の上に立てて金井先生がまじまじと僕を見た。
「えっ…と去年の夏です…。」
「はああ?お前!田宮!モロ中学生じゃねーか!せめて推薦入試時期だろー!」
清水先生が立ち上がり叫んだ。
「うるさいなぁ!もう!見かけただけですよ!見かけただけ!何もしてませんよ!」
「それは…真朝君は知ってますか?」
「たぶん…知らないかな。もしくは忘れてるか…一瞬だったので。」
「なるほど、その一瞬をあなたは確実に覚えていたんですね。」
「あ!いや!別に…印象的だったから。
でも、勘違いしないで下さい。
一目惚れとかではなく、気になる程度で。」
僕は必死に言い訳を言っていた。
「…。」
「お前、マジでロリコンだぞソレ!」
「だから!ンな気持ちないって!清水先生の想像は下衆です!」
金井先生は無言で何かを考え込んでしまった。
かなり酔いが回ってる清水先生は執拗に僕に絡み始めた。

「武本先生。この後、2人きりでお話し出来ませんか?」
「へっ?」
僕に抱きつく清水先生を剥がしてる最中だった。
「ダメですか…?」
「…ダ…ダメです。」
僕は金井先生を拒否した。
金井先生は鋭い。
僕の嘘なんか簡単に見破ってしまうだろう。
「そうですか…では、後日、久瀬君を交えてお話ししましょう。」
「それで…よろしくお願いします。」
僕は金井先生の視線が怖かった。
2人きりになったら、心の中の隅々まで知られてしまいそうな恐怖を感じた。

翌日、物凄い2日酔いに襲われた。
「話しごまかすのに、飲み過ぎた。」
元々、酒は強くない。
金井先生がいる緊張感で昨晩は乗り切った感じだ。
頭がガンガンする中、僕は田宮の事を考えていた。
田宮はいつも、評価されずに育ったのだろうか…。
彼女に存在価値を与えたかった…。

僕は、携帯で昨晩のキャバ嬢に教えてもらったアクセサリーショップを調べてみた。
後で行ってみよう。
僕が彼女を評価してあげよう。
それが、小さな一歩になるように…。

夕方、僕は体調も落ち着いたのでアクセサリーショップへ向かった。
店内には恋人同士の男女が、一緒にアクセサリーを選ぶ姿が多数見られた。
「なんか…虚しい…。」
思わず、呟いた。
「いらっしゃいませ。彼女さんへのプレゼントですか?」
店員に声を掛けられた。
「どのようなタイプの方ですか?」
「…若いんですけど、知的で落ち着いた感じの…。」
「でしたら、色はシルバーかゴールドでデザインはシンプル、ネックレスかブレスレットがいいですね。
さりげなく付けられますし。」
「あの…イニシャルは入れてもらえますか?」
「はい。大丈夫ですよ。
ああ。丁度、新商品でお客様にピッタリの物が…。」
店員は奥から箱を出してきた。
「こちら、男女ペアの商品なんですが、シンプルで小ぶりですが、ゴールドなので高級感もありますよ。
プレート部分にイニシャルも入ります。」
そう言ってペアのブレスレットを差し出した。

本当だ…田宮の綺麗な手首に似合いそうだ…。ペアか…。
隠れて持っていてもいいだろうか…?
僕はなんだかドキドキしてきた。

考えてみれば、いつも女の子にプレゼントする時はその子に選んでもらっていた。
自分から選んだ事はなかった。
初めて…僕が君の為に選ぶんだ…。

僕はブレスレットを購入した。
イニシャルをくり抜き加工する為に翌日の夕方に再び取りに来る事になった。
「あら、同じイニシャルなんですね。
まるで運命ですね。」
店員がニッコリと営業スマイルで言った。
お世辞と判っていたが、僕は少しだけ嬉しくなって店員に笑顔を返した。

月曜日に田宮に渡そう…。
受け取ってくれるかな…。
いや、受け取って貰わなきゃ。
彼女の存在価値…存在意義を判ってもらう為に。
僕からの金賞なんだから。
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