手の届かない君に。

平塚冴子

文字の大きさ
136 / 302
2学期

体育館の中で

しおりを挟む
翌日は恒例の大掃除。
職員室のあちこちに掃除道具が持ち込まれていた。
僕はまた服が汚れそうなので上から白衣を着て準備をしていた。
「お前、本当に神経質だな。」
「いいんですよ。
白衣は元々汚れてもいいように着る物なんですから。」
清水先生は思いっきり、黒ジャージの上下で準備万端の体制だった。

基本あまり体育館は行かないので実は、どこをどう掃除させていいやら戸惑った。
「清水先生、体育館の掃除ってどこまでやればいいんですかね。
他のところよりも広くて、キリがないような…。」
「適当!適当!生徒の方が結構知ってるから、掃除の仕方は。
お前は監視だけしてりゃいいんだよ。」
「本当…清水先生って、いい加減ですね。」
「小さい事気にしてないだけだ!」
胸張っていう事じゃないよな…。
僕は冷めた目で清水先生を見つめた。

朝のホームルームの後、案の定葉月 結菜は僕のところに駆け寄って来た。
「先生!武本先生の携帯情報教えて下さい!
冬休みに連絡しますから。」
「いや…連絡なら学校にしてくれ。
大事な用なら事務が僕のところに連絡してくる。」
「そうじゃなくて!
個人的に連絡したいんです!」
「プライベートは生徒に教えないのが基本だ!」
って…牧田や田宮はとっくに知ってるけどな…。
「じゃあ!クリスマスイブ!
先生のマンションに行きます!」
「住所なんて教えないぞ!」
これも、田宮はバッチリ知ってるけどな。
「武本先生!私の事好きじゃないんですか?」
葉月の奴がエスカレートしてきた。
だから厄介なんだよ!
「お前は、僕の担任クラスの可愛い生徒!
それだけだよ。
それ以上もそれ以下もない!」
僕はいつもよりキツめに言った。
本当に今は葉月に構ってる余裕なんてないんだ。
「先生の意地悪!」
「いいから、お前の担当の家庭科室の掃除に行け。」
僕はそう言って葉月を振り切り、体育館へと向かった。

体育館にはひとクラス分くらいの生徒が来ていて、清水先生の言ったように勝手に掃除道具を出して掃除をし始めていた。
大きなモップで床を拭く奴、壁やドアを拭く奴、ステージの上を掃除する奴。
こっちが指示しなくてもやっていた。
…そう、確かに楽だった。
けれど、それには理由があった。

開けっ放しの体育館の寒さは尋常じゃなかった。
生徒達はとにかく早く終わらせようとしてるだけだった。

動いてる生徒はまだしも、立ってるだけの僕はかなり身体が冷えて来た。
寒いの弱いんだよ…くそっ白衣よりもコートが欲しい!

ガッガッ。
震えてる僕の足元を小突く奴がいた。
「牧田…わざとモップで何してんだよ。」
「大きなゴミかと思って…ていうのはウッソ!
武ちゃん暇そうだから構ってあげたの。」
「いらない気遣いだからなそれ!」
「武ちゃんに、いいものあげる。
ホイ!クリスマスケーキの割引券。」
「はっ?」
「うちの親戚、駅前のケーキ屋さんなの。
営業、営業。…必ず買いに行ってちょ。」
「何でだよ!」
「独りだろうと2人だろうとクリスマスはクリスマス!
ケーキくらい食べなきゃだよ。」
「独りでクリスマスケーキって最悪な絵面だぞ!」
「まあまあ。
騙されたと思って。
味は保証するからさ。」
「牧田には世話になってるし…わかったよ。
1つ買いに行くよ。」
「毎度あり~!
あ、夕方は予約の配布優先だから夜の8時以降にしてちょ。」
「時間指定もあんのかよ!
面倒くさいな。」
僕はしぶしぶ、割引券を胸ポケットの手帳に挟んだ。

「田宮は…その別の掃除担当なのか…?」
「えっとね。いるよ。ここに。
体育館倉庫片付けてるはず。」
牧田は体育館内に併設されてる体育館倉庫を指差した。
体育館倉庫か…。
体育館倉庫にはちょっとだけ恥ずかしい経験あるからな…。

僕は体育館倉庫の扉に手を掛け、閉められない体制をとりながら、中を覗いて見た。
「どうだ、終わりそうか?」
ボール入れをチェックしている田宮に声を掛けた。
「後、もう少しです。
ボールの数のチェックで終わります。」
彼女は振り向かずに言った。
「ボード貸せ!書いてやるから、ボール数えろ。」
「あ、えっと…。」
「寒いんだから、効率よく終わらせろ!」
「はい。じゃあお願いします。」
彼女は申し訳なさそうに僕にボードを手渡した。
「じゃあ、バレーボールから。
次はバスケットボールな。」
体育館倉庫の開いたドアに寄りかかって、僕は田宮と共同作業で仕事を早めに終わらせた。

「よーし!掃除終わりだ!
各自教室へ移動!解散!」
生徒達は僕の指示を待ってましたとばかりに、猛ダッシュで体育館を離れ始めた。
「田宮!」
「はい。」
僕は体育館から出ようとした彼女に声を掛けた。
「施錠の確認手伝ってくれ。」
「はい。では、効率よく反対側から確認して行きますね。」
「頼んだよ。」
僕等は2人だけで広い体育館のドアを全部施錠確認して行った。
お互いに視線で施錠確認の合図をしながら。
視線が合うたびお互いに笑顔になって行く。
言葉じゃないもので通じ合う感覚が心地よかった。
そして…最後に2人で体育館を出て外から施錠した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

処理中です...