手の届かない君に。

平塚冴子

文字の大きさ
167 / 302
3学期

繋げない手

しおりを挟む
僕は食事をしながら、土曜日の金井先生の応援の事を聞こうかどうか迷っていた。
彼女は一応会話もするし、笑うけどやっぱり牧田も感じてるように様子がおかしかった。
少し黙り込むような仕草を見せていた。
「じゃあ俺は行くな。
推薦入試担当者に去年の引き継ぎあるし。」
そう言って清水先生は僕の肩を叩いて席を立った。
すでに食堂には人が僕等3人しかいなくなってた。
「あー!銀子ちゃんもスキー体験合宿実行委員の仕事あったー!
先に行くね。
ジュースは明後日おごってちょ!」
バタバタと牧田まで退席した。

おいおい!白々しすぎだぞ!
2人共!!
…でも、話しを切り出すチャンスと言えばチャンスか…。

僕は深呼吸をして彼女の方を見た。
「その…土曜日に何かあったんだろ。」
彼女を見つめて直球で聞いてみた。
「…何かってほどじゃ…私がダメなだけで…。」
「ダメ…?何が?」
「金井先生は優しくしてくれてるし、別に嫌ってる訳じゃないんです。」
彼女はそう言いながら自分の左手を見つめた。
「手がどうかしたのか?」
「手…繋げないんです。」
「はっ?えっ…僕とは普通に繋いでたよな。」
「そうなんですけど…。」
そう言えば…金井先生が彼女の肩や腰を抱く事はあっても手を繋ぐ事はなかった。
あれは…田宮が拒否していたのか?

僕の脳裏にあの天使の裏の字が浮かんだ。
…手…
彼女と手を繋げてるのは、もしかして僕だけなのか?
それって…嬉しいような…複雑なような…。
つまり…僕は彼女にとって特別って訳じゃなく…空気みたいに意識しなくて済む相手だって事なんだ。

「田宮!」
僕はテーブルの下で彼女のつま先を突いた。
「何してるんです?」
彼女が突き返してきた。
「やったなぁ!」
今度はつま先を軽く踏んだ。
「もう!何がしたいんですか!」
また彼女が踏み返してきた。
「えい!」
「ふざけないで下さい!」
「田宮がやめろよ!」
「先生が先にやめて下さい、」
そうやって、少しの間じやれあった。

「ほら、こんな風に少しづつでいい。
焦るな。
田宮には田宮のペースがあるだろ。」
「…!…はい。」
「金井先生は大人だ。
それくらい充分にわかってるさ。」

まだ…少し戸惑っている彼女の左手を僕は両手で握った。
「…田宮。
僕の手はどんな感じだ?」
「大きくて…暖かくて…落ち着きます。」
やっぱりドキドキとかはしてくれないか…。
僕はこんなにもドキドキして興奮してるのに…。
僕はそっと彼女の指の間に僕の指を絡めた。
「先生…?」
ドキドキする。
この柔らかく細い指の間に僕の指が入り込んで…彼女の体温を感じられる…。
でも…彼女はそんな風には感じてくれてないんだ…。
「…ごめん。
その…気持ち良くて…。」
「じゃあ、もう少しそうしていて下さい。」
「えっ…。」
「私も落ち着きます。」
彼女は柔らかく優しく笑った。

僕はしばらくその手を…その指を…彼女とお互いの体温を確認し合うように絡めていた。


職員室に戻ると、ニヤニヤした顔で清水先生が僕の顔を自席から見上げた。
「お!なんかしたな?
顔に書いてあるぞ!」
「ないですよ。
まったく、すぐ勘ぐる癖やめて下さい。」
「ちぇっ。せっかく席外してやったのに。
ま、明後日からは何が起こるかわかんねーぞ。
気合い入れて行けよ。」
「わかってますよ。」

手を繋げないというのは、一種のコミュニケーション障害なのだろうか。
それとも心理的な物…。
僕の手が繋げるのは同調(シンクロ)という事なのだろうか?
僕と田宮が近いというのはこういう事も含むのだろうか…。

どっちにしろ僕は彼女に男性として見られていないのだろう。
先生…友達…知り合い…その程度だ。
彼女を僕がドキドキさせる事なんてないのかもしれない。

僕はそれを…全てを承知の上で彼女を愛さなければならないんだ…。
見返りなんてクソ喰らえだ…!
僕の彼女への想いはもう止める事は出来ないんだ。

僕は職員室での仕事を終えると、旧理科準備室へと向かった。
金井先生もそうだが、田宮 美月がもう何もしないという保証はどこにもない。
監視は続けなければならないんだ。

旧理科準備室の中に静かに入って中扉の小窓から彼女の存在を確認する。
実験台にもたれ掛かって眠っている。
スケッチブックを敷いたまま。
何か描いていた途中で眠くなったようだ。
「寝顔か…。」
クリスマスの日…朝の彼女の寝顔を思い出した。
僕の腰に手を回して、幸せそうな顔で眠っていた。
思わず口づけしたくなったくらいだ。
僕は扉のこちら側で右手の小指を噛んだ。
切なくて…。恋しくて…。

ほら、君をこうやって見ているだけなのに…僕の胸はこんなにも激しく高鳴っていく。
好きで…好きで…たまらなく好きで…。
もう誰にも止められないんだ…。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...