手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

魔女への初勝利

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えっ…とこれはどういう状況だ?
放課後に入ってから、僕は職員室で確か生徒会長の広瀬に呼ばれて来たのだが…。
どう見ても目の前には魔女…田宮 美月がいる。
しかも、2人きり…生徒会室に鍵を掛けられた。

僕は一呼吸すると白衣に入れてあった携帯の録音機能をそっと入れた。
広瀬の呼び出しの時、清水先生がアドバイスしてくれていた。

「いやね~。そんなにビクつかなくても。」
「何の話だ?」
「わかってるくせに…。
金井の奴が嗅ぎ回ってるでしょ。
ウザいのよ!
武本先生…どうにかして頂けない?」
「何で僕が!」
「適度に金井に近づいてるでしょ。
妹は使えないのよね。
こういう仕事に向かないの。」
「お前なぁ。」

「ねぇ…先生…真朝の代わりに…私を抱いてみない?
テクニックは上よ。」
制服の上着を脱ぎ捨て開襟シャツのボタンを外し僕の身体を触り始めた。
「…お前…バカだな…。」
おそらく以前の僕だったら動揺していただろう。
でも、今の僕はその動揺する心が欠けてる。
「な!何よ!」
僕は蔑んだ目で魔女を見下ろした。
「その手が誰にでも通用するはずないだろ。
ましてや僕はそこら辺のガキみたいな童貞男じゃない。」
「チッ!仕方ないわ。
真朝がどうなっても構わないって言うのね。」
「ふん!都合が悪くなるとすぐそれだな。
お前は彼女に勝ってるつもりだろうが逆だ。
どぶネズミのようなお前は彼女には及ばない!!
やれるもんならやってみろ!
僕は全力でお前を潰す!」
僕は魔女を真っ直ぐに指差した。
「本気で言ってるの?
ここで、叫び声を上げてもいいのよ!」

「やってみろ!
お前との会話は録音済みだ。
しかも、清水先生と金井先生に今転送させて貰った。」
僕は携帯を魔女に見せた。
「この…武本の分際で!」
「僕を本気にさせるな!
僕の中には…狂気がある!」
「…狂気…そのようね。
こんなに人格が変わるなんて。
あの子がそんなに大事なの?
それだけ答えて貰っていいかしら。」
魔女はシャツのボタンをとじながら言った。
「大事だな。
誰よりも…何よりも。」
僕は迷わずにそう言った。
「そう。
わかったわ。
もう…妹に下手な手出しはしないわ。
こっちの身が危ないもの。」
魔女は生徒会室を開けて僕を解放した。

職員室へ戻る途中で清水先生が駆け寄って来た。
「お前…今の話し…。」
「大丈夫です。
それより転送した会話の保管お願いします。
これで魔女も下手に動けないでしょう。」
清水先生は目を伏せて僕の肩をポンと叩いた。
僕は初めて魔女に勝利する事が出来た。

勝った…君の為に戦って…僕は…魔女に勝ったんだ。

僕の胸の中には歓喜の声が響き渡っていた。
勝利の喜びを本当なら君を抱きしめて味わいたかった。

金井先生にも転送電話の報告をして、その足で
急いで旧理科準備室へと向かった。
彼女の顔が見たかった。

僕は急いで旧理科準備室に入ると中扉の小窓を覗き込んだ。
彼女はいつも通り、スケッチブックに絵を描いている。
「…田宮…君の為に戦ったよ。
そして…魔女に勝ったんだ…勝ったんだよ。」
僕は中扉にひたいを押し付けて呟いた。

「僕は…君に僕の全てをあげてもいいんだ。」

彼女には聞こえる事のない声…。
心の底から溢れ出る気持ちに嘘なんかなかった。

彼女はそんな僕に気がつく事なく、扉の向こう側で柔らかな笑顔で絵を描き続けていた。

「マジか?武本っちゃんすげ~!
クゥー!見たかったなその勇姿!」
夜になり、マンションから久瀬に電話を掛けて報告をした。
久瀬は興奮気味に喜んでくれた。
「ありがとう。
でも、喜び過ぎだ。」
「ンな事ねぇよ!惚れ直した!」
「…いや、そこはいらない。」
「後は明日からの補習と木曜日の《勉強会》で何が変わるかだ。」
「そうだな。
変えていかなきゃいけないな。」
魔女との対決で勝利した事はかなりの自分にとって自信となっていた。
この調子で記憶を取り戻し、自分を取り戻す。
僕の目標はそこへ向かっていた。

その夜は興奮し過ぎて眠れなかった。

こんなにプラス思考になったのは初めてじゃないかと自分でも思うくらいだった。
眠れないのに最高の夜だった。
ベランダの窓から夜空を見上げる。
彼女の上にもこの空が広がっている。
いつもは近くにいても遠く感じた彼女がなんだか遠くにいるのに近くに感じていた。

緊張していた補習と《勉強会》も楽しめる気がして来た。
彼女と2人の時間を楽しめるなんて…。
完全に顔が緩みっぱなしになっていた。
たとえ…クリスマスイブを楽しめなくても構わない。
僕には僕の大切な時間があれば…それだけで僕はやって行ける。
見返りなんて何1つなくても構わないんだ…。
唯一辛いのは…僕の気持ちを伝える事が出来ない事だけだった。

「大好きだよ…大好きだ…。」
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