手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

本当のキス

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「プロポーズしようと思ってるんです。」
「えっ…。」
僕は金井先生の言葉に固まった。
朝からカウンセリングルームに引き込まれてしまい、話しをする羽目になった。
「結婚してあの家を出るのが一番手っ取り早いんですよ。
まあ、彼女の母親が同意してくれるか疑問ですが…。」
「結婚って…まだ16歳ですよ。彼女。」
僕は動揺しまくっていた。
「ええ。親の同意があれば結婚出来る年齢ですよ。」
「ちょ…ちょ…っと。」
「僕は本気ですよ。
久瀬君の話しを聞いてから、ずっと考えていたんです。
それに…僕も気持ちに限界が来てるんですよ。」
「金井先生…。」
「思った以上に…真朝君に本気になってるんですよ。」
金井先生の熱意が肌にビシビシと突き刺さる。
「そう…ですか…。」
「他に、僕に言う事はないんですか?」
「えっ…あっと…頑張って…下さい。」
顔を逸らして僕は呟くように言った。

バン!!
「いい加減にしろ!」
金井先生が急に烈火の如く怒り出した。
いきなりドアに押し付け僕の襟首を捻り上げた。
「うっ…やめて…下さい。」
「ハッキリ言ったらどうですか?
自分も彼女を愛してるって!」
言える訳ない!…死んでも言えない!
「…ます。違います。僕は…。
単なる教師…ですから…。」
彼女が辛くなるだけなんだ…そんな事言っても…彼女が泣くのは見たくないんだ!
「わかりました。
僕はもう…あなたに遠慮はしません。
いいですね。」
「勝手に…して下さい。」
彼女がそれで幸せになるなら…僕は…。
どうせ…僕は彼女には似合わない…。

僕は緩んだ金井先生の手を払いのけ、ドアの外に飛び出した。

「はぁ…はぁ…。」
苦しい…金井先生に締め上げられたからなのか…それとも…。

僕はフラフラと歩きながら職員室を目指した。
「おっす。あん?…お前またその顔!
…何があった?」
「おはようございます。
何もないですよ…何も。」
職員室へ入るなり、清水先生が話し掛けて来た。
「昨日、行ったんだろ。」
「ええ。ありがとうございます。
楽しかったです。
…本当に楽しかったです。」
「そうか…。」
席に着いた僕に、珍しく清水先生がコーヒーを入れて来た。
「ありがとうございます。
珍しい事もあるんですね。」
「…お前、何怖がってんだ?」
「えっ…。」
「そんなに…今の現状が壊れるのが怖いのか?」
「何言ってんですか…?」
「お前は大切な事を履き違えてんじゃないのか?」
清水先生は腕組みしながら僕に向かった。
「何の事だか…わかりません。」
「このままだと…お前…田宮を死なすぞ!」
「!!」
「俺はマジで言ってる。…よく考えるんだな。」
「田宮を…僕が…?どういう…。」
清水先生は僕を睨んだまま何も答えなかった。
今朝の夢が頭の中をかすめて行った。
僕が…彼女を…?
全ては…僕のせい…。

授業中の僕は意識が飛んでるかのように無表情で無反応だった。
僕のせいで…彼女が…傷つく…。
僕が…僕が…。

雨が降る…僕の上に…彼の上に…
流せない罪を流したくて…
僕の好きになる人は…
なぜか傷ついて行く…
だから…だから…

…ボクハイラナイ!!…

ガタン!!
「きゃー!武本先生!」
「武本大丈夫かよ!誰か他の先生呼べ!」
「早くしろよ!」
僕は授業中に本当に意識が飛んで倒れた。

「先生…武本先生…。」
僕は薄目を開けた。
ここは…何処だ…?
白い天井…ああ、保健室だ…。
確か授業中に…意識が飛んで…。
「先生。大丈夫ですか?」
「田宮…どうして…。」
彼女は両手で僕の手を握っていた。
「清水先生が、席を外すから代わりにと。
よかった…意識が戻って。」
僕は彼女の手から自分の手を外した。
「ごめん…もう…大丈夫だから。
戻っていいぞ。」
僕は素っ気ない返事を返した。
「今、何時だ?」
「もう…4時限目も終わって、12時を過ぎたところです。」
「結構寝てたなぁ。」
「武本先生に…お願いがあります。」
「お願い…?何だ?」
「…先生…期末テストが終わったら…。
2人だけで…勉強会をしたいんです。」
「えっ…勉強会!?」
僕は息を飲んでしまった。
「ダメですか…?」
「えっ…ちょ…。」
勉強会ってのはつまり…久瀬の言ってた奴だよな…。
彼女は手を伸ばし、僕の袖の端を握った。
「あ、ごめん今は混乱してるから。
その…返事は後で…。」
「わかりました。
じゃあ、先生はゆっくり休んで下さい。」
そう言うと彼女は部屋を出ようとした。
「田宮…その…金井先生とキス…したのか?」
「えっ…?」
「あ、いや。
何でもない!ごめん、聞く事じゃなかった。」
彼女は僕の側まで戻って来た。
「これはキスに入りますか?」
「な…。」
彼女はそう言うと僕に顔を近づけて、僕の左頬にキスをした。

彼女の目と僕の目とがピタリと合った。
瞬間…僕の中で何かのスイッチが入った。
「違うな…。」
「!」
僕は彼女の顔を両手で引き寄せて唇を重ねた。
口に出せない僕の想いを全部込めてキスをした。
狂おしい程に愛しさを込めて。
「…これが…キスだ。」
「…は…い。」
彼女は恥ずかしそうに返事をして、部屋を出て行った。

多分…これで最後だ…。
これで自分の気持ちを閉じ込められる。
このキスの想い出さえあればきっと…。
僕は自分の唇に指を触れた。
想い出すだけで身体中が熱くなるキスだった…。
もう二度と出来ない…。
僕の気持ちを全て乗せたキス…。

僕はキスの余韻に浸っていた。
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