手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

スキー体験合宿1日目その3

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1人用リフトに並ぶ田宮の腕を僕は掴んだ。
「あっちのリフトの方が早い。行くぞ。」
僕はペアリフトを指差した。
「あ、はい。」
僕等はペアリフトに並んだ。
ペアリフトはカップルしかほとんど使ってないので回転も早いし空いていた。

「せっかくのスキーだいっぱい滑らなきゃ損だろ。」
「リフト待ってる時間がもったいないって事ですよね。
確かに効率的にもこっちの方がいいですね。」
彼女はすんなり納得してくれた。

本当は別な理由だ。
単に僕が君と一緒にリフトに乗りたかっただけだ。
リフトなら2人の会話もできる。
彼女を間近で感じられる。

リフトの順番が来て僕は彼女とリフトに乗った。
彼女はスキーをプラプラさせていた。
「先生…先生は姉を嫌いですか?」
「えっ…。」
いきなり田宮 美月の事を聞かれ驚いた。
ハッキリ言えば嫌いだ。
だって君をあいつは…。
「あまり…好きなタイプじゃない。」
「そうですよね。
先生は姉のしてる事を知ってるから。
でも…私にとっては…いい姉のうちに入ります。」
「はああ?いい姉?」
何言ってんだ?そこまで洗脳されてんのか?
「姉が私を利用してるのは知ってます。
でも、そのおかげで、必要な物も買って貰えるし…学校にも行かせてもらえました。
他の生徒と同じ生活が出来てるのも、姉のおかげなんです。
姉がいなければ…きっと私はゴミ屑のような扱いをされていたと思います。
だから…利用されるのなんて平気です。
どんな理由であれ…姉には恩を感じてるんです。」
「田宮…お前…。」
「だから…あまり姉をいじめないで下さい。
いつか、自分のやってる事の罪深さに自ら気がつく日が来ますから。」
「…だよ。
なんだよそれ!
そんなの理由になるか!
そうやって、自分ばっかり犠牲にして!
姉が…母親が…お前に何か言うたびにお前はストレス感じて傷ついてるのに!
もっと自分を大事にしろ!
お前だってもっと自由生きる権利はあるんだ!」
僕は無償に腹がたった。
自分を蔑み、傷つけ、利用する姉を擁護する彼女の優しさが…それに漬け込む田宮 美月に…憤りを隠せなかった。

「…ふふふ。
先生ってやっぱり…変…。
私なんかの事でそんなに気を使わないで下さい。」
「あのなー!
その《私なんか》ってのやめろ!
お前にはちゃんとした存在価値があるんだ!
お前を大切に思って…。
お前の事を好きな奴だって…いるんだ!」
「…ありがとうございます。
武本先生は優しいですね。」
違う!優しさなんかじゃない!
僕は…気が狂いそうなほど…君が…。

「!」
彼女が急に僕の肩にもたれかかってきた。
うつむいてる…。
泣いてるのか?
僕はそっと彼女の頭を撫でた。
そして、そのまま無言で頂上まで着いた。

「田宮!さっきみたいなのは無しだ。
一緒に滑ろう。ゆっくり。」
「…はい。」
彼女は振り向き、照れ臭そうに微笑んだ。
この素直な時の彼女は僕の心を幸せにする。
可愛くてたまらねー!

僕は彼女と一緒に滑り降りた。
まるでデートしてるカップルの様に。
時折、視線を交わしつつ、コースを2人で決めたりした。
眩しいくらいに雪に光が反射して彼女の姿を輝かせる。
テンションはMAXだった!

2人の時間はあっという間に過ぎた。
12時半、ロッジ前に参加者全員が集合した。
「えー。これから昼食休憩に入ります。
時間は1時間。
その後2時間滑り、午後3時半ロッジ前に集合ロッカーで着替えてホテル移動になります。」
ロバ先生が拡声器で説明をした。

大型ロッジ内の軽食堂で生徒達は各自食事を始めた。
職員は固まって食事をする事になった。
「あれなんだよ。」
清水先生が僕の肘を突いた。
「えっ…。」
「物凄い勢いで姫と競争してたろ。」
「ははは。
見てたんすか…。」
「お前は一応、指導者だぞ。
一緒になってムキになるな。」
「はい。すいません。
反省してます。」
「…と言うの建前で…。
リフト乗ってたろ…2人で。」
「ぶっ!あんたどこまで見てんですか!?」
思わず焦って突っ込んでしまった。
「双眼鏡でじっくりロッジから見てたんだよ。」
「双眼鏡でって…。」
オヤジはぁ!下衆すぎだっつーの!
僕は頭を抱えた。
つまり、この先も見てるって事だな…双眼鏡で。くそっ。

正面にいたロバ先生が僕に話しかけてきた。
「武本先生。
1年の実行委員からの明日の予定を確認しておいて下さいね。
武本先生と清水先生は観光グループ担当ですよね。
2年の観光グループの担当は僕ですので何かあったら連絡下さい。」
「あ、わかりました。
ありがとうございます。」
「清水先生は慣れてるでしょうが、武本先生は初めてでしたよね。
観光案内のパンフレットも後でお渡ししますので、下調べしておいて下さい。」
「はい。」
ロバ先生は小さいけどかなり面倒見のいい先生なんだな。
2年との接点がほとんどないから仕事面でこんなに頼りになる人とは思ってなかった。
白いウエアでちんまり座る姿は、金髪の外人観光客の子供かと思うのに。
人は見かけによらないと改めて学んだ。
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