手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

愛憎の罠の中 その1

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月曜日になり、補習までは後1週間強しかない。
僕は金井先生の力も借りる事にした。
自分を取り戻す為なら何だってやってやろうと決めていた。

次の3回目の《勉強会》で何とか自分を取り戻したかった。
下準備は出来るだけしておいて損はないだろう。
久瀬の見解では田宮は今回会話に捻りを加えてくると言っていた。
すんなりその捻りを崩すにはそれだけの知識を必要とするだろう。

旧理科準備室に寄らずに、カウンセラールームをノックした。

コンコン。
「どうぞ。どうしました武本先生。
旧理科準備室へは行かないのですか?」
椅子の上で脚を組んで日本茶を飲む金井先生の正面に座った。
「実は相談がありまして。
僕の欠落した記憶に関係ある事で。」
「う~ん。
それは…困った。
真朝君には止められてるんですが…。」
「ちょっとしたアドバイスとヒントだけで結構です。
田宮には内密にお願いします。」
「武本先生…?」
金井先生は僕の勢いに少しだけ動揺している風だった。
「わかりました。
曲がりなりにもカウンセラーですしね。
仕事の一部としてお引き受けしましょう。」
「ありがとうございます。」
金井先生は以前僕が話しをした事をキチンとメモしていたらしい。
カルテのような物を取り出した。

「記憶の方はかなり危険と判断してるので、まずは武本先生の現状を見たいと思います。
少しだけテストを受けて頂けますか?」
「テストですか?」
「今の精神状態を知りたいので。
簡単に考え下さい。
その方が正確に出ますから。」
僕は金井先生の差し出したテストをサラサラと記入して行った。
「少しの間待って下さい。
データを取り込みます。」
金井先生はスキャナーでテストをパソコンに取り込んだ。
カチャカチャとパソコンを操作して行く。
「これは…。」
金井先生は驚いたように僕とパソコンを交互に見た。
「何かわかったんですか?」
「正常な結果ではありません。
残念ながら…。
これほど偏ったデータを見た事がありません。
自覚はあるんですか?」
「あると言えばあるし、無いと言えば無いと言う感じで…。」
「…自己破壊…確か大学の授業で似た症例を扱ったような気がしますが…。」
「自己破壊…ですか?」

「武本先生は…今…死にたいですか?」
「!!」

「いいえ。自覚はありません。」
「そうですよね。
でも、データ上では自殺願望が出ているんですよ。」
「…やっぱり。」
「自覚は無いが…知っていたんですね。」
田宮や久瀬が見抜いた通りの検査結果だ。
金井先生は考え込んでしまった。

「僕は欠けてるんです。」
「欠けててる?」
「正確に言うと自分に都合の悪い性格や気持ちを封印していると…。」
「…そうですか。
すみません。
時間が足りないので、また今度いらしてもらっていいですか?」
「そうですね。
職員室で朝のミーティングが始まりそうですね。」
「それまでには僕の方も色々と調べておきます。」
「ありがとうございます。
よろしくお願いします。」
僕は深々と頭を下げた。

「真朝君の為ですか?」
席を立ってドアに手を掛けた僕に金井先生が問いかけた。
「いえ…自分を取り戻す為です。」
僕は振り向きそう言い放って部屋を出た。


職員室に行くと、いつもと様子が違っていた。
先生方の視線が僕に一斉に集中した。
「武本ー!ちょっと来い!」
「えっ、あ、おはようございます。清水先生。」
清水先生は僕の襟首を掴むと猛ダッシュで会議室にぶち込んだ。

バン!
「な、何ですか!?何事ですか?」
「ほれ、見ろ!」
清水先生は写真を机の上に置いた。
「何だっ!これ!ええ~!」

僕が上半身裸で葉月にキスをしている写真がそこにあった。
「違います!身に覚えないですよ!」
「バーカ!よく見ろ!合成だ。」
「へっ合成…?」
あ、本当だ片方だけ拡大して写ってる。
「誰がこんな…ってどこにあったんですかコレ!?」
「1年の掲示板に数枚ランダムに貼れてる。
お前…恨まれてるのか?」
「無いとは言いませんが…何で…こんな。」
「単なるイタズラだと思うが…生徒は面白がるだろうな。」
なんてこった…こんな事に関わってるヒマないってのに…。
「騒ぎが大きくならなきゃいいが、もし大きくなったら自粛して貰う可能性もあるな。」
「こっ…困ります!そんなの!」
来週には補習が…田宮との《勉強会》があるんだ!
「とにかく、今日一日は様子見だ。
なるべく荒波を立てるな!いいな!」
「…はい。」
僕は頭を抱えた。
あの写真…ロッカーで着替えてた時のだ。
誰だ…盗撮したのは…何の目的で…。

田宮も…彼女もこの写真を見たのだろうか…。
合成だとわかっていても…僕にとってはショックな事だった。
ガツッ!
腹立たしさと悔しさのあまり、会議室の椅子を蹴飛ばしてしまった。
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